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ザ☆旅行記Ⅰ ご隠居様の城  作者: 小宮登志子
第1章 異世界に飛ばされて
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メイドとしては?

 メイドとは、近年は秋葉原に出没しているとの話もきくが、本当は、それほど簡単な職種ではない。加えて、わたしは今までホワイトカラーで肉体労働などしたことがないから、メイドとして役に立つはずがない。果して、わたしは初日から失敗続きだった。

 食事を運べばひっくり返すし、お使いを頼まれれば道に迷うし、通常の用法のつもりで備品を壊すし、その他諸々、挙げていけばきりがない。けっして手を抜いていたわけでも、ボケをかましていたわけでもないが、わたしにはデスクワーク以外にできることはないということだ。それでもクビになることはなく、何かあった場合には一番被害の少なそうな城内の掃除を任されたのだから、この世界の人は大らかというか、大雑把というか。

 案外、東京で民間企業に勤めるよりも楽かもしれない。


 話によると、このお城には、まだ顔を会わせたことがないが、由緒ある大貴族のご隠居様がお住まいになっているとのことだ。メイド仲間からは、かなり偏屈な、度し難い爺さんと聞いている。役所の上司と比べれば、いい勝負だろうか。

 ご隠居様は、御曹子に爵位と官位をお譲りになり、政治から引退されたが、家の財産については、今もご自身で管理されているらしい。御曹子は、このお城ではなく、もっと交通の便のよい別のお城にお住まいとのことだが、かなりのプレイボーイで、ご隠居様は扱いに困り果てているという。御曹子がこの城に金の無心にやって来れば、いつも親子喧嘩の修羅場が見られるということだ。

 雑談はこの程度にしよう。今のわたしは奴隷階級、家内奴隷の一介のメイド。今日も適当に仕事して適当に時間をつぶす。こういういい加減なところは、公僕の公務員とあまり違わない。プライドさえ捨て去ることができれば、それなりに楽しく過ごすことができるから。


 わたしは用具置き場から、ほうきとちりとりを持ち出した。もちろん、一番楽な庭の掃除としようと思ったからだ。仕事をしているように見えればそれでいいという、基本的にパフォーマンスの問題だ。ところが、そのとき丁度、執事さんが通りかかって、

「カトリーナさん、ご苦労様。ところで、地下道の掃除はどうなっているのでしょうか?」

 地下道の掃除などしたことがなかったので、内心、「まずい」と思いながら、色には出さず、

「手抜かりないはずですが」

 手抜かりがないはずがないが、ないことにしておけば、ないことになる。

「そうですか。いやぁ、実は、ご隠居様が、『地下道の汚れが云々』とおっしゃっていまして……」

「はい、分かりました。では、今日は念入りに地下道を……」

 わたしは、適当に笑ってごまかしながら、内心では不承不承、地下道に向かった。

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