第十七話
――――数日前――――
「……かわいい娘だったな……」
異世界にこれまで住んでいたとは言え、彰人もその辺は普通の感覚である。
あの娘は、可愛かった。
”聖光法術式円陣”を使いつつ、空中から街を探索する。
「しっかし、真っ暗じゃねぇか」
諫見の街は、この時間は、中心部以外はほぼ真っ暗。そういう街である。
「準備は勝手にってなぁ。いるのかそれ。……ん? 数匹……? 正確な数が分からんぞ」
今、この世界、この日本、おそらくはこの街に、無間世界と呼ぶ異世界からの蟲が入り込んでいる。
一匹くらいなら、どうとでも探しようはありそうだが、数匹となると、面倒である。
しかも、先程の何か分からない物まで、この街には存在している。
「聞いてみっか」
面倒なので、テニに聞くのが一番手っ取り早い。
彰人は、何かの建物の屋上に着いた。
「さて、…………ん? この建物と風景……なんか見覚えが……見せられた中にでもあったか……?」
その建物から見える風景は、やはり何故か懐かしく感じる。
覚えていないはずである。
それなのに、こうも懐かしく感じるとは何か変である。
「ここは、……学校だ。確か、俺ここ通ってた」
今、彰人は、知らされた記憶とかつての記憶が入り混じっている。
そう。今、彰人は、少し思い出していた。
「…………とりあえず、連絡すっか…………」
そして、彰人は、とある術を使い始めた。
唯一、テニから教えられた術である。
それは、テニに連絡をしたいと伝える術である。
交信する術は、違う分別の世界の術の為、使う事が出来ない。
ゲートを開く術も、同じである。
ゲートを開く場合も、テニのほうから開いてもらわなければならない。
それは、それらの術が、その世界に悪影響を及ぼしかねない、異質な術だからである。
「”異界交信”」
その術を使うと、テニに連絡がしたいとだけ、伝わる。
一種の暗号のような物であった。
「…………ん? 来ねぇな……」
通常ならば、この術の後に、すぐにテニからの交信が来るはずである。
しばらく待った彰人だが、連絡が来ないので、もう一度術を使った。
「”異界交信”」
そうして、もう一度待つ。
しばらく後、テニからの交信が入った。
『ウルサイ。連絡スンナ』
「遅せえよっ! 何してんだよっ!」
『ダマレ。コッチハ今忙シイ』
「こっちも聞きたい事あんだよ」
『サラバ、クロ』
そして、交信が途絶えた。
「はぁ!? っざっけんな! ”異界交信”! ”異界交信”! ”異界交信”! ”異界交信”! ”異界交信”!!」
腹が立った彰人は、何度も術を使った。
さながら、迷惑電話のような感じである。
そして、もう一度テニからの交信が来た。
『オカケニナッタ、交信先ハ、現在ツカワレテオリマセン。ダカラヤメロ』
「使われてるだろがっ! せめて教えろっ! 何匹入り込んでんだよ? で、なんかここ違う物も居るぞ?」
『十二匹ダ。違ウモンハ、カッテニシラベロ。コッチハ、ソレドコロジャナイ。ハヨ、シロ』
「十二匹だと!? 多くないかそれ。そんな数、逃がすなよ! で何やってんだよっ」
『オ前ニャ関係無イ。モウ、交信ハシナイ。後ハカッテニヤレ』
「ちょっと待て――」
そして、交信は終わった。
彰人は考える。
どうやら、あちらはあちらで、別世界で何かあったらしい。
だが、そちらの世界は、自分ではどうしようも無い。
そして彰人はこれ以上テニに聞く事は止めた。
というか、そのような状態ならば、交信してきただけでマシである。
「十二匹だと? 多すぎだろ、それ。時間かかりそうだなぁ。こっちの物も調べにゃ分からんし」
そして、彰人はもう一度、辺りを見回す。
「なんだろうな、これ」
懐かしいと言う感覚。
そして、ここは違う平行世界だが、町並みも、学校も同じようである。
学校の屋上から、町並みを眺めていた際に、グラウンドに異質な何かが発見できた。
「ん? あれは、異物か?」
彰人は、そちらに移動した。
そして、その紫の色をした、もやを発見した。
「さっそく一匹目か。んじゃ手早くやってしまうかな」
そう言った彰人に、その紫のもやから声がした。
『この世界の住人か。ここは良い。我の力が漲って来る。お前も取り込むと更に進化出来る』
「おいおいおい、知性が増大してやがるよ」
見ると、その紫のもやは、人を取り込んでいるようであった。
「まじかよ。早々に人に憑依しやがったのか。でも残念だったな。俺は、ここの世界の住人じゃない」
『くっ。面白い。この世界は面白い。我が支配するのも簡単であるな』
ああ、こいつはまだ進化途中だな、と彰人は考えた。
「残念だったな。それは無理だ。ここに来たのが運の尽きだったな」
そして、紫のもやから、彰人を取り込もうとする物が伸びてきた。
彰人はそれをかわし、彰人が使える、”聖光法術”を行使した。
「”聖光法術式滅雷”」
雷を操る、彰人が居た世界の術である。
「やべっ! こっちの術はまずいのか!?」
”聖光法術式滅雷”は強い力を持つ。
しかし、どうやらこの世界では、さらに威力が出すぎるようである。
だが、放ってしまった。
このままでは、そいつが取り込んだ人間も巻き込んでしまう。
「”聖光体増”! 間に合えよ!」
”聖光体増”は自分の身体能力を、何倍にも上げる事が出来る術だ。
それを使い、彰人は”聖光法術式滅雷”を追い抜き、その巻き込まれた人間を、紫のもやから救い出した。
そして、”聖光法術式滅雷”が紫のもやに当たる。
『なっ! この術はっ! 貴様、ここの人間では無いなっ!』
「そう言うことだ。じゃあな。消えろ」
『ぐううっ! 我も、あちらの方に憑依するべきであったかっ! 馬鹿な――』
そして、紫のもやは消滅した。
「あっぶねー。こっちの住人まで巻き込むとこだ。”聖光法術式滅雷”はやめといた方が良さそうだな」
そうして見遣る助けた人物は、寝息をたてていた。
「ふむ、後遺症はなさそうだな。にしても誰だ?」
助けた人物が誰かは分からない。
だが、どうやらこの学校の生徒でもなさそうである。
「ここの、教師、なのか?」
その人物は女性だった。
この高校の場所に居たのだから、ここの教師なのではと彰人は考えた。
「とりあえず、校内のどっかに寝かせておくか」
彰人は、その女性を、こっそりと保健室のベッドに寝かせてから、その場を去った。




