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第四話


 翌日、綾香は宿題をし忘れてしまっていた。

 昨日、よく分からない事を考えていたせいである。


「珍しいな。間渡が宿題を忘れるとは。今日中には提出しなさい」


「はぅ。すみません……」


 教師にそう言われつつも、それでも綾香は授業中ずっと気になっていた。


(昨日……おっきな〝残滓ざんし〟があって、それが蛇みたいになって、そしてあの人が現れて……)


 そんな綾香を心配したのか、友人で隣の席の上崎絵理かみざきえりが綾香に声をかけてくる。


「綾ちゃん、どうしたの~? なんかあったの?」


「う、うーん。あったと言うか、何と言うか……」


 自分が魔術師である事は、たとえ仲が良い絵理であっても、話す事は出来ない。



 心配そうな顔をしている絵理は、女子にもてる。 

 短く切ったベリーショートの髪と、キリっとしたその顔立ちから、彼女は美男子にも見えなくもない。

 綾香の中学の時からの友人であり、その頃から絵理は何度女子から声をかけられたか。


 だがそんな絵理は、中身は普通に男性アイドルが好きな女子である。


 その絵理に返答しつつも、綾香はどうしても気になったので、調べようと考えた。



 忘れた宿題は、昼休みの間に終わらせた。


 そして放課後、綾香は具合が悪いから、と部活を休んで、昨日の展望公園に向かった。


 そして、展望公園に着いて周りを見ながら考える。

 今、この場所には人は居ない。


「確か……今日は、学校の外側で走る事は無かったはず……だから、みんなここには来ないよね。うん。大丈夫、大丈夫……」


 綾香は、嘘をついて部活を休んだ後ろめたさで、まずそこから考える。

 部活のメンバーに見つかりたくない、という至極普通の理由だった。

 

(……それで、昨日……ここに出たんだよね……)


 そう思いながら羅針盤を見る。

 だが羅針盤には何の反応も無い。


「あっ、木は……良かったぁ。どこも傷とかは無さそう」


 公園の大樹を見遣るが、どこにも損傷は無かったので安堵する。

 その後に展望公園の、実際に街を見渡せる場所に足を運び、街を見渡す。

 

「うーん、良いお天気。……じゃなくて、えーっと、あの人ここから飛び降りて…………うん……これ、普通じゃ無理…………」


 あの時の人物が、ここから飛び降りた事を思い出す。


 下は木々で覆われた崖のようになっおり、その下には二段目の公園がある。

 三段目、それは一番下の公園であるが、そこは道路があり、それを隔てて学校の裏門近くまで公園が続いている。


 だが、この一番上の展望公園は、普通なら飛び降りてどうにかなる高さではない。


「やっぱり、魔術師……? うーん、家になら何かあるかな?」


 綾香は家の父の部屋に行く事にした。

 この時間ならば、母はパートに行っており、まだ戻って来ていないからである。


 少し小高い坂の上に、綾香の家がある。

 古い建物で、改築はしているが、昔からここに先祖が代々住んでいたらしい。

 だからなのか、綾香の家の敷地や建物は、他の家より少し大きい。


 そして家に戻って、家の中を確認したが、母はやはりまだ仕事なのだろう、帰っていない。


 綾香はその隙に父の部屋に行った。

 そこには大量の書物もあるが、そこにあるのは普通の書物である。

 だが、父の部屋には隠し扉があった。


 そこには地下へ続く階段があり、その奥に隠し部屋がある。


 そこがこれまで綾香が、父から魔術を教えてもらった場所でもあり、そういった文献がある場所である。


「えーっと、うーん……ど、どれを見たら良いんだろ? ……ま、この辺を適当に持っていけば良いかな」


 実際、難しい文字や、外国の文字で書かれている物も多い。綾香もそういう文字は多少は分かる。

 しかしまだ綾香には難しすぎた。


 綾香は適当に書籍を見繕って、自分の部屋にこっそり持ち帰った。


 その後、自室でその書物を読むが、どうも魔術や、魔術師の事しか書いていないようである。

 そして、やはり難しい為、半分くらいしか理解が出来ない。


「難しいよぅ……えーっと、この文字は、と…………あ、これ。ふーん。こんな術もあるんだ……」


 綾香の目的は、魔術師でない者で、魔力を扱うような存在が居るのか、と言う事を探す事だったはずである。

 しかし綾香は、書物を読んでいるうちに他の魔術の方に目移りしていっていた。


「うーん、これ難しいかな……この魔術、私じゃ、まだ無理かも……」


 今、綾香が見ている術は、夜よく寝る事が出来ると言った魔術や、相手に思いを伝える魔術、それから望んだ夢を見る魔術等、もはや当初の目的とは違う物であった。


 そして、綾香がそんなところばかり見ている間に時間が過ぎ、母親が帰ってきたようである。


「あっ、帰ってきちゃった。あっ! ち、違う所ばっかり見てた……」


『あら、綾香? 帰ってるの?』


「う、うん!」


 玄関から母、沙智子の声が聞こえていた。 

 母には、部活が早く終わったからと言って、その場を凌いだ綾香。


 綾香は晩御飯を取り、今日もまた、いつものように〝残滓ざんし〟の探索に行った。


 もしかすると、今日もまた、あの人物が居るのでは無いかと思ったが、学校の周りを一周しても普段通りの街であった。


「うーん、こ、怖いけど……あそこ、行ってみようかな……」


 そして、昨日あの肥大化した〝残滓ざんし〟があった、展望公園に上ってくる。

 昨日は、慌てて来たのであまり感じなかったが、夜のこの展望公園は満足な灯りは無く、薄暗く、少し怖い。

 

「うー……き、昨日よく来れたなぁ、私。偉いっ」


 だが、今日はこの公園に来るのは、二度目の綾香。

 〝残滓ざんし〟も無く、あの男も居ない。


「うー……もうっ。出てきてくれても良いのにっ。今日なら、ちゃんとお話も出来そうだったのにぃ」


 そんな事を呟きながら、諦めて、家に帰ろうとした。

 だが、三段目の公園に下りて来た所で、羅針盤が光り、方向を指した。


「あっ。で、出ちゃった。……えっーと……、こっち?」


 その反応は、すぐ側であった。

 この鷹城公園の、一番下の公園の中には、池がある。

 そして、その池を跨ぐ、ここの街では有名な諫見橋いさみばしが存在する。


 どうやら羅針盤の反応は、その橋の手前側であった。

 そこに小さな黒いもやがある。小さな〝残滓ざんし〟であった。


「今、出たばっかりかな……あ、処理しないと。えーっと。黒き闇、我が身に宿りし、光に滅せよ。”聖光縛呪シャインティラス”」


 それはすぐさま消滅した。


「……ずいぶん、根性の無い〝残滓ざんし〟……ま、いっか。今日はこれで終わりっと。帰ろ」


 〝残滓ざんし〟に対して、根性が無い、と言う綾香は、男の事は忘れて、家に戻った。

 そして、いつものようにお風呂に入り、宿題をしてから、綾香は寝てしまった。 



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