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ザ☆旅行記Ⅰ ご隠居様の城  作者: 小宮登志子
第3章 隻眼の黒龍
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事の顛末

 光の球についていくと、程なくして、お城に戻ることができた。大した距離ではなかった。それだけわたしが方向音痴ということだ。

 もう外は暗くなっていた。かなり長いこと地下道にいたようだ。案の定、大騒ぎだったようだが、

「ああ~、よかった~。カトリーナさぁ~ん。これで首がつながったよぉ~」

 と、執事さんが泣きながら抱きついてきたので、わたしは反射的に身をかわした。執事さんは、勢い余って顔から壁に激突し、鼻血を出した。

「久しぶりですが、ますます怪しさに磨きがかかってますね」

「怪しいですか。いや、それはそれとして、大変だったんですよ。私がどれほど苦労したか……」

 執事さんによれば、この日はいろいろと事件があったらしい。わたしたちが野外実習に出ると、御曹子がまたまた金の無心にやってきて、ご隠居様に追い返され、夕方、野外実習でわたしが行方不明となったことが判明し、これを聞いたご隠居様が大激怒され、後宮候補生のほか、メイドや騎士団にも捜索を命じられたという。そのとばっちりで、執事さんは、一日中、ご隠居様に当たられまくっていて、神経がプツンと切れる寸前だったらしい。

「それはそれは、ご迷惑をおかけしまして……」

 わたしと隻眼の黒龍がのほほんと話をしている間、何も知らない執事さんは、生きた心地がしなかったとのこと。マーガレットの御大は事情の半分を知っているはずだが、ダンマリを決め込んでいたのだろう。

「ご隠居様がお待ちです。とにかく、まずはご隠居様のところに」

 執事さんが懇願するように言うので、わたしは、まず、ご隠居様のいる書斎に向かった。

 

 ご隠居様に怒られそうな気配だが、顔を出さないわけにはいくまい。場合によってはおしおきかもしれないが、それは仕方がない。

 わたしがノックして書斎のドアを開けると、ご隠居様は、その時まで落ち着きなく歩き回っておられたが、わたしを見るなり、

「無事だったか。しかし一体、何があった? 泥だらけではないか」

 最初に「バカヤロウ」が飛んでくると思って覚悟していたのに、ちょっと拍子抜けだ。

「いろいろなことがありまして……」

 わたしは、その日起こったことを、かいつまんで話した(なお、ご隠居様にエリザベスのことをきく余裕はなかった)。ご隠居様は、一言も口を挟まれずに静かに聴いておられたが、最後に一言、

「分かった。だが、今日あったことは、決して口外するな」


 結局、事件は、謎の一時的失踪事件として片付けられた。道に迷って、あっちこっちさまよっているうちに、たまたまお城にたどり着いたという、不可解な結論に落ち着いた。不可解といえばもう一つ、次の日に、わたしがご隠居様の側仕えに任じられたこと。誰が見てもわけが分からない人事だが、人事とはこういうものとも言えるし、ともあれ、考えても分からないものは、しょうがない、考えないことだ。

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