第三十二話
――あの日から、数日経っていた。
異世界の異物が後、八匹。
しかも、彰人が主に使う術の源、”聖光力”が回復しない世界で。
それなのに、もう半分しか残りが無い。
この世界に入り込んだ異物は十二匹。
そのうちの四匹倒すのに半分消費した事になる。
となると、計算が合わない。
普通に計算すると、あと半分足りない。
使った術の還元は終わっている。
体にはもう問題は無い。
しかし、”聖光力”は回復しない。
それでも、良い面もある。
それは、魔術を扱える、そして異物を排除出来る綾香が居る事。
その綾香には、自分の最も扱う術の、”聖光力”が残り半分だとは未だ言えない彰人だった。
(――さて、どうしたものか)
正直に話しても良いのだが、通常の、”聖光法術師”から考えると、まだ二十人分くらいの力はある。
つまり、彰人は四十人分くらいの膨大な、”聖光力”を保持できる。
普通の術師は不可能なのだが、そこら辺りは普通でなかった彰人。
しかし、人には得手不得手があるもの。
実は彰人、その膨大な”聖光力”を、あまり上手く扱えていなかった。
と言うより、扱える術が、通常の”聖光法術師”よりもずっと少ない。
単純に、ややこしすぎて覚えきれなかった。
ただそれだけ。
だから異世界では、彰人は術師としては見習い止まりだった。
膨大な”聖光力”を持っているのに、とも嘆かれた。
テニには宝の持ち腐れだと言われた事もあった。
しかし、一番高等術の、とある禁術は覚えれた。
その術は、詠唱よりも、感覚が物を言う術であったからである。
それでもそれは普段は使わない。そしてこの状態では使えない。
たとえ使えても、危険すぎて、まずこの世界では使わないつもりである。
そしてそれも問題なのは確かである。
が、目の前に更に難解な問題があった。
そこには、術式の詠唱よりもややこしい文字。
目を落とすのは机のプリント用紙。
今は学校の授業で、テストの真っ只中だった。
(ローマ字は分かる。が、訳せ、と言われても、……これ分からん)
術とテニの補佐で、不正で転校して来た彰人。
(……全く分からんぞな)
当然、必須レベルに達していなかった。
「おーい、黒川。次も模擬テストだぜ。おうっ、どうしたどうした。さっきの模擬テストが駄目だったのか?」
このしばらくで、彰人にも友人が出来ていた。
短髪で元気の良い友人、甲斐幹久
お調子者の、しかし、ムードメーカでもあり、普段のこの感じからは分からないが、実は成績も良い。
「駄目だ。さっぱりだ。俺には、覚える物は向かん」
「まあ、気にするなって。次、数学だぜ」
「そっちも、さっぱりだ」
「黒川って、なんでそれで、この高校に入学出来たんだよ。なんかコネでもあったのか?」
「コネのほうが良かったのかもしれん……」
不正転校してきたとは言えない。
結局彰人は、その次の模擬テストもさっぱりで、放課後、補習になってしまった。
●●●
「黒川君、補習になっちゃったねぇ」
「……う~ん、あそこまで、成績悪いと思わなかった」
綾香と絵理は部活に向かう。
今、彰人は補習中。
それにしても、全然この高校の水準を満たしていない。
綾香は少し心配になった。
「ここ入れたの、まぐれとか?」
「そうかも……」
答える綾香は知っている。
彰人は普通にここに転校してきたのではない。
そして、今まで異世界に居た。
そこで、気が付いた。
(あれ? 異世界に行く前は、ここの平行世界に居て、それでここの高校に居たんじゃ……?)
