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第十話・脱出芸

 丈二の姿が、屋上にいる者たちの視界から消えた。


「バッ……バカかアイツ! ここ四階建てだぞっ!?」


 リーダーが慌てて屋上の縁へ走り寄ろうとする。が、それを引きとめる声が背後から響いた。


「何をしているんだ、お前たち!」


 校舎内へ続く扉から、白髪まじりの教師が現れた。


「げぇっ!? 生活指導の根岸!」


「上級生が後輩をカツアゲしているという情報を聞いてやって来たが……本当だったようだな」


 数人の三年生に、一年生が一人。そして床に散らばった現金。この状況なら、カツアゲに見えなくもない。


「ちっ違うッスよ先生っ! 俺たちは……」


「問答無用だ! 職員室に来い!」


 根岸と呼ばれた教師は、学内の風紀に厳しいことで知られている。前々から何かと素行の悪かったリーダーたちにとって、天敵となる存在であった。しかも、今回は大損したとはいえ、後輩から不当に金を巻き上げていたことは確かだ。従う他ない。


「君も、一応来てくれるかな」


「あ……はい」


 一年の男は、素直に従った。突然の展開についていけない様子だ。


「……クソッ。アイツ(光助)かッ!? アイツがチクりやがったのか!?」


「余計なことはしゃべるな。……職員室に書き置きがあったんだよ。女子の文字でな」


「女子……? クソ、一体、どうなってんだ今日は!」


 リーダーの悔しがる声が、晴れ空に響き渡った。




 遡ること一分前。


「……光助さーん!」


「お? 坊主。なんをしょっとけぇ、こげんとこで……」


 光助は、職員室のある校舎と、体育倉庫の間にある狭いスペースに移動していた。この普段は人が入ってこない場所に、直人は一度見失った光助を求めてようやく辿りついたところだった。


「あ、あの……一つ質問が」


「まぁ、待ちぃや。坊主」


 光助は、手で直人の言葉を制する。堀の深いその顔は、よく見ると困っているような表情が浮かんでいる。


(のさんこつん(厄介なこと)になったなぁ……。なんでこげな所に坊主が来っとけ? アレを見られっと余計にマズイな……)


 懐中時計を確認する。もう予定の時間だ。


「光助さん?」


「坊主、ちぃっとの間向こうで待っとき! すぐ行くかい!」


「え?」


 直人は光助の要求の意図がわからず、立ち尽くす。


「いいかい、早く向こう行けや! ここは危ねぇど!」


「は、はい!」


 なにやら真剣に焦っているらしい光助の迫力に押され、直人は背を向けて走り出した。しかし、一瞬遅かった。


『バカ野郎っ! そっちは……おいっ!?』


 どこか、上の方から声が聞こえてきた。


「えっ、なに? 今の……」


 声の出所を探す直人の目に、何者かが屋上から飛び降りる光景が映った。


「う、うわっ!?」


「ジョー、こっちやっ!」


 光助が叫ぶ。それを聞いて、直人も屋上から落下してくる人影が丈二であることに気付いた。


「丈二君っ!?」


 その丈二が、急激に高度を下げて光助に迫ってくる。


「うわあああっ!」


 直人は叫び、おもわず目をつむった。


(た、たたた大変だっ! 飛び降り、落下、死……っ!?)


 いやなイメージばかりが、直人の脳裏を巡った。目を開けたくとも、恐怖のためにまぶたが上がらない。


「あれ? なんで積里君がここにいるんだ?」


(……え?)


 丈二の声だ。なにごともなかったかのような、平然とした声である。


 恐る恐る、直人は目を開ける。


「…………は?」


 今度は、開いた目と口がふさがらなくなった。それほどあまりにも奇妙な光景だったのだ。


「なぁ光助。なんで積里君がここにいるんだって」


 そう話す丈二の体は、地上から一メートルほどの高さのところに浮いていた。と言っても、ファンタジーものに出てくる超能力のように浮かぶのではなく、蜘蛛の巣にかかった蝶のように、頭を下にして浮いていた。ぶら下がっている、と表現するのが適切かもしれない。


「知らんわい。どれ、ちゃっちゃと降りぃ」


 よく見ると、丈二の体の下に透明の糸のようなものが見える。その糸の先を視線で追うと、校舎と体育倉庫の間に複数張り巡らされていることがわかる。丈二は、空中につくられた透明のハンモックに引っかかっていたのだ。


「見られたもんは仕方なかろう。坊主、ジョーを下ろすのを手伝っちくり」


 光助はボリボリと頭をかきながら、直人に声をかける。


「……」


「坊主?」


「あ……はい」


 クラスメートが空中にぶら下がっている光景を目の当たりにし、あっ気にとられて固まっていた直人はようやく正気に戻った。


「んしょ……と」


「よっ。着地成功!」


 丈二の体が、地上に降り立った。


「どうやった?」


「成功に決まってんだろ。最低限の目的はキッチリ果たしたぜ」


 二人は「仕事」の結果を確認し合う。すると、そこにもう一人の声が混じってきた。


「ちょっとアンタ達! なんで積里君まで連れて来ちゃってんのよ!」


「おー、結子」


「平崎さん……」


 今、ここへ到着したらしい結子が肩をいからせて三人に迫ってくる。


「アンタ達、あれだけ仕事のことは秘密とか言っといて、なにやってんの!?」


「まぁ、なんだ。落ち着け結子。おりゃらが連れてきたわけやねぇ」


 怒る結子に対し、光助は妙に冷静だ。


「もう、秘密とかなんとかよだきぃ(面倒だ)し、いっそバラしてんいっちゃね?」


「うっわ、相変わらず身勝手……」


 そしてまたまた、話についていけない直人であった。

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