ディアボロス
出先での更新なのでミスしてたらごめんなさい。
家に帰ってから確認します。
普段なら街中で上を走るようなことはしないのだが、今回はシェリルさんからのオーダーであること、そして緊急事態であることを考えれば仕方がないだろう。
幸いなことにプリッシラさんの魔曲のお陰で、この人だかりにも関わらず人目を集めずにすむ。
ブーツの魔道具を起動させ、階段を駆け上がるように進行方向の屋根まで上がる。
この区域はそれぞれの建物の高さに差が少ないようで、視界の先には当然ながら障害物となり得るものは無い。
ディアナは……まだ移動しているようだ。遠目に屋根の上を移動している姿が見える。あの短時間であそこまで移動できるのは大したものだ。
モノクルに表示された地図を見ると、この先は……再開発区域か?
あの辺りなら一般人は近寄らないので、人目につかないという条件は満たせそうだ。
それにしても、あれだけ畳に打ち付けられれば、ディアボロスもただではすまないのではなかろうか?
僕が追い付いた時には終わってる可能性もありそうか?
いや、グレゴワールの意味深な発言を考えればその可能性は低いと考えておこう。
ディアナの後を追いながら屋根の上を駆ける。
既にディアナは移動を終えたようだ。視界の先にはディアナが発したであろう火柱が微かに見える。
やはりディアボロスはあれで終わるようなことは無かったということだ。
早く追い付いて加勢――
と思った矢先、横から視界に人影が飛び込んできた!
屋根の上だからと油断していたため、その人影に盛大にぶつかってしまった。
予想外の衝撃に弾かれ屋根の上を転がりながらも、何とか体勢を立て直す事が出来たが危うく屋根から落ちるところだった。
「くっ、こんな時に魔術師の襲撃か!?」
「ってぇ! 何で屋根の上で人にぶつかるんだよ。クソッ」
しかし、相手から聞こえてきた声は予想外のものだった。
視界の先には屋根の上で尻餅を付き、何やら文句を言っている女性の姿が見える。……先日僕がぶつかってしまった店員、マキナさんだ。
「あ゛ぁ!? って、こないだの野郎じゃねえか! てめえ、アタイに何か恨みでもあんのか!?」
おお、いきなりの喧嘩腰だ。一応こっちもぶつかって痛い事には変わり無いのでお互い様だと思うのだが……。
「ぶつかって痛いのはお互い様でしょう? すみませんが今急いでるので、苦情はまた後でお願いします!」
「ちょっと待てコラ」
急いでいるので先を急ぎたいのだが、すぐには解放してもらえないようだ。……まいったな。
「てめえのせいでまたジジイにしごかれるじゃねえか!」
そう言いながらマキナさんが殴りかかってくる。どうしてこうなる!?
「ちょ、ちょっと待って、って速い!?」
マキナさんの一撃は彼女の見た目に似合わず、ものすごい速度で鼻先をかすめた。
ギリギリ避けることが出来たが、わりと真面目に避けないと危ないほどだ。
見たところ魔道具を使っている形跡はない。……つまりは魔術師ということか。
このままいたずらに時間を浪費するわけにはいかないため、次々に繰り出される連撃を避けながら落ち着かせるために説得を試みる。
「お、落ち着いてください。ぶつかってしまったのはお互いの不注意でしょう!? 魔術使ってまで襲って来なくても良いでしょう?」
「誰がクソ魔術師だ! ぶん殴るぞ!」
とっくに殴りかかって来てるくせに何を言うか。しかし余計に怒らせてしまったか?
確かにモノクル越しに見える姿には魔力の痕跡はほとんど無い。
魔術師ではないというのはあながち嘘でもなさそうだ。
しかし、それならこの身体能力はいったいどういうことなのだろうか?
まるで身体強化の魔術を使ったかのような速度と破壊力だ。
「本当に魔術も魔道具も使って無い?」
「あたいが使ってるのは気の力だ! ってなんでそんな事てめえに答えなきゃなんねえんだ!」
マキナさんは僕の質問に答えると余計に怒り始めた。自分で答えておいて怒らないで欲しい。
「い、急いでたんじゃなかったんですか!?」
「そうだよ! 急いで戻らねえとジジイに追加でしごかれるんだよ! てめえのせいだ!」
「あ、いや、そういうことなら余計にこんなところで時間を費やしてる場合ではないか、……と?」
マキナさんは僕の言葉で殴りかかる腕をピタリと止めた。その顔は分かりやすいくらいに色が抜けている。顔面蒼白とはこの事だろう。
ギギギギっと、ぎこちなく首を動かして辺りを見渡した後、再び僕の顔を見たマキナさんの表情は、まるで絶望の中にいるようだ。
「ご、御愁傷様です?」
――あの後、マキナさんは脱兎の如く走り去る姿を見ながら、僕は屋根の上で一人呆然としていた。
視界の先で再び火柱が上がるのを見て我に返り、再びディアナの元に走り出した。
こんなことになるのがわかっていたら、上を走っていかなかったのに。
いや、今更言っても仕方がないことか。
今は早くディアナに追いつかないといけない。
ディアボロスの実力はわからないが、今も戦いが継続されているところを見ると、相当な実力者であることが窺える。
戦いという不確定な状況ではディアナに万が一ということもある。
僕がその場に到着すると、ちょうどディアナが忍術を行使しているところだった。
「忍法、雷遁の術!」
ディアナが天高く手を指し示すと手甲が淡く光り、それと共に中空に小さな黒い雲が現れ、ディアボロスに向かって稲妻が走る。
避けようとするディアボロスを嘲笑うかのように稲妻はディアボロスの脳天に突き刺さった。
……ディアボロスの身体は黒焦げになり、煙をあげながら沈黙する。
ちょうど終わったところだったようだ。ディアナには面倒を掛けてしまったな。
「ごめん、ディアナ。途中で想定外のトラブルに巻き込まれて遅くなった。無事終わったようで――」
「いえ、まだです」
「……まだ? ディアボロスなら黒焦げに――」
言いかけてディアボロスの方へ視線を向ける。すると先程黒焦げになったはずのディアボロスの皮膚は音と煙を立てながら再生していく。
「……再生、している?」
「先程から幾度となく再生を繰り返しています。いったいどういう事なのでしょうか?」
先程のグレゴワールの言葉がよぎる。
少なくともグレゴワールはこの事を知っていたということなのだろう。詳細を教えてくれなかったのは、彼自信が混乱していたので仕方がないか。
しかし再生か……、随分と厄介な能力だ。
あの再生力を何とかしなければ倒すことは出来ない、といったところか。
しかしグレゴワール達はどうやって捕まえるつもりだったのだろうか?
彼等の戦力にヒントがあるのかもしれないが、さて。
「セントラル、ディアボロスをスキャンしてくれ」
『かしこまりました。対象のスキャンを開始します、暫くお待ち下さい。――スキャンを完了しました』
モノクルに表示された情報を確認する。
情報を見たところでは身体能力が強化されていること、また再生能力が高いことは確認できる。
この情報だけでは対策になりそうなものは無い。
「セントラル、対象の情報から何か該当するデータが無いか分析してくれ」
『かしこまりました、分析には時間が掛かります。暫くお待ち下さい』
分析はすぐには終わらなさそうだ。セントラルの分析が終わるまで色々試してみるか。
僕はディアナと連携しながら、襲いかかってくるディアボロスをいなしつつ、ディアナからこれまでに試したことを確認を始めた。




