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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
神託編

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まんぷく亭

 いやいやいや、他の客が追い出される事になるくらいなら別の店でも良いんだが!?

 こんな所で恨みを買いたくないぞ。


 そう思って、慌ててマリナさんの様子を見ると、少しだけ申し訳無さそうな素振りを見せつつ、追い出された客達に声を掛けていた。


「あー、全然空いてなかったんだ、なんかゴメンね」


「ははは、いつものことだから気にしてないよ。もう食べ終わった後だったから良かった」


「そうそう、でもこの人数が叩きだされたのは初めてだね」


 ……いつもって、なんてひどい店だ。

 マリナさんと話していた客の一人が、ふとこちらを見た。僕達のせいでこんなことになっているので、少しだけ気まずいがなんだか負けた気になるので、こちらが目を逸らすことはしない。


 すると、にこやかだった客の顔が驚きの色に包まれ、その視線がマリナさんと僕達の間を数回行き来する。


「え、マリナちゃんが探索者を連れてきた!?」


 その大きな一声に目の前の客達だけでなく、店内の様子もガラリと変化した。




 ――そんなわけで今現在、僕たちはまんぷく亭の片隅……では無く、ど真ん中にあるテーブルを囲んで和気あいあいと食事を堪能……出来て無いな。


 それもそのはず、お店に入ってから今に至るまで僕達のテーブルには常に誰かが挨拶に来ているからだ。

 はじめのうちは店内の客に留まっていたのだが、気がつけば店外からも多くの人が訪れており、店の中は人でごった返していた。


 ……これではまるでお祭りのようだな。


「なんかゴメンね。……まさかこんな事になるとは」


「マリナさんはここの皆に大事にされているんだね」


 なんでもマリナさんは生まれた時からこの都市に住んでいるそうで、特に幼少の頃はこの近辺で育ったらしい。

 人当たりも良く活発な美少女(本人談)は当然の如く皆に愛されすくすくと育ったわけで。


 探索者になってからは主に教会と天獄塔を往復する日常なのだが、このまんぷく亭にだけは足繁く通っているとのことだった。


 そんな、この地区の住民に愛されているマリナさんが、遂にぼっち探索者を卒業することになったということで、話は瞬く間に周辺の住民に伝わることとなり、今のお祭り騒ぎにつながったわけだ。


「それにしても、この店もそうですけど周りの家も年季の入った作りをしていますね」


「ああ、この地区は異界都市アミルトの中でも特に古くからあるのよ」


「え、でもこの辺りは天獄塔からはかなり離れてますよね?」


「それはそうよ。天獄塔は元々罪人の住む塔として警戒されていたわけだし。それに――」


 マリナさん曰く、異界都市アミルトは元々天獄塔に挑む討伐隊の駐屯地として設備を整えたのが始まりとのことだった。


 初期の討伐隊は数回に渡り部隊編成を行い、塔に挑んだが誰ひとりとして帰ってくることは無かった。

 当初は天獄塔から魔物や錬金術師が襲ってくる可能性も考えられたため、当然そんな危険な場所の付近には駐屯することも出来ず、塔から十分な距離をとって駐屯地を作ることになる。


