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ペキッと

 この活気のある広場の様子を見ると、なんだか嬉しくなってくる。

 理由は簡単、以前とは明らかに変わったところがあるからだ。


 それは探索者達が持っている荷物の量。

 僕が初めて目の当たりにした光景は皆が一様に大きな荷物を背負っていた。

 しかし失われた近代錬金術を取り戻し、シェリルさんが始めたアイテムポーチの貸出のおかげで、今では一見何も持っていないようにすら見える。


 そのため広場全体における荷物の量が減り、広場をより多くの探索者が歩くようになり、広場内における店舗の売り上げが増えたことで、より広場内の賑やかさにも拍車がかかっているわけだ。


「バーナード様、どうかされましたか? とてもうれしそうです」


「ああ、賑やかなのは良いなぁと思ってね。ちょっと見入ってた」


 さすがにアリスは僕のことをよく見ているな。いち早く僕の様子に気がついて声をかけてくれる。

 アリスはくすっと笑い、僕が見ていた広場に視線を向けると「そうですね」とつぶやいた。


 その会話を聞いてマリナさんもこちらに目を向ける。


「確かにここ最近はどんどん変わっていっているわね」


「そういえば、マリナさんと初めてあった時は凄く重そうな荷物を抱えていましたね」


「荷物を持っていないと目立つから仕方がなかったのよ。最近はアイテムポーチの貸出が始まったおかげで重い荷物を持つ必要が無くなったから嬉しいわ」


 マリナさんもこの変化の恩恵をうけることが出来たようだ。その言葉の通り、確かに嬉しさが伝わってくる。


 と、ニコニコしていたマリナさんが、急に目を斜め上に向けて考え込んでいる。何かを思い出そうとしているように見えるが……、直後はっとした表情を浮かべ――


「って、やっぱりあの時の黒髪は貴方だったんじゃない!」


「え、まさか本当に信じていたんですか!?」


 そういえば、そんな話もあったな。まさか本当に信じていたとは……。


 僕の開き直りに対して、マリナさんが口をパクパクさせている。いや、あんなのは完全にクロな状況を限りなくクロに近いグレーにしただけじゃないか。


「一応念のため言っておきますけど、事後にはなりますが、既に権力者の許可は得てますから問題はないですよ」


 また喉元に剣を突き立てられたら堪らないので、一応説明はしておかないとな。


「おい、あそこのパーティーと一緒にいるのマリナだぜ」


「おお本当だ。あの男はやけに親しそうだなっておいおい、周りの女は美女だらけじゃねえか!? ハーレムパーティーかよ」


「え、マリナのやついつのまにパーティー組めるようになったんだ!?」


 マリナさんが大きな声を出したせいか、周りの視線がこちらに集まってしまった。


「いや、俺もいるんだが……」


 ジークのつぶやきも虚しく周りの反応は変わることはないようだ。……女性陣のインパクトが強すぎるせいだろうか。


「ちょっと目立ってしまっているようなので、早急に精算を済ませて退散しますか」


 僕の提案に皆が同意してくれたので、僕たちは速やかに受付を目指すことにした。


 しかし移動を始めてからも、こちらを見る周りの視線は減るどころかどんどん増えているように感じる。いや、こちらというよりは正確にはマリナさんを中心に向けられているというのが正しいか。


 その視線の大半は驚きに満ちた様子だったりするのだが……、やはり先程の男達が言っていたように、マリナさんがパーティーを組んでいることが主な原因なんだろうな。


 その証拠に視線は一度マリナさんに向けられた後、パーティーメンバーである僕達に移り、そのままひそひそ話へ移行するという。


 そういえば今朝は探索を開始したのがわりと早い時間だったので、他の探索者達とはあまり会わなかったせいで、まったく気が付かなかった。


「……まさかここまでの反応を見せるとは。面倒な事が起きなければいいけど」


 多くの視線を背中に受けながらも受付にたどり着いたのだが、結局列に並んでる間もその視線は増えることはあっても減ることはなかった。




 奇異の視線に関しては少しだけ慣れてきたので、今日のところは諦めることにした。さすがにこればかりはどうにもならない。


 なんとか無事に清算を済ませた後、皆で何か食べに行こうという話になり、マリナさんおすすめのお店に向かうことになった。


「おう、そこのにいちゃん。モテモテなんだって? もう有名人じゃないか」


「茶化さないでくださいよ、ダニスさん」


 ……ここでもその話か。

 突然失礼な声掛けを披露してくれたのはもちろんダニスさんだ。

 ダニスさんにも話が伝わっていることを考えると、これはもう相当な広がりを見せてしまっているということなのだろう。


「私たちに何の用? こんな遅い時間に塔に向かってるってことは夜からの探索なんじゃないの?」


「こいつは手厳しいな。取り付く島もない」


 ダニスさんは肩をすくめながら話を続けた。


「まあこれから探索ってのは間違ってないさ。時間によって何か変化がある可能性もあるからな」


「第二十五層でしたか? もうしばらくそこで停滞してますね。本当にその階層には一体何があるんですか?」


「ははは、そいつは実際に見てからのお楽しみってやつだ。お前たちも早く到達して精々苦しめ」


 ……お楽しみって言っておいて舌の根も乾かないうちに苦しめは無いだろう。

 そんな事言われたら到達前から気が重くなるじゃないか。


 それにしても時間帯とか考えないといけないくらいに手詰まり状態ということか。


 興味は尽きないが情報が手に入らない事にはどうにも成らない。ダニスさんがポロッと漏らしてくれることを期待したが、さすがにそんなことは起きないか。


「それじゃあ僕たちはこれから食事なので失礼しますね。探索頑張ってください」


「言われるまでもないさ。お前さんも周りの嫉妬には気をつけな。拗らせた奴が急に後ろからブスリってことも無い話じゃないからな」


 ……そういう縁起でもないことを。

 でも、気をつけるに越したことはないか。もともと狙われることには慣れているが、探索者は魔術師と違って魔力での感知が難しいからな。


 ふとジークの方を見る


「そういうことなら一応、ジークも気をつけたほうが良さそうだね」


「……コラ、一応ってなんだ。まあ気をつけておくぜ」


「そういえばジークは噂になってなかったな。そっちは大丈夫じゃないか?」


 あ、ジークの心が折れた音がした。

 おう、元気出そうぜジーク。




 ダニスさんと別れた後は、特に誰かに絡まれることもなかった。


「そういや、探索帰りでそのまま来ちまったが大丈夫なのか?」


「そう言われてみればそうだね。マリナさん、一回出直しますか?」


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ほら見えてきたわよ」


 マリナさんは気にする素振りもせずに、店に向かって指を差した。……あれは。


 店の前に到着し、改めて店に掛かっている看板に目をやる。


「まんぷく亭?」


「なによ、なにか不満でもあるのかしら」


「あ、いや、ちょっと思ってたのと違うかなって」

 マリナさんも女性なので、当然おすすめの店は少しお高い静かな店を想像していた。


 しかしながら目の前の店の中から聞こえてくる喧騒は、そのようなものとは縁遠いものだった。


 確かにこの類の店なら探索帰りにそのまま寄っても何ら問題はないだろう。


「さ、さっさと中に入るわよ。ここは人気があるから席があると良いけど……マスター、五人入れる!?」


「おう、マリナちゃんか! すぐ空けるから待ってな」


 店のマスターらしき人の声が聞こえて少しすると、マスターの怒号と共に数人の酔っぱらいが店から叩きだされた。……え?


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