古城
わたしを乗せた荷馬車は、町を出て街道を進み、やがて山道に入り、どんどこどんと進んでいく。滅多に人とすれ違わない。ものすごい過疎地だ。たまにすれ違ったと思ったら、身長120センチメートルくらいのずんぐりとした鼻の大きい鬚の長い、つまりドワーフだったりする。
同じような山道が延々と続く。荷馬車の速度だから時間がかかるのは当然だが、退屈なので、御者と世間話をして適当に時間をつぶした。ただし、わたしはこの世界に来たばかりで右も左も分からないので、成り行き上、話好きな御者の聞き役に徹することとなった。
御者によれば、この世界は、王侯貴族が君臨し、戦士が剣を振り回し、魔法が炸裂するという典型的な中世ヨーロッパ風ファンタジーの舞台らしい。当然ながら身分秩序があって、基本的には、貴族、聖職者、自由民、奴隷の階級がきっちりと決まっているとのことだ。
奴隷階級は基本的人権を否定されていて、家畜と同類と考えられている。奴隷は主人の所有物なので、利用・収益・処分方法は主人の自由で、何をされても文句は言えないのが建前だが、現実には、居住・移転・職業選択の自由を有しない場合の自由民労働者と同じと考えてよいらしい。とはいえ、例外はあり、とんでもなく「鬼畜な」主人に当たった場合には、諦めが肝心ということだ。
わたしの処遇が気がかりだが、この御者もそこまで知らないらしい。ただ、「適当に使えそうな奴隷を買ってこい」と命じられただけだという。
三日ほどかかって、ようやく、わたしを乗せた荷馬車は目的地にたどり着いた。そこは湖の畔に建つ西洋風の古城だった。城の周囲には堀がめぐらされ、城門の大きな跳ね橋や物見櫓が威圧的だ。サディスティックな変態領主が主人なら悲劇的な結末に至るだろう。これもまた運命か。南無阿弥陀仏。
わたしは最悪の結果を予想して極楽往生を願って念仏を唱えていたが、それほど悪くはなかったようだ。すなわち、わたしは、この城の雑用一般をこなす家内奴隷として買われたらしい。実質的には女中みたいな、いや、下女といったほうが正確かもしれないが。
「新しい仲間を紹介します。名前は、えーと、確か、カトリーナさん。仲良くしてあげて下さいね」
最初に仲間に紹介されたのだが、いい加減な名前をつけられていたものだ。確か、ハリケーンでそんな名前のがあったっけ。
「それと、これがあなたのユニフォーム」
と、手渡されたのは、誰の趣味だかしれないが、お約束の、粗雑なメイド服だった。
こうして、わたしのメイド生活が始まったわけだが……