 数回の派遣により、ようやく天獄塔の異界には少数精鋭の部隊が必要という結論が導き出される。

 それにより討伐が長期化した為、次第に周辺が整備されていき、商人も集まったことで村が出来上がったというわけだ。


「……それで魔物の素材に目をつけた商人達が上層部に働きかけて、探索者という職業が出来上がった」


「そういうことだ。中々面白い話だろう?」


「確かに非常に勉強になりましたよ。ところで貴方はどちらさまでしょうか?」


 今僕と話している女性。実は途中からマリナさんの説明に混ざり始めて、異界都市アミルトの成り立ちを音楽を交えつつ物語風に説明してくれた。


 非常に語りが上手だったので、周りの人達やマリナさんも聞き手にまわってしまうほどだった。


 ……のだが、未だにこの人の名前すら知らなかったりする。


 まあ、名前聞いても覚えていられる自信はないけどな。初対面の人が多すぎて途中からはもう何人と挨拶したのかすら覚えていない。


 マリナさんの様子を見ても初対面のようで、というより周りの誰もこの女性の事を知らないようだ。


「おお、これは失礼した。私は吟遊詩人をやっているプリッシラだ」


 プリッシラと名乗ったこの女性、吟遊詩人を自称するだけあって先ほども確かに見事な語りだった。

 言われてみれば、旅をするせいか汚れてはいるが、その身なりは羽根付きの大きな帽子を被り、仕立ての良い服に身を包みマントを羽織っている。

 王都でもよく見かけた吟遊詩人達と同じように、足元には先ほどまで使っていたリュートが立てかけられている。


 長いエメラルドのように綺麗な緑色の髪に切れ長の目、十分に美人と言えるだろう。

 こんな女性が一人で旅をしてよく無事でいられるものだ。恐らくはかなりの腕前をもっているのだろうな。


「改めて初めましてですねプリッシラさん。僕はバーナードといいます。一応この探索者パーティーのリーダーを努めさせてもらっています」


「ほう、バーナード……」


 僕の名前を聞いたプリッシラさんの眼の色が一瞬変わったが、すぐに元の表情を取り戻した。

 まあ、吟遊詩人がこの都市でバーナードの名前を聞いたら、何かしらの反応を示すのはしかたがないことだろう。


「ところでプリッシラさんは、こちらにはどのような目的で?」


「ん、ああ、実は先日まで王都にいたんだがね、妙な噂話が広まっていたんだ」


「妙な噂……ですか?」


「ああ、実に妙な話だ。この異界都市アミルト何か大きな変化があったらしいという噂なんだがね。噂の元を辿ったところ、誰もその変化を覚えていないんだ」


 ……さすがにあの施策では完全に噂を抑えることは出来ないことはわかっていたが、思ったより早かったかな。

 まあ、いずれは話が広がるのもしかたがないことだとは割り切っているので、さほど驚きはないが。


「それで自分の目で確かめに来た、と」


「ご明察だ、とはいえこの都市を訪れてすぐに、その変化を目の当たりにすることになったわけだがね」


 プリッシラさんは大げさに身振りをしながら饒舌語った。


「最近の大きな変化といえば近代錬金術の復活ですかね」


「そう! 本当に驚いたよ、これは素晴らしい技術革新だ」


 技術革新というか退化していた技術を取り戻したのだが、まあその辺りは敢えて突っ込むような話しでもないか。


「なんでも暫くの間は混乱を抑えるために、王命で情報規制しているみたいですよ」


「……むぅ、そういうことか。確かにこれほどの技術革新は不用意に広げれば、大混乱を巻き起こしてしまいかねないからな」


「そのモデルケースがこの都市なんでしょうね。今のところは大きな問題は起きていないようですし、そのうち都市外部にも広がっていくでしょうね」


 少なくとも百年前には大きな問題もなく十分に普及していたわけだしな。


「この店に来るまでに色々な場所を回らせてもらったが、皆が非常に活気にあふれていた。素晴らしい都市だよ」


 プリッシラさんの話を聞いて、周りにいた人たちもうなずいて誇らしげにしている。自分たちの住む町が褒められて嫌な思いをする人はいないので当然の反応か。




 プリッシラさんとの話も終わり、僕達も無事に食事を終えることが出来た。

 マリナさんはもう少しまんぷく亭で皆と話したいそうなので、ここで解散することになった。


 そして皆思い思いに帰途につく事になったのだが――


「どうしてプリッシラさんは僕達に付いて来ているんですか?」


 ジーク達とも別れ、僕とアリスは二人で歩いているのだが、プリッシラさんが少し離れて後ろから付いて来ているのだ。


 初めは偶然かと思い何度か回り道をしたところ、変わらずバッチリ付いて来ていた。

 さすがに偶然でもそんな歩き方はしないので確定だろう。


久しぶりの新キャラ登場です。


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