事の顛末
光の球についていくと、程なくして、お城に戻ることができた。大した距離ではなかった。それだけわたしが方向音痴ということだ。
もう外は暗くなっていた。かなり長いこと地下道にいたようだ。案の定、大騒ぎだったようだが、
「ああ~、よかった~。カトリーナさぁ~ん。これで首がつながったよぉ~」
と、執事さんが泣きながら抱きついてきたので、わたしは反射的に身をかわした。執事さんは、勢い余って顔から壁に激突し、鼻血を出した。
「久しぶりですが、ますます怪しさに磨きがかかってますね」
「怪しいですか。いや、それはそれとして、大変だったんですよ。私がどれほど苦労したか……」
執事さんによれば、この日はいろいろと事件があったらしい。わたしたちが野外実習に出ると、御曹子がまたまた金の無心にやってきて、ご隠居様に追い返され、夕方、野外実習でわたしが行方不明となったことが判明し、これを聞いたご隠居様が大激怒され、後宮候補生のほか、メイドや騎士団にも捜索を命じられたという。そのとばっちりで、執事さんは、一日中、ご隠居様に当たられまくっていて、神経がプツンと切れる寸前だったらしい。
「それはそれは、ご迷惑をおかけしまして……」
わたしと隻眼の黒龍がのほほんと話をしている間、何も知らない執事さんは、生きた心地がしなかったとのこと。マーガレットの御大は事情の半分を知っているはずだが、ダンマリを決め込んでいたのだろう。
「ご隠居様がお待ちです。とにかく、まずはご隠居様のところに」
執事さんが懇願するように言うので、わたしは、まず、ご隠居様のいる書斎に向かった。
ご隠居様に怒られそうな気配だが、顔を出さないわけにはいくまい。場合によってはおしおきかもしれないが、それは仕方がない。
わたしがノックして書斎のドアを開けると、ご隠居様は、その時まで落ち着きなく歩き回っておられたが、わたしを見るなり、
「無事だったか。しかし一体、何があった? 泥だらけではないか」
最初に「バカヤロウ」が飛んでくると思って覚悟していたのに、ちょっと拍子抜けだ。
「いろいろなことがありまして……」
わたしは、その日起こったことを、かいつまんで話した(なお、ご隠居様にエリザベスのことをきく余裕はなかった)。ご隠居様は、一言も口を挟まれずに静かに聴いておられたが、最後に一言、
「分かった。だが、今日あったことは、決して口外するな」
結局、事件は、謎の一時的失踪事件として片付けられた。道に迷って、あっちこっちさまよっているうちに、たまたまお城にたどり着いたという、不可解な結論に落ち着いた。不可解といえばもう一つ、次の日に、わたしがご隠居様の側仕えに任じられたこと。誰が見てもわけが分からない人事だが、人事とはこういうものとも言えるし、ともあれ、考えても分からないものは、しょうがない、考えないことだ。




