とりあえず禁止
少々トラブルは発生したが、その後もマリナさんは危なげなくレアアース・エレメンタルを撃破した。
最後は脳天からの一撃で頭部を破壊されて、豪快な音を立てて仰向けに倒れたレアアース・エレメンタル。
そしてマリナさんはその上に着地して、意気揚々とこちらを振り向く。
「私の力はこんな感じよ! 満足してもらえたかしら?」
マリナさんは少しだけ息を乱しながら、高揚感のある様子でアピールをしている。
……蛮族じゃないんだから、わざわざ踏みつけてアピールする必要はないんですよ?
それにしても、セオドールの魔道具を使っているというくらいなので、てっきり戦闘スタイルはセオドールと同じスピード重視だと思っていたのだが。
さすがにまさかのパワーファイターだったことには驚いた。
今まさにマリナさんの言うように、確かに文字通り怪力を見せてもらうことは出来……とか思っていたらマリナさんに睨まれた。心でも読まれているのだろうか?
しかし今後、上層に行くにつれてどんどん魔物の攻撃がインフレして行くことは目に見えている。
その為、このまま力押しに戦うスタイルでは、いずれ頭打ちになることだろう。
それは少々困ったことになるので心配が無いとはお世辞にも言えない。
……とはいえ現状の戦力としては及第点といったところだろうか。
スタイルは少しずつでも誘導していくことにしよう。
「どうしたのよ、もしかして私の実力に驚いちゃった?」
少し考えていたのを勘違いしたのか、マリナさんは少し得意気にしている。
「ああ、そうですね。これから期待してますよ」
「あ、あなたに期待されたって別に嬉しくなんかないわよ!」
ああ、うん。顔を真っ赤にして嬉しそうに言われても説得力はないのだが……、これまで長い間特殊な扱いを受けてきたせいだろうか?
マリナさんはこういう時にどうしたら良いのか、戸惑いが大きいのかもしれないな。
こればかりは、少しずつ慣れていってもらうしかないか。
先程のレアアース・エレメンタルは僕たちにとっても初見の魔物なので、戦いっぷりを見ただけではマリナさんの実力は図りかねてしまう。
これはレアアース・エレメンタルに対しても同様のことが言える。
やはり実際にレアアース・エレメンタルと戦う必要はあるだろう。
……ああ、そうだなそれでいこう。
「それじゃあ、今日は一人ずつ魔物と戦うことにしてみようか」
「かしこまりました。それでは次に遭遇した魔物は私が戦います」
「う、先を越されちまった!」
「別に先を越されたからって、魔物達が逃げるわけじゃないんだから、大人しく順番を待ちなさい」
アリスの宣言を聞いてジークが悔しそうにしている。恐らくは先ほどの戦いを見て盛り上がってしまったのだろう。早く戦いたいようで落ち着きがなくなり始めている。
エリーシャもジークの扱いが板についてきた。夫婦漫才でも見ているようだ。
この流れで行くと、アリス、ジーク、エリーシャ、そして最後に僕が戦うという順番で行くことになりそうだ。
さて、改めてこの第十八層の探索を始めようか。
毎度のお決まりとなった未踏地形探索魔道具を取り出して起動する。
「え! な、なによこの音は!? って、……離れていった?」
「マリナさんは初めてだから驚かせちゃったかな? 近代魔道具で地図を作っているんだよ」
「え、何よその便利な魔道具は……ずるいじゃない」
いや、ずるいということはないだろう。使える魔道具はもったいぶらずに使っておくべきだよ。
それにしても、この未踏地形探索魔道具に驚いたって事は、マリナさんはこれを持っていないということか。
「そういえば、マリナさんはこれまで地図はどうしてたんですか?」
「えっと、勘?」
……君は本当にセオドールの子孫かい?
まあ子孫だからって同じタイプなわけがないのはわかっている。
どうにも納得がいかないのは、僕がセオドールを友人ながらも尊敬しているからなのだろう。
セオドールの子孫はこうあって欲しいという勝手な願望だ。
「こ、細かいことは苦手なんだからしょうがないじゃない!」
そういえばトライアルの時も忘れてたりとかしてたな。
……そういうことか。
実は先日から違和感があったんだ。僕達よりも遥かに前から異界探索をしている割には、踏破階層があまりに低いのだ。
先ほど見せてもらった力からすれば、もっと攻略が早くても何らおかしくはない。
しかし、ろくに地図も作らずに探索していたのであれば、一つの階層を攻略するのにも相当手間がかかることだろう。
むしろ、よくこれほど短期間で第十六層と第十七層を攻略出来たというものだ。
「でも地図が無いと、何をするにしても時間がかかりますから、途中で戻る必要が出てくるのも一回や二回では無いくらいにあったんじゃないですか? 地図も無しにどうやって入り口まで戻ってたんです?」
「それは心配要らないわ。私にはこの魔道具があるんだもの」
そう言いながら、マリナさんは空間に手を突っ込むと、アイテムボックスの中から何かを取り出した。って、それは――
「振り出しに戻る君」
「正解よ、凄いわね。こんな物の名前まで知っているなんて思わなかったわ」
「何だ、その妙な名前は?」
「いや、決して僕がつけた名前じゃないから」
……ジークに突っ込まれてしまった。
とりあえず冤罪は何としても回避しておくとして、また随分と懐かしい魔道具が出てきたな。
振り出しに戻る君、この妙な名前の近代魔道具はもちろんセオドールが作ったものだ。
ある一つの地点を記憶しておくとどれだけ入り組んでいたとしても、この魔道具の有効範囲内にさえいれば、記憶しておいた地点に戻ることができるのだ。
わかりやすく言えば、簡易的なポータルだと思ってもらえれば良いだろう。
つまり逆に言ってしまえば、マリナさんはこの近代魔道具があるせいで、これまでに地図の必要性を感じることが出来なかったということなのだろう。
正直なところを言ってしまえば、地図が無くても帰還できることがわかっている状態なら、僕も地図はいい加減になるかもしれない。
「……マリナさん」
「どうしたの? そんなに深刻そうな顔しちゃって」
「とりあえず、緊急時以外はこの魔道具は使用禁止の方向でお願いします」
「え、どうしてよ!? 私、この魔道具無いと戻って来れないじゃない」
……だからですよ。
「マリナさんはセオドールの魔道具に依存し過ぎるあまり、探索者としての基本的な部分が習得てきていないようですから。少なくとも自力で戻る努力から始めてください」
僕の言葉に他のメンバーも概ね同意なようだ。
一方マリナさんはというと、言葉の刃が心を切り刻んでいるようで、息も絶え絶えになっている。
マリナさんには悪いが、少なくとも僕達と行動をともにしている間は、戦闘以外での近代魔道具の使用に関して管理をしていったほうが良さそうだ。
「マリナさん、それで良いですか?」
「し、仕方がないわね。同行中は貴方の指示には最大限従うようにグレゴワール様から言われていることだし、確かに貴方の言うことにも一理あるわ」
とりあえずマリナさんのメンタルも回復したようなので、引き続き探索を行うことにする。
マリナさんと話している間に付近の地形は記録出来たようなので、それを確認しながら方角を決める。
「貴方だって魔道具を使っているじゃないの。なんだかずるい……」
「僕は旅の基本なんて、とうの昔に習得していますからね。伊達に世界中を回っていませんよ」
「その歳で世界中を回れるわけがないでしょう。いい加減なことを言わないでよ」
……失敬な。
というか、グレゴワールからその辺りの話は聞いていないのか?




