ザ・謝罪
グレゴワールとの話が終わり、現在はシェリルさんと相乗りで帰りの馬車に揺られている。
マリナさんとは後日改めて今後の探索に関して色々と確認すると約束したら、すぐに退室してしまったので挨拶はしていない。
お互いに手の内を知らないので、連携を含め確認しないといけないわけだからな。
最初は方角も違うので別の馬車で帰ろうかとも思ったが、シェリルさんがアリスに会いにいきたいと言い出した為、相乗りをして今に至る。
それにしても、今日はまったく想定していなかった方向に話が進んでしまったが、まあ上々な結果ではないだろうか?
「いやあ、今回はどうなることかと思いましたよ」
「そうね。あ、そういえば教会でバーナード君は一体何をやったの? 上手く言えないんだけど、急に魔力がどこかに拡散しちゃった感じだったわ」
「ああ、先ほど殺されかけた時のことですね」
「う、あ、あれは……、そう! 勘違いで勢い余っちゃってネ」
……言い訳になってないし、てへぺろしても無駄ですよ。
敢えて返事を一切返さずに、表情を消してシェリルさんを見つめ続ける事数分、無言の圧力が効いたのか素直に謝ってくれた。よく数分も耐えたもんだ。
まあ謝ってくれたなら教えてあげてもいいか。
「あの魔道具は対魔術師用に僕が作り上げた近代魔道具ですよ。以前はよく魔術師に襲われていたので、一瞬だけですが付近の魔素をかき乱すことができるんです」
そう言って、手でかき混ぜるようなジェスチャーをする。
「……そんなこともできるのね。あれがあったら魔術師は何も出来なくなっちゃうわね」
シェリルさんは先ほど自分に起きたことと結びつけながら何かを考えている。対策でも考えてるのかな?
確かにシェリルさんの立場だと重要なことか。
まあそれほど利用する機会があるわけでもないので、正直にネタバレしても大した問題は無いか。
「弱点はエネルギー効率が悪い為に効果が一瞬だけで連発出来ないことと、能動的に起動する必要があることですね」
「ああ、皆が今回みたいに目の前で魔術を放ってくれるわけではないものね」
「不意打ちされることの方が圧倒的に多いですからね」
正面で使うことができれば相手の虚をつけるから、必殺の威力があるのは間違いないけどね。
実際のところ、プライドが高くて偉そうに正面から挑んできた魔術師は、もちろんこの魔道具の餌食になってもらった。
「でも、バーナード君さすがね」
「まあ伊達に数十年も錬金術やってませんよ」
「あ、いやそのことじゃなくて」
シェリルさんは関心したような表情でこちらを見ている。って今、シェリルさん何て言った? さすがって聞こえた気がするが? 魔道具のことじゃないのか?
「……何のことですか?」
「マリナの件よ。あの場でいきなり即決しちゃうんだもの、大したものよ。やっぱりバーナード君くらいになると普段からそういうのは一任されているのね」
……ぉ、ぉぅ。
背中に嫌な汗が流れてきたぞ。
「――というわけで、次回の探索からマリナさんをパーティーメンバーに迎え入れることになりました」
さて僕が今、何処で何をしているかというと、ジークの家で二人を前に、マリナさんをパーティーメンバーに迎えることを誠心誠意お伝えしている最中である。
シェリルさんにはそのまま僕の家に向かってもらうことにして、慌てて馬車を飛び降りその足でジーク達の家を訪ねることにしたのだ。
「珍しくアポ無しで訪ねてきたかと思えば、さらっととんでもない話をしやがるな」
「バーナードくんにしては珍しいわね。何かトラブルでもあったの?」
あったと言えばあったし無かったといえば無かった。勢いでシェリルさんに殺されかけたくらいなので大したことはない。
「グレゴワール司祭からのお願いでね。こちらで勝手に決めてしまって申し訳ない」
それより皆がいない所で勝手に決めてしまった事は謝る必要があるだろう。
命をかけている探索に、よく知らない人間を向かい入れると言っているのだから、ひどく怒られても仕方がないくらいだ。
「……ところで、バーナードはなんで謝ってるんだ?」
「そうね、私にもよくわからないわ」
あれ、二人共怒っていない? 顔を上げて二人を見るとその表情は怒っているどころか、少し呆れたような雰囲気を醸し出している。
「そもそも俺はトライアルの時に、勝手に押しかけてそのまま居座ってるわけだしな。それからすれば司祭様からの依頼なら、至極まっとうな話じゃねぇか?」
「私もトロールから助けてもらって、その勢いで入ったわね。他人のことは言えないわ」
「なんだかんだ言っても、バーナードは頼られたらなんとか対応しようとしちまうからな。だから俺達がこれまで探索者としてやってこれたのは、間違いなくバーナードのおかげだ」
ジークは僕の胸を軽くグーで殴り、そのまま話を続けた。
「その分色々振り回されて死にそうになったのも一回や二回じゃすまねぇ気もするが、そんなもんはお互い様だろ」
お、おう。なんだか少々気になる表現もあったが、二人共怒っていないようなので良かった。
ああ、マリナさんの情報を少しくらい共有しておくべきか。どうせ後日顔合わせの時に知ることになるだろうから問題は無いだろう。
「一応ここだけの話だけど、マリナさんはいくつか近代魔道具をもっているみたいだ」
「まあ第十五層を一人で探索するにはそれくらいないときついだろうな。だが、魔道具があっても一人では厳しいところだってあったはずだ」
「そうね、大量の魔物に囲まれることだってあるし、それを乗り越えられるだけの実力はあるんでしょうね」
いや、他の錬金術師の魔道具ならともかく、セオドールの作った魔道具を使っているとなれば話は変わってくる。
「多分所有している近代魔道具はどれも高性能なものばかりだから、マリナさんの実力は測りかねるかな」
「バーナードが言うくらいだから、相当に高性能ってことか、そいつは興味が尽きねぇな」
「浮気は許さないわよ?」
「ば、そういう意味じゃねぇよ!」
「ふーん、それなら良いけど」
……ジーク、完全に尻に敷かれてるな。この調子ならエリーシャが思うほど心配は要らないんじゃないかなぁ。
「魔道具の作成者は、僕が知るかぎり最高の腕と創造性を持った錬金術師だからね。性能は折り紙付きだよ」
「そんな奴がいるのか、世界は広いな」
「バーナードくんも負けていられないわね」
うん、エリーシャの言う通りだな。
時間はかかっても良い。ただ時間をかける以上は、セオドールのやつを超えたと自信をもって言えるように成らなければいけない。
「二人共ありがとう。あ、そうだ。マリナさんとは近いうちに顔合わせをすることになると思うよ。二人の都合がいい日を教えてもらえるかな」
「私たちはいつでも良いわよ。それこそ明日でも大丈夫よ」
「わかった。それじゃあマリナさんにも聞いてみるよ」
二人との話も終わり、家を出て帰宅の途に付く。もうすっかり暗くなってしまったな。
今日一日はなんだかんだ言って忙しい一日だったな。もう少しのんびりできる予定だったんだけど、まあ仕方がないか。
来るときは馬車を飛び降りて走ってきたから、当然帰りの馬車も無いわけで、……大人しく歩いて帰るか。
少し歩いた辺りで、ふと違和感を覚える。なにやら不穏な空気を感じるな。
物陰に隠れて気配を薄くし辺りを見渡す。
……数人の気配がするが、どうも僕が狙われているというわけでは無いみたいだ。
少し後をつけてみるか。