ならば、分かるはずなのだが、と思ったが、そういえば彰人は記憶を無くしたと行っていた事を思い出した。
(覚えてないのかな……? それとも、元々勉強苦手だったりして……)
絵理はブラスバンド部へ、そして綾香は弓道部へ向かっていった。
●●●
補習中の彰人。
(……さっぱりぞな)
綾香の推測は正しかった。
彰人は、確かにかつてはこの高校にちゃんと入学試験を受け、そしてそれに受かり入学した。
だがある時、突然異世界へ飛ばされた。
その時に記憶を失った。
最近は思い出せてきている。
普通の思い出くらいなら。
だが勉強は苦手で嫌いだった彰人。
そこは、思い出せていなかった。
不幸中の幸いに、中学レベルの勉強なら思い出せていた。
しかし、高校の勉強は思い出せない。
今、必死に勉強を続けていた彰人だった。
(……訳わからんっ…………”聖光心検視”使いてぇ……)
●●●
「緑先輩、こんにちわ」
「ああ、綾香。あら? 黒川君は?」
弓道部の女子部長、緑菜穂は既に弓道衣に着替えている。
そして、綾香と彰人が普段は一緒に来る事が、最近では当たり前だったので聞いていた。
「えーっと、補習中です……」
「あら、そうなの。え? 彼、勉強出来ないの?」
「そうみたいです……」
「綾香が教えてあげなさいよ」
「うーん、教えても、あんまり理解されないです……」
実際何度か綾香は教えた。
が、彰人には、基本から教えないと理解されなかった。
そして、このように補習になると、その分、部活の時間が削られる。
「はぁ。男子の期待の新人なのにねぇ。終わったらちゃんと来るんでしょ? 来てくれるわよね?」
「はい。多分」
確かに、彰人は弓道は上手い。
部員が少ない男子部員では、期待されてもおかしくない。
綾香も準備をしながら、ふと思う。
(んー、でもなんか、緑先輩……彰人君の事をずいぶん気にしてるような……)
確固たる根拠がある訳ではない。
綾香の勘である。
菜穂はここの女子の部長。
男子の部長はちゃんと居る。
だが、それなのに、少し彰人の事を気にしすぎのように感じる。
いやいや、と綾香はその考えを否定する。
菜穂は勉強も出来る、弓道でも部長を務める。
そして、長身、セミロングの綺麗な黒髪、そして、それに似合った、美しい容姿。
何人、この人に、アタックをして玉砕した男子が居ることか。
そんな女性が、いくら弓道が上手であるからと言って、それは無いはずだと、考える。
だが、もしそうであったら、彰人はどう反応するだろうか。
もしも、菜穂が彰人へ好意を抱いているのなら。
しかし、それは無いはず。
自分よりもずっと接点が少ない菜穂が、あの彰人にそのような感情を持つなどと。
そして、綾香が練習をしていると、補習を終えた彰人もやってきた。
「……あー、面倒。訳分からん。あ、お疲れ様っす」
「補習、お疲れ様。ちゃんと来てくれたわね」
「ええ、まぁ。ちゃんと来ましたよ」
「もっと勉強もしてくれないと。部活の時間が削られるわ」
やって来た彰人に、菜穂が話しかけていた。
弓を引きつつそれを聞いていた綾香。
(絶対違うっ。違う、違う。そんな事は無いはず)
綾香はなにやら、気が気でなかった。
●綾香●使用術一覧
”聖光縛呪”……魔術。間渡家で独自に創り出された術。かつての魔術の残滓を消す事ができる。それ以外の効果は無い。
詠唱:『黒き闇、我が身に宿りし、光に滅せよ』
”聖光弓一線”……魔術。間渡家で独自に創り出された術。光りの弓矢のような術。対象を物理的に、消滅させられる。術の放出力は調整出来、出力を抑えれば、電気が走ったようになる。高めれば、さまざまな物を貫く威力を持つ。何故だか彰人の”聖光法術式円陣”に反射する。
詠唱:『我が身に宿りし光よ、その闇夜を薙ぎ払え』
”闇影忘却”……魔術。通常の魔術の一種。一時その対象が、気にならなくなる。魔法陣でも使用が可能。
詠唱:『其の物を知る者は皆無』
”解除”……展開術を解除する。熟練していれば、詠唱は破棄できる。
詠唱:『我その力解放す』




