第二十一話
〝残滓〟を探しに学校側の鷹城公園に向かう二人。
「ねぇ、彰人君て、前は、ここの所の平行世界に居たんだよね?」
「らしいな」
「らしい?」
「覚えてないんだよ。知ってはいるけどさ」
「え? ど、どういう事?」
そうして、彰人は話始めた。
彰人は元々は、ここの世界の平行世界の出身でありつつも、異世界へ飛ばされて、その際に記憶を失った事。
異世界に飛ばされてからは、しばらくそこで過していた事。
そして、最後には、世界の理から外れた存在になってしまい、今に至る事を。
「じゃあ、その時の記憶、無いんだ……」
「まぁな」
だが、ここに来て、この街に来てから、彰人は記憶が少し戻り始めていた。
懐かしいと感じる。そして、そうだった、こうであったと思い始めていた。
「突然、異世界に行ちゃったの?」
「そう、突然。多分な。そこらへん曖昧なんだよ」
「じゃあ、彰人君、その時は、一般の人だったの?」
魔術師である綾香は、自分が一般の人間では無いと自覚している。
「そうみたいだな。普通に生まれて、普通に生活してたっぽい」
「じゃあ、彰人君が使ってる、あの術は……」
「そう。飛ばされた、異世界の術だ」
「私にも、使えるかなぁ?」
「いや、それは止めといた方が良いな」
この世界では、”聖光法術”は強く発動してしまうようである。
あまり強さに関係ない、”聖光法術式円陣”等なら問題無いが、それ以外の術は危険そうであった。
それに、”聖光法術”を使えるようになるには、その異世界の、とある洗礼を受ける必要がある。
彰人はそれは出来ない上、この世界にはそれが挙行する者は居なさそうであった。
(それに、そもそも聖光気が存在するかもどうかも――)
「でも、じゃあ、今、彰人君が居る世界って、何処なの?」
「ん? ああ。”白夜世界”って所でな。俺みたいな、異端なやつが集まってくる場所だな」
「どんな所?」
「なんも無い。白ばっか。そんな所だ。面白みもなんも無いぞ」
「ふーん」
綾香は、分かったのか分からないのか、そんな相槌をうってくる。
(ま、ピンと来ないのも無理ないよな)
そう彰人は納得する。
そして、二人は鷹城公園に着いた。
「じゃ、昨日は途中で終わっちゃったし。探すの手伝ってね」
「それは良いけどな。俺はその…………名前が分からん。それみたいには探せんぞ?」
綾香が持つ、羅針盤の事である。
彰人は、目視でしか〝残滓〟を探す事が出来ない。
「あっ、そうだっけ?」
「そうだ」
前に見つけたのは、本当に偶々であった彰人。
綾香には、その事は話した筈なのだが、失念していたようである。
「で、でも視えるんでしょ?」
「まぁ、視えはするが」
「じゃあ、目視で良いから手伝って」
「それで良いなら構わんが」
そうして、学校の周辺を回り始める。
「それにしても、人少ねぇな。この街」
「そうかなぁ。うーん、そうかも」
ずっと諫見に住んでいる綾香には、平々たる光景である。
「だとしてもさ。昨日みたく固形化してたらどうすんだ?」
「うぅー、そうなの……何で最近そうなちゃったんだろ?」
それは、もしかすると、異物のせいではないかと思った彰人。
彰人は、今度はその事を綾香に口述する。
「――という訳でだな。もしかすると、その〝残滓〟とやらに、異世界の異物が混入してる可能性が高い。もしかすると、それのせいかもしれん」
「えぇー? じゃあ、あれ、彰人君のせいなの?」
「いや、違うし。たまーにあるんだよ。ちなみに、俺が異世界に飛ばされたのも、そのせいだ」
「ほんとかなぁ……」
「嘘は言ってない」
そう言う事は、極稀にある。
そう、本当に極稀である。
数値で表すと、ほぼ皆無と表記されるような、あり得ない確立である。
それに、彰人は遭ってしまったのである。
「でさ、今、見回って、まぁ確かに人は少ないけどさ。そうなってたらどうすんだ?」
「うーん、どうしよう……」
その場合の対処法は、考えていない綾香であった。
そして、それが故に、彰人に手伝いを申し出たのである。
彰人は、あの固形化したウサギを、簡単に蹴り飛ばしていた。
そして、綾香が知らない術を扱える。
更には、あの龍の顔も踏み潰した。
悪い人では無いと、なんとなく思った綾香。
これまで、身内以外には、誰にも自分が魔術師である事を言えず、一人でこうして見回っていた。
少し、寂しかったのもあったのだった。
「そういや、”界順時停”が使えたな。あ、橋の近くで残滓を見つけなかったか?」
「え? あ、うん。この前、見つけたかな」
「なら、”界順時停”を使って、留めておいて、夜に消すってのはどうだ?」
「えーっと。その”界順時停”って、何?」
説明していなかったと気が付いた彰人。
「そうだった。ちょっと別の術なんだけどな。少しばかりその場所の時間を止めれる」
「えっ! 時を、止める!?」
「ああ」
彰人は、簡単に答えるが、綾香は絶句する。
時を止める。
それは、魔術において、禁呪と云われるほどの術でありつつも、そして、それを扱えた魔術師は、これまでに一人もいないと、父から聞いていた。
禁呪でありつつそうでない。
魔術理論だけが確立されたが、扱える者は皆無。
それは、ほぼ不可能であると断定されていた。
「あ、彰人君、じ、時間止めれるの?」
「いや、その場所だけな。で、多分一日も持たん」
「そそ、それでも、魔術師じゃありえないよぅ」
「だから、俺、魔術師じゃ無いって」
彰人は、出会った当初、自分は魔術師では無い、と言っていた。
ようやく、その意味が綾香にも分かってきた。
「ねぇ。じゃあ、なんて術師?」
「うーん、一応”聖光法術師”ってやつだけどな。でも、それも少し違うか」
「呼びにくいし」
綾香は、呼びやすさだけで判断していた。
「術師じゃなければ、世界の理から外れた異端者って感じだ」
「なんて呼べばいいの?」
「呼び方なんて無いぞ。その世界ごとで違うしさ。適当に異端者でいいんじゃね?」
「なんか、違うよ~」
綾香が知りたいのは、魔術師だとか、魔導師だとか、法力師だとか、そんな呼び名であった。
「うーん、じゃ、『異端児』、彰人君。あっ、それなら呼びやすいかも」
「一応、苗字は、黒川だ……」
『異端児』、彰人。
綾香に勝手にそう呼ばれるようになった彰人であった。




