親子喧嘩等
実験が終わると、誰もが一様に腕を組んで首をひねった。わたしは、内心、「すべったか」と、ひやひやしていたが、まず、ご隠居様が口を開き、
「要するに、これは本物の砂金じゃないということなのか?」
「そうです。金は簡単に溶けません」
「おい、執事、間違いないのだな」
ご隠居様は、突然、話を執事さんに振った。ものすごく気が小さい執事さんは、不意を打たれ、さらにパニックになり、小役人的な本能のおもむくままに、
「間違いございません。わたしには専門的な知識はありませんが、一般的に、金を溶かすのは、よほどの気合と根性がないと、不可能で、このメイドの言うとおりで……」
そう言うなり、執事さんは泡を吹いて倒れてしまった。
「執事が言うなら、そうだな。そういうことにしとこう。ならば、やっぱり騙されてたんじゃないか」
ご隠居様は、納得されたのか、納得することに決められたのか、ウンウンとうなずかれた。あるいは、責任者としての執事さんの発言は重いということだろうか。
御曹子は、何か誤算があったことに気付かれたか、急に顔を真っ赤にされ、
「キ……キサマ、こ……この、僕に恥をかかせやがったな!」
と、すごい剣幕で連れ女の胸倉をつかみ、すごむ。
「何を言ってるのさ。あんたが言い出したことだろう。私は単にアイデアを……」
しかし連れ女は、言い終わらないうちに御曹子から一撃くらっていた。それを見たご隠居様は激怒され、
「この馬鹿息子め! 見下げ果てたやつめが!!」
杖を振り上げて御曹子に殴りかかった。
「ご隠居様、お願いでございます。落ち着いてくださいまし」
純白シルクのメイドが、必死になって、ご隠居様の怒りを抑えようとし、
「ご隠居様、ここは一つ、穏便に……」
騎士が強い力でご隠居様を羽交い絞めにした。
わたしは、倒れていた執事さんの頬を張り飛ばし、目を覚まさせた。
「退散しましょう。これ以上ここにいても、無意味ですから」
執事さんに言葉が通じているのかどうか分からないが、とにかく執事さんの手を引き、応接室を出た。そして、執務室まで連れていき水を飲ませると、執事さんは、多少、落ち着き、
「一応、私たちとしては、砂金の真偽が証明できたので、OKですよね、いいんですよね」
と、心細そうに言った。何かあれば責任を問われるのは執事さんだから、わたしとしては気楽に、
「ええ、多分、そうだと思います」
わたしは適当に執事さんをあしらって、執務室を出た。