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のこりもの

作者: 藤城一

 ここ一週間で死体は前よりも増えているような気がする。その死体というのも、ほとんど自殺した形跡のあるものばかり。梁にかけた縄に首をつっているもの、車の中で隣に七輪を置いているもの、明らかに目の前のビルから飛び降りたなとわかるもの……。

 そういう類の人は、多分味わったことのない絶望を目の当たりにし、耐えられなくなり、しまいには生きることに疲れてしまった、というものらしい。もっとも、少女にはそんなことは考えにもおよばなかった。

 もともとこういう状況下で育ったから。だからそんなに生活は変わってはいない。むしろ食べ物があさりやすくなったから、好都合だった。

 こうなったのは、二週間前の事件がきっかけだった。

 少女はもちろん知らないことだが、ある研究所で怪しい研究がされていた。そしてこの前新しく開発されたのはウイルス――生物兵器だった。このウイルスは政府じきじきの命を受けてつくられたもので、それは恐ろしい「クレイジーウイルス」の異名を持っていた。このウイルスに体を支配されてしまうと、その感染した人間が一番脳内で濃い存在の人間を襲い、しまいには殺そうとするものだった。

つまり、その人が今大切に思っている、愛している人を殺してしまうのだ。

このウイルスを誤って流出させてしまい、大流行してしまった。当然何人もの死者が出てきた。伴って加害者も出てきた。が、そのいずれもが恋人、親友、夫婦などといった関係の人間達で、まわりは不思議そうな顔をしていた。

そんな他人事のように見ていた近所の人間が次にかかり、それがループして、しまいにはこの国全土がこの「狂人病」にかかってしまった。

自殺した人はそんな加害者達だった。自分の大切な人、愛する人を失い、辛さに耐えかねた人の抜け殻。それがここに転がっている。

もちろん生存者はいる。この「狂人病」は、体を暴走させるものの、ほとんど生活に支障を持たないので、今でも「狂人病」の人はうろついている。というよりも、もう狂人病にかかっていない人はいないのだろう。もちろん少女もこの狂人病にかかっている。

親は知らない。捨て子だった。物心つくまで軍の孤児院にいたが、十歳の時逃げ出した。軍の管理下に自由などという言葉は存在しない。周りに合わせた生活、迷惑をかけない行動、規則正しく、上に忠実なしもべとして育てる中には、彼女の思う自由はなかった。

そう思って脱走したものの、最初の頃は大変だった。食料は自分で調達しなければならないし、寝床もつくらなければいけない。

そしてなによりも、そばに誰もいないことが一番の不安だった。

今となってはそんなことは感じなくなったが、人間というのはどうもそばに同じ人間がいないと不安になるらしい。

おかしな話だ。生きていく上で、他人など食料を奪い合うだけのものなのに。

だから少女は知らない。そのわずかな食料を分ける意味を。

そんなことなど知らない人間しか今の地球にはいない。いなくなってしまったのだった。

今日はどこにいこうかな?どこに食べ物はあるのかな?どこで寝ようかな?

少女は考え、自分の勘を信じて歩き出す。

自由だ。自由なんだ。

廃墟の中、ぼろの靴が落ちているガラスの破片を割り、くだけたコンクリートが軽快にリズムを刻む。

その音は、暗がりの地平線へと吸い込まれていった。

思いつきでポンと書いてみたものです。

変な話ですが、感想をお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  面白かったです。  暗い話なのに淡々としているところが読みやすかったし、逆にひしひしと恐怖が伝わってきました。  もうちょっと具体的なエピソードが欲しい気がしました。それと、段落の空白を入…
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