贈り物と試練
まだ体調はすぐれませんが、なんとか一話書けました。
いつも読んでくださる読者の皆様ありがとうございます。
アリスと一緒に家を出て目的の場所へ向かう。
目的の場所とは多くの店が軒を連ねている大通りだ。
家からは多少離れてはいるのが珠に傷だが、家の近所では一番品揃えは良いのでアリスもよく買い出しに来ているらしい。
らしいというのは僕は一度も来たことがないからなのだが、来てみるとやはり想像した通りに人が多い。
品が集まる場所なので仕方がない事だとは思いつつも、当然のことながら居心地はまったく宜しくない。
天獄塔の広場は平気なのにこの大通りが苦手な理由は単純明快、錬金術に関係する物がないからである。正直なところワクワクがほとんどない。
「やっぱり人が多いな。早くも心が折れそうだ……」
「ふふ、ここに来てからまだ少ししか経っておりませんよ」
言葉通り僕の心は早くも折れそうなのだが、アリスはというと一見冷静に見える表情をしているが、嬉しい気持ちが全身から溢れているようにも見える。
最近はわりと忙しかったこともあって、アリスを家に残して外出することが多かったので、その分だけ喜んでくれているのかもしれない。
それはそれとして今回の目的を忘れてはいけない。しかし――
「プリッシラさんが喜びそうなものか……。よくよく考えてみると趣味嗜好も何も知らないから、さっぱり検討がつかないな」
「甘い食べ物などはいかがでしょうか?」
「甘い食べ物か……」
ふと僕の脳裏にセイレーンの歌声での惨劇がよぎった。
「いや、あれは人によって好みが分かれるから」
「あれ、とは何でしょうか?」
「アア、キニシナイデ。コッチノハナシ」
危ない危ない、折角セイレーンの歌声では頑張ったのだからここで意図を読まれる訳にはいかない。
「あー、アリスはよくここに買い出しに来ているんだよね? アリスに何かプリッシラさんに贈れそうなものを選んでもらうのもアリかな」
「バーナード様、贈り物はご自身で選ばれた方が良いですよ」
アリスが僕の問いかけに明るい笑顔で諭してくる。ですよねー。
「うーん、それはそうなんだけど、いざ大通りまで出てみると皆目検討がつかなくてね。プリッシラさんが貰って喜びそうな物ってなんだろうか? ちなみにアリスは何を貰ったら嬉しいかな?」
「私はバーナード様から戴けるものでしたら何で嬉しいです」
アリスが少し恥ずかしそうにしている。
……さらっと嬉しいことを言ってもらえたのは良いのだが、さすがに何でも大丈夫となるとアリスの意見は参考にはなりそうにないな。
プリッシラさんは旅をすることが多そうだから、何か旅に役立ちそうなものとか……は、この辺りには売ってないな。
まあ、もし売っていたとしても特に足りないものとか困っていることを聞いたわけではないので選びきれる自信はない。
なんだか悩みが深みにはまっていっている気がする。
「ちなみにバーナード様でしたらはどのような贈り物を戴くと嬉しいですか?」
「僕? 僕はレアな錬金素材かな、四神の素材とか飛び上がるほど嬉しいよね」
「……そ、そうですか」
あれ、ちょっとだけアリスが何か言葉を飲み込んだ気がする。
「……それでは錬金素材以外ではどうですか?」
「珍しい魔道具かな、見たこと無いような斬新な魔道具は見てて飽きないよね」
「そ、そうですか」
声のトーンがさらに下がった気がする。
「……贈り物は贈り主の心がこもっていればそれで良いと思いますよ」
うん、何か言葉以上の何かを感じるけど、そこは考えたら負けな気がする。とはいえアリスの言っていることには概ね同意できるかな。
僕が見て贈りたいと思った物にしよう。
――わりと長い時間をかけて悩みながら色々な店を歩き回ったが、結局これといった物は見つからなかった。
このアクセサリーショップにも何度か立ち寄った為、店員達の視線が突き刺さるように痛く感じ始めていた。
普段の買い物なら欲しいものを即決して買い物を終えるのだが、いざ贈り物となると思ったようにいかない。
無難な線で妥協する手もあるにはあるが、それでは昨日の謝罪を含めて心をこめた贈り物とはいえない。それは僕のプライドが許さない。
……しかし、まさかこんなに悩む事になるとはまったく予想していなかった。
そう思いアリスの様子を見ると意外な事にまったく疲れていないようにすら見えた。僕の前なので気を使わせないように耐えているのかもしれない。
せめて一言くらいはフォローしておくべきだろう。
「時間をかけてしまってごめんね。疲れたかい?」
「いえ、まだそれほど時間も経っていませんし、特に疲れていませんので大丈夫ですよ。私はいつももっと時間をかけてしまいますから何でもありません」
な、ん……だと!?
