第十五話
――――数日前――――
『オイ、起きろ』
「……ん。あ?」
『仕事ダゾ。起キロ』
ここは”白夜世界”と呼んでいる、白が支配する世界。
彰人達が休息をする世界であり、それ以外には何も無い。
前の任務が終えた後、彰人はそこで休息を取っていた。
そこに、”全洸世界”の生まれである、”テニ”が現れた。
本来はもっと長く、面倒な名前なのだが、彰人にとっては呼びにくいので、そう呼んでいた。
「もうか? 早えぇな。……ふぁっ。……で、次は何処だ?」
この世界では、時間と言う物が、あまり意味を成さない世界である。
『泣イテ、ヨロコベ。オ前ノ、コキョウダ』
「……まじか? で、何処だ?」
それを聞いて、彰人は”有個世界”であるのっだと思った。
だが、それは、彰人にとっては当たり前の事である。
彰人達にとっては、世界は種類があった。
大分別で、”有個世界”と、”無間世界”、そして、”有無世界”とで分けている。
”有個世界”とは、物が、個別に存在する世界。
所謂、我々の世界。
人や、生物、宇宙が存在する世界の事である。
”無間世界”とは、それが無い世界。
例えば、光りならそれだけで構成されている世界であったり、闇なら、それだけで構成されている世界である。
固形物、と言う物が存在しない世界と彰人は認識している。
そして、”有無世界”とは、それらが混ざった、今、彰人達がいるこの世界を含む世界の事である。
テニは、”無間世界”分類の、”全洸世界”の出身である。
基本的に彰人達は、大分別での自分の生まれと同じ分類の世界を担当する。
それには複雑な経緯もあり、簡単には彰人も聞いていたが深くは知らされていない。
そもそも知るつもりもあまりなかった。
そして、彰人は、”有個世界”の何処なのかを聞いたのである。
『泣イテヨロコベ。オ前ノコキョウダ』
「いや、今、聞いた。……は? もしかして――」
彰人は、案内役のテニの言葉で、地球がある世界なのではと思った。
『泣イテヨロコベ。オ前ントコダ』
「お、おい、それって――」
『ハヨ、イケ。オ前ハ、モウ、知ッテルトコダ』
どうやら、間違い無さそうである。
しかも知っている所、となると、地球の事である。
「それって、地球って事だよな。で、その言い方だと、まさか日本か?」
『ソウダ』
「成程、確かに故郷かもしれんが。でも、なんで泣いて喜ぶんだよ。確かに知ってはいるけどよ」
『ココマデノ偶然ハ、ソウナイ。平行世界ダガ、ホボ同ジダ』
「ほぼ? じゃあ、少しは違うのか……ん? じゃあ時代もか?」
『ソウダ。丁度、オ前ノ居タ頃ノ時代ダ。泣イテ喜べ」
「覚えてねぇし。で、どんな異物が紛れ込んだんだ?」
『”無間世界”ノ、一万二千百五十二番カラダ。対象物ハ、蟲ダ。ソッチハモウ、塞イデアル。ダガ、数匹取リ逃ガシタラシイ』
「逃がすなよ。ってか無間の方からか。しかも蟲って面倒だな」
『オ前ラノ、有個世界ダト、カナリ進化スルゾ。ハヨ、イケ』
泣いて喜ぶ意味は分からないが、次の派遣される世界は、自分の出生地の平行世界だという事は分かった彰人。
だが、これまでも、派遣先が地球である事はあったが、日本は初めてである。
『言葉ハ扱エルヨウニハ、モウシテアル。ダガ、オ前ノ故郷ダゾ。ナンデ、ワザワザシナキャイカン』
「覚えてないから、仕方ないだろ」
『教エタダロウガ。文化モ、ホトンド、ソノマンマダ』
確かに、前に、テニに教えてもらった。
自分の本来の出生地や、そこでの生活の事を。
彰人はそれまでは知らなかった。いや、覚えていなかった。
自分は、有個世界分類の異世界にこれまで居たのだ。
だから、そちらの記憶の方は、しっかりと残っている。
だが、彰人は、かつては、日本で普通に生活していたらしい。
ある時、世界の歪みに巻き込まれて、異世界へ飛ばされた。
そして、その空間転移の影響で、記憶を失ってしまっていたのだった。
その異世界で、色々あった末、最終的にここに来てから、日本の生活の時の事を、追体験させられて、そうだったのか、と思うくらいには、分かるようにはなっていた。
思い出した、と言うよりは、知らされた、と言うほうが正しい。
「でもよ、知ってはいるけど、日本は行くのは初めてだなぁ」
『ダカラ、泣イテ喜ベ』
実際には、かつてそこで生活していようであるので、初めてでは無いのであるが、彰人にとってはそのような感覚であった。
そう、この時は、そうだった。
「だから、なんで泣いて喜ぶんだよ」
『ククッ。行ケバ分カル。モシカシタラ、記憶モ戻ルカモナ』
「は?」
『モシ、ソウナッタラ、モウ戻ッテクンナ」
「どう言う事だよ」
『トモカク、ハヨ、イケ。有個世界ニ、無間世界ノ蟲ガ数匹ダ。面倒ナ事ニナル前ニ、ハヨイケ」
異世界の異物。しかも全く理の違う世界から、知性を持つ蟲が数匹。
実体を持たない異物なだけに、面倒である。
「確かに面倒だ。有個世界に無間世界の蟲、しかも日本って、まじかよ……」
『ハヨ、イケ。オ前ノコキョウダロ。準備ハ、行ッテ、カッテニシロ』
「でも、同じじゃ無いんだろ?」
いくら、同じ世界だとしても、それは平行世界である為、追体験させられた所とは違うはずだ。
なにか違う所も色々あるはずである。
『知ラン。行ッテ、ジブンデ、調ベロ。ソシテ、泣イテヨロコベ。ハヨ、イケ』
「待てよ。もう少し細かく――」
まだ、その辺りは詳しく聞いていない。だと言うのに、テニはゲートを開いた。
「――まじか、てめぇっ、戻ってきたら覚えてろっ!」
『泣イテヨロコベ。ソンデ、戻ッテクンナ』
彰人は、なす術無く、ゲートに落とされてしまった。




