地下道
地下道は、お城の地下に縦横に張り巡らされていて、有事の際の脱出経路になったりするので、全体像などは機密扱いだ。ごく一部だけが自家製ワインの貯蔵庫等として利用されていて、そういった区画だけを掃除することになる。
しかし、ご隠居様が地下道の汚れを云々とはどういうことだろうか。偏屈な爺さんとの噂だから、夜な夜な地下道を徘徊していたって、全然、不思議ではないが、それにしても細かい人だ。財産をご自分で管理されているだけのことはある。
わたしは、ほうき、ちりとり、ランプ、地下道(公開部分)の見取り図を持って地下に降りる。真っ暗でひんやりとしてかび臭い。さすが、古城だけあって、レンガ造りのマンガにでも出てきそうな地下道。わたしは適当に掃除して早めに切り上げるため、格好だけでも、てきぱきと作業を進めるつもりだった。ところが、例によって、やはり道に迷ってしまった。
一応、ランプの灯はある。地図もある。しかし道に迷う。困ったものだが、迷っちまったからには仕方がない。まあ、何とかなるだろう、多分。
わたしは地下道を行ったり来たり、とりあえずはインスピレーションにしたがって進んだ。しかし、行けども行けども出口は見えず、同じような景色が延々と続く。RPGのダンジョンさながらだが、今のところ、モンスターが出ないのが救いだ。
地下道は果てしなく続いた。ランプの燃料も心配だ。灯りがなくなったら脱出は絶望的で、さすがのわたしも、少しだけ動揺していた。
「ん?」
わたしは、ふと、足を止めた。前方から、かすかにゴォーという音が聞こえる。何の音かは分からないが、運がよければ外に出られるかもしれない。危険かもしれないが、そんなことも言ってられないので、とにかく、音のする方向に行ってみることにした。
「なっ……」
先にあったのは、地下道を塞ぐ頑丈そうな鍵つきの鉄格子だけだった。ゴォーという音は、鉄格子の向こう側から響いてきていた。残念ながら、体力を無駄に消費するだけに終わったらしい。
その後、わたしは何時間も地下道をさまよい続けた。やがて、執事さんや他のメイドが探しに来てくれたので、どうにか地上に出ることができた。不手際を叱られるかと思ったら、執事さんは、
「地下道に入ったのは初めてだったのですか」
「実は、そうなんです」
「それじゃ、仕方がないですね。次からは、ちゃんと一人で出てこられるようにして下さいよ」
世の中には、あるいは、三千世界の一つには、こんな、のほほんとした職場もあるということだろう。