これだけ時間をかけてしまっているのに、本当に疲れていないのか!?
しかしアリスは何事も無いような笑顔でにこやかにそう言い放った。
改めて女性店員達の様子を窺ってみる。
先程まで突き刺さるような視線を感じていた気分だったが、そう言われてみれば店員の女性達の様子も最初と比べても特に変わりがないようにも見える。
僕が勝手にそうだと思い込んでいただけだったようだ。
僕には到底辿り着けない境地のように思えるが、彼女達にとっては日常的でどうということは無い出来事だということか……。
そう思いながら周りを見渡してみると、一人の男性と目があった。
同伴している女性は探索者だろうか? 幾つものネックレスやブレスレットを試着しては男性に意見を求めているようだ。
その男は少し疲労を抱えた様子を見せながらも、何かを悟った表情でこちらに会釈をすると、同伴の女性には一切疲れた素振りを見せずににこやかに対応していた。
……一言も言葉は交わしていないが、何か気持ちが通じたような気がする。
「バーナード様、どうかされましたか?」
「いや、何でもないよ」
今は彼の健闘を祈る事にしよう。
しかしさすがに疲れてきたので、そろそろ休憩を挟んでも良いかもしれない。
「少し喉が渇いてきたね。どこか休憩できる店はないかな」
先程の男性に習い、あくまで平静を装って休憩を提案してみると、アリスは快く提案を受け入れてくれた。
「確かに少し喉が渇いてきましたね。それでしたら近くに良いお店があります」
アリスに促され店を出る。
案内されたお店は確かに先程の店のすぐ近くにあった。
何度も通りすぎたはずだが先程までは全然気が付かなかったので、僕が言ってもまったく説得力がないが、なかなかに目を引くきれいな店構えだ。
「ここも結構人気のあるお店なんですよ」
「すごく甘いとか?」
「いえ? 特に甘いという話は聞いたことはありませんが、確かにセイレーンの歌声のような料理があると嬉しいですよね」
「ウン、ソウダネ」
店の中に入ると警戒していたファンシー要素は一切なく、インテリアも落ち着いた作りになっていた。
これなら落ち着いて考える時間を取れるかもしれない。
注文した紅茶を待つ間少し考えることにしよう。
「それにしても、こんなに悩むことになるとは思っていなかったよ」
「プリッシラさんの事をよく知らないので、悩んでしまうのも致し方無いと思います。しかし先程も話しましたが、それほど重く捉えなくても送り主の心がこもっていれば嬉しいものですよ」
……心、か。
僕ならではの心を込められる贈り物といえば、店で購入した物よりはやはり魔道具かな。
少々色気には欠けるが、プリッシラさんに合う魔道具を作って送るというのも悪くはないかもしれない。
そうなると大通りまで出てきた意味自体が無くなってしまうが、この結果に至る為に必要なプロセスだったと考えよう。
「そう、だね。うん、そうしよう! アリスありがとう」
難問に一区切り付いたせいか、思わず正面に座るアリスの手をにぎって立ち上がってしまう。
「きゃっ!?」
食器が割れる音とともに女性の驚く声が店に響いた……そう、僕の後ろから。
恐る恐る振り向くと、そこには僕の椅子に押されて転倒してしまった店員の姿と、見事にぶちまけられた紅茶があった。
何であんなに長い時間悩めるんでしょうか?
え、誰がって?
おっと、誰かが来たようだ。




