カトリーナ親衛隊
不可解な失踪事件と不可解な人事は、当然ながら、後宮候補生にうわさ話の題材を提供することになった。メイドから後宮候補生に上がるだけでも超異例の人事なのに、今度は、マーガレットの御大を押しのけて、ご隠居様の側仕えだから、ほとんど神がかり的。そんなことは、通常の手段では絶対にあり得ないわけで、そのため、いろいろな根も葉もない憶測が流れた。
エレンもそんな話を間に受けたのか、
「カトリーナさんって、すごいのね」
「どこが?」
「うわさでは、すごくインランな魔女で、ご隠居様を寝技でたらしこんで、意のままに操ってるって……」
「すごいね……、でも、エレン、意味分かって言ってるの?」
「一般的な言葉の意味的にはね。まあ、でも、とにかくすごいって、みんな言ってるのよ」
「すごいはすごいでも……」
詳細に表現すると犯罪構成要件に該当しそうな話が、まことしやかにささやかれていた。わたしが歩けば、多くの後宮候補生は、畏怖と恐怖と羨望と嫉妬の入り混じった表情で、上目遣いにわたしを見ながら、道をあけるようになった。しかしエレンはよほど鈍感なのかなのか、我が道を往くタイプなのか、今までどおりにマイペースでつき合ってくれた。
わたしは、自由時間には、中庭の実技訓練場で一人でいることが多くなった。弓を射ることで集中していれば、とりあえず、気分が落ち着くから。
この日も実技訓練場で弓の稽古をしていると、エレンが後宮候補生を大勢連れてやって来て、
「カトリーナさん、ようやく見つけたわ」
「どうしたの?」
「実は、突然だけど、親衛隊を結成したの」
「親衛隊?」
エレンによると、このたび、自由民出身の後宮候補生により「カトリーナ親衛隊」が結成されたとのことだ。唐突な話だけど、要するに、わたしがご隠居様の寵愛を受けている今なら、仲間になって損はないということだろうか。後宮候補生は身分よりも能力が優先とのことだが、やはり身分の壁は厚く、何かにつけて自由民出身の候補生は損をさせられるそうだ。ご隠居様の側仕えの権威があれば、マーガレットの御大を頂点とする貴族階級出身の後宮候補生にも十分対抗できるので、ヨロシク(夜露死苦?)とのことだった。
その夜、疲れてベッドに横になっていると、エレンが
「大変なことになっちゃったね」
「……って、あなたが親衛隊の発起人ではないの?」
「わたしはみんなから頼まれたの。同室のよしみとかで、わたしからあなたに話してほしいって」
「みんな、自分は安全地帯にいて、他人に危ない橋を渡らせようとするんだね……」
一方の総大将に祭り上げられてしまったわたしには、平凡な人生は望むべくもないのだろうか。




