第十話
綾香は、家に戻りつつ、今日聞いた事を反芻する。
(あの人は、別の世界から来てて、平行世界から来たっぽくて、よく分からない術を使えてでも、魔術師じゃない……で、それから何?)
結局よく分からない綾香。
普段はあまり物事を深く考える事は無い綾香であるが、流石に気になっていた。
綾香はお風呂に入りながら、呟く。
「うぅー。結局、じゃあ何、って分からないじゃない……」
綾香は、布団に入りながら嘆く。
「うぅー、魔術以外だと、あんな術があるのかなぁ」
そして、布団の中で天井を見ながら思う。
(あの術……良いなぁ……便利そう……魔力で使えないのかなぁ)
魔術師の綾香は魔力ならば持っている。
父と比べるとその量は少ないが。
綾香は、別の世界や、異世界、平行世界、等といったそんな事よりも、黒川の術のほうに興味があった。
(あ、そうだ。あの人が、並行世界の人なら、同じ魔力でも、呼び方が違うだけなのかも……)
そんな綾香が思う事。
黒川の術が、自分にも使えると楽そうであり、便利そう。
そういう事であった。
●●●
諫見の地は田舎である。
その為、高い建物はほとんど無い。
この地で一番高い建物、それは電波塔であった。
そこは、諫見高校の側にある。
鷹城公園は諫見高校を跨いだ反対側である。
そちらの方に、諫見の街が広がっている。
――寂れた商店街。
――古いビル。
そこにある、前は無かった、この時間でも光るコンビニ。
ぽつりぽつりとある街灯の他には、もはや車の光も無い。
もう深夜になる時間だ。
この街では、それが当然であったはず。
あのコンビニだけが違うだけだ。
黒川彰人は、今、電波塔の頂上に居た。
そこに座り、考えていた。
見慣れていたはずの街並みである。
しかし、初めて見る景色であった。
知ってはいた。
しかし、知らされただけだ。
覚えていれば、もっと色々見て回りたいとでも思ったかもしれない。
だが、その記憶は無い。
そしてここは、実際には〝似ている〟だけの街。
そのはずだ。
しかし、初めてここに着いた時、懐かしく感じた。
そして、それのせいで、あの光の矢に当たりそうになった。
(ちくしょう、あいつめ。ろくな説明無かったじゃねぇか……)
黒川が思っている相手は、あの光の玉である。
(テニの野郎め。帰ったら、とことん文句言ってやる)
そんな事を考えつつも、電波塔から諫見の街を眺める。
ここでは無いはずなのに、懐かしく感じる。
覚えていなかったはずである。
それなのに――
ふと、気がついた。
(もし、ここが同じなら、あそこは……)
彰人は、電波塔から飛び降りる。
そして、”聖光法術式円陣”を宙に浮かべる。
彰人は、次々と”聖光法術式円陣”を放りつつ、それを足場に空中を移動して行った。
そして、街のはずれに着く。
(――この辺のはず)
そして、真っ暗な田園が広がる平地を見渡す。
平地の少し向こうに海が見えた。
ぼんやりと、灯りが見える。
月の光であった。
(ああ、そうだったな……)
田園の近くに、民家がいくつか並んでいる。
その一つを見つけた彰人は、そちらに移動する。
既に、家にも灯りは無い。
その家を少し見てから、彰人はやはりと思いつつ、一度目を閉じる。
(それくらい、説明しろよ……ったく)
もう一度、その家を見てから、彰人はその場を去っていった。
●●●
彰人は、再び電波塔に戻ってきた。
今度は頂上でなく、その電波塔のビルの屋上に辿り着く。
「これ、今は良いが。雨は凌げんな」
そう思い、目の前にある、諫見高校を見る。
「そうだ。確か同じなら、あそこが在ったな」
そして、彰人は諫見高校の中にある、御所園に入る。
この諫見高校は、かつて武家屋敷が在った場所であった。
そこに、この地を治める頭首が住んでいた場所であり、その名残がこの高校には残っていた。
今では、その屋敷は無い物の、その庭は残されており、そこに諫見高校の茶道部が使う御所園の『茶室』があった。
「おっ。これなら良いな」
彰人は、勝手にそこに入り始める。
もちろん施錠はしてあるのだが、術を行使し、その鍵を開けていた。
「ふむ、畳もあるし、雨風も凌げる。しばらくここに厄介になるかな」
そして、彰人は畳に無造作に寝転がる。
「はぁー。やっと休める。……にしてもテニのやつ。何にも言わなかったじゃねぇか」
寝転びならが、彰人はここに来る前の事を思い出していた。




