結果はいかに
第一射は見事に失敗し、的の端をかすめただけに終わった。しかし、わたしには、それなりに手応えがあった。長いブランクがあっても、やはり体は感覚を覚えていた。後宮候補生のため息とは裏腹に、わたし的には、何とかなりそうな気がした。
そして、第二射……
的には当たった。しかし、中心を外していた。後宮候補生からは、落胆のどよめきが上がった。
「いよいよ本番か……」
わたしは、ふと、つぶやいた。
次が最後、これで決めなければならない。そう、あの時もそうだった。わたしは、とある大会の決勝で、勝負を意識しすぎて負けたことを思い出した。
勝負事の鉄則、それは、心を無にしてすべてをありのままに見つめること。主観と客観の弁証法的綜合、対象との一致、これこそが、本来の自然のあり方。
わたしは弓に最後の矢をつがえ、構えた。不思議とプレッシャーはなかった。久々に心地よい感覚だ。目の前の的が大きくなり、わたしを包み込んでいくような気がした。わたしは弦を引き矢を射る。矢は的の中心に向かい、一本の光の筋となって進む。
後宮候補生から歓声が上がった。矢は的の中心に深々と突き刺さっていた。
「見事!」
ご隠居様もいたく感動されたようだ。年甲斐もなく、子供のようなはしゃぎようだ。
「何回か見た顔だが、名は何と? 直答を許す。言え」
「カトリーナと申しますが……」
わたしが答えると、ご隠居様は腕を組み、難しい顔で、何やらブツブツとつぶやいてる。とりあえずは退散しよう。あまり長居をして、面倒に巻き込まれるのは御免だし。
その日の夕方、わたしは執事さんに声をかけられ、
「カトリーナさん、ちょっと、一緒に来ていただけませんか。大事な話が……」
「急に尊敬語を使われても不気味なだけですが、何でしょう?」
非常に気持ちの悪いシチュエーションだが、わたしは執事さんに案内され、ご隠居様の書斎に通された。
ご隠居様は眉間にしわを寄せて難しそうな本に目を通されていたが、わたしを見ると、意外なことに、ニッコリと笑われ、
「奴隷カトリーナよ、本日をもって、汝を奴隷の身分から解放する。よって、自由民だ。それともう一つ、今日付で、後宮候補生を命ずる。以上」
同時に、純白シルクのメイド服が支給された。




