エルブンボウ
御曹司の手紙は長々として冗漫、少々理解しがたいところはあるが、要するに、「エルブンボウと黒龍マスターの地位を渡せ、さもなければ攻め込むぞ」という、ご隠居様への最後通牒のつもりだろう。この手紙の前にも、御曹司からご隠居様に何度も手紙が送られてきていたから、ご隠居様は、御曹司が本気でこのお城に攻めてくることを予想されていたのかもしれない。だから、ここ最近、ご隠居様が特に怒りっぽくなられたり、城内にご隠居様の騎士団がよく出入りしていたのだ。
わたしは書斎を出て、ご隠居様を捜した。「ここを動くな」と言われていたが、この際だから仕方がない。ご隠居様をつかまえて、話はそれからだ。ただ、そうしてみたところで事態が好転するわけでもないが。とにかく、言われたまま何もせずに待っているのは、わたしの性分に合わないから。
ところが、あちこち捜し回ってみたものの、ご隠居様はどこにも見当たらなかった。
お城の中庭では、ご隠居様の騎士団が完全武装して集結していた。騎士が10名、従者等を加えると、総勢100名程度。お城の跳ね橋が上げられている。御曹司の軍隊を迎え撃つ準備を整えているのだろうか。であれば、しばらくすれば城壁の上で弓兵が弓を構えることになるだろう。
「ご隠居様、ご隠居様はいずこ」
わたしは声を張り上げた。騎士や従者たちは戦いの準備で忙しいのか、わたしには見向きもしない。執事さんは泣きそうな顔で右往左往して、「邪魔だ」と年配の騎士に蹴飛ばされていた。よく見ると、騎士は、誰もが皆、還暦を迎えてそうな年配の人ばかりだ。御曹司の手紙にあった「古くからの友人」だろうか。
「カトリーナ、ここにおったか。捜したぞ」
その時、不意に、背後から声がした。振り向くと、そこにいたのはご隠居様だった。何だか、今日のご隠居様は神出鬼没。
「とにかく、わしについて来い」
ご隠居様は、いきなり駆け出された。わたしは、ご隠居様の後について走る。
その時、突如、まるで地響きのように、「ウォー」という鬨の声がこだました。これだけ状況証拠が積み重なれば、御曹司の軍隊が城外で攻撃の準備万端整えて終結している以外には考えられない。鬨の声は戦闘開始の合図だろうか。
「ご隠居様、これは一体?」
「気にするな」
「でも……」
「いいんだ」
ご隠居様の騎士団か、御曹司の軍隊か、どちらが仕掛けたのかは分からないが(この際、どちらでも構わないが)、戦端は既に開かれているのだろう。でも、ご隠居様は、それを気にかけられる様子もない。
「着いたぞ。ここだ」
わたしとご隠居様は、お城の奥の、床に大きな魔方陣が書かれた大広間に出た。ご隠居様は、ここで、わたしには意味が分からない言葉でもって、何かの口上を述べられた。魔法の呪文っぽい。しばらくすると、不思議なことに、魔方陣の中心から、金色に輝く長弓が湧いて出てきた。
「ご隠居様、これは一体?」
「これは、我が侯爵家に代々伝わるエルブンボウだ。この際だ。そなたに授けよう」




