奴隷市場
奴隷? もともと公務員が国民全体の奉仕者なら、主人が変わるだけなので同じことだが、落ち着いている場合じゃない。しかし、わたしは意外と冷静に情勢を分析していた。これからわたしたちは奴隷市場でせりにかけられるらしい。自分の運命は、ご主人様しだいというわけだ。
檻の中の女性の話を総合すると、この世界では、貧農の口減らしに子供が奴隷に売られることはよくあるらしい。辺境地帯への遠征の際に被征服民が奴隷にされることもあり、私兵を率いて奴隷狩りというビジネスもあるという。これまでのことをすべて事実として受け入れるなら、わたしはとんでもない世界に飛ばされたことになる。
荷馬車はノロノロと大きな水路のすぐ脇を通る。水は澄んでいて、わたしの顔もくっきりと水面に映っていた。驚いたことに、どういう原理かしらないけれど、わたしはこの世界に来て10年ほど若返ってしまったらしい。手をよく見ると、肌の張りが違う。まあ、それはそれでよしとしよう。
石造りの大きな建物の前で、荷馬車は停まった。強そうな男たちが厳重に警戒する中で、檻が開けられ、わたしたちは追い立てられた。とりあえず、逆らわない方がよさそうだ。
わたしたちが通された先には、お立ち台のようなものがあり、その周囲に人々が群がっていた。ガヤガヤと騒がしい。熱気というか、活気というか、独特の空気がただよっている。奴隷市場は盛況のようだ。
しばらくすると、せりが始まった。
「これより、せりを始めます。購入希望者は、手を上げ、口頭で金額を提示してください」
わたしたちは、順番にお立ち台に立つ。わたしと同じ荷馬車に乗せられてきた女たちは、次々にせり落とされてゆく。彼女たちの表情を見ると、特段の感動も落胆もなく、一種の諦観めいた境地にいるように思われる。わたし以外の全員がせり落とされた。わたしで最後のようだ。わたしは、いかつい顔の男に促され、お立ち台に立った。
「この女は、辺境地帯で捕獲されました。多分、頑丈で、力仕事など……」
いい加減な口上だ。公務員に力仕事なんかできるわけがないだろう。
「金貨98枚」
「100枚」
次々と手が上がり、金額が告げられていく。
結局、わたしの価値は金貨108枚に過ぎなかった。しかし因果な数字だ。
「来なさい」
わたしをせり落とした男が言った。わたしは促されるままに、その男の荷車に乗り、石畳の道をガタゴトと揺られていく。
わたしの運命は如何?




