第十九話
鳥の鳴き声が聞こえる。
(……んー)
彰人は寝てしまっていた。
風呂を頂き、飯も振舞って貰い、布団まで用意されてしまったのだ。
ベッドに寝そべり、ここに来る前の事を懐っていたら、寝ていたようである。
「ふあっ。あー、スズメか。懐かしいな」
こんな朝は、久方ぶりである彰人。
今日は土曜。
学校は休みである。
「……あー、しまった。異物探すの忘れてたわ……」
綾香の家でお泊りさせてもらっていた。
彰人は、借りた寝巻きから、ここに来た時に着ていた服に着替え、部屋を出る。
「広いなぁ。この家。えーっと、昨日飯食ったのは……」
昨日食事を食べさせて貰った、この家のダイニングらしき部屋に行く。
すると沙智子が朝御飯の支度をしているようだった。
「あら。お早う、彰人君。早いわねぇ」
「お早うございます。沙智子さん。……ありゃ? 綾香……さん、は?」
「ああ、あの子、まだ寝てるんじゃないかしら。あ、彰人君、もう朝御飯だから、悪いけれど起こしてもらえる?」
「ん? 構いませんけど。部屋どこですか?」
「あ、その廊下の突き当たりですよ」
ここに厄介になっているのだ。
それくらい、手伝うのは全く問題無いと思った彰人。
彰人はその廊下を進んでいった。
「えーっと、突き当たりは、っと。あれか」
そして、彰人は、ノックをせずに入ってしまった。
そこに、綾香がすやすやと寝ていた。
「普通の部屋だなぁ。魔術師の部屋じゃないじゃないか」
彰人は部屋を見渡しつつ、それでも寝続けている綾香を起こす。
「おい、おーい。綾香ー。あやかー。間渡綾香ー。綾ちゃーん。朝だぞー」
すると、綾香がぼーっとしながら 起床した。
「おお、起きた。朝だぞ」
綾香は、ゆっくりと彰人を見る。
「オハヨウ、アキトクン、……オヤスミ……」
「は? いや待て。おやすみ、じゃねぇよ。起きろ。朝だっての。お袋さん呼んでるぞ」
再度寝ようとした綾香を、彰人はもう一度起こす。
「……ふぁー。……あさぁー。……眠いよぉ。あ、お早う、彰人君」
「さっき聞いた。お早う」
「もう朝かー。…………はれ? あ、あああ、彰人君っ!?」
綾香は、彰人を凝視する。
「起きたな。朝飯らしいぞ」
「あ、ああ、朝御飯っ、じゃなくてっ! ななな、なんで、彰人君がっ!?」
「ん? いや、沙智子さんに頼まれたから――」
そして、綾香は、彰人に”聖光弓一線”を放った。
「えっちぃいいー!」
「いっでぇーーっ!」
その後、彰人は綾香の部屋から追い出された。
「いてぇ……俺を消滅させる気かよ……」
まぁ、年頃の女の子の部屋に、唐突に入った彰人が悪い。のだが、その辺の常識が、異世界暮らしで抜けていた彰人であった。
そして、しばらく後、勢いよくドアが開け放たれる。
「バカアキトっ! えっち!」
「いや、待て。変な事はしてないはず……」
「いきなり私の部屋に入ってくるかなぁっ! もうっ!」
そう言われて、彰人も、ああ、ノック忘れてたな、と推論した。
いや、問題は、そこでは無いのだが。
「だからって、いきなり”聖光弓一線”撃つなよ……」
「えっち」
「なんもしてねぇ……」
そして、二人で沙智子の居る、ダイニングに入っていく。
「お早う、綾香。今日は早かったわね」
「こいつのせい……」
「…………?」
沙智子は分かってはいなかった。
彰人は、多分ノックを忘れたせいだと思い至っていた。
いや違う。そこではない。
「それで、彰人君は、どれくらいこの世界に居るつもりなの?」
朝食を取りながら、沙智子に聞かれる。
綾香は黙々と朝御飯を食べていた。
少し、顔が赤い。
「んー、分からないんすよねー。俺、探し物があって、それ全部見つかるまでは居なきゃならんのですけど」
「あら、そうなの? 大変ねぇ。それじゃ、それまではここに居て良いから」
それを聞いて、彰人と綾香は、それぞれがそれぞれの反応をする。
「いいんすか? それ、まじ助かります」
「お母さん、ちょっ、ええっ? それまで家に居させるのぉ?」
「あら? 昨日、綾香がそう言って連れてきたんじゃないの」
「そそ、そうだけどぉー。人の部屋に勝手に……くぅ……」
そうして、彰人は異物を排除するまでは、ここに居させてもらえるようになったのだった。
(この、沙智子さん。伊達に一般人で、魔術師と結婚しただけあるな。でも、大丈夫なのかソレ……)
少々不安な彰人であった。




