神託とマリナ
もっと執筆時間が欲しいのう。
……返事がないただの屍のようだ。
じゃなくて。
流石に話が飛躍しすぎたかな? グレゴワールの反応を見る限りでは半信半疑といったところだろうか、……いやどちらかと言えば疑いの色が濃いかな。
でも別に嘘は言っていない。
ただ、いきなり言って、はいそうですかと簡単に信じてもらえるような話ではないことは理解している。
どうすれば信ぴょう性が高くなるか。……そうだあれを利用できないかな。
「普段は目立つので隠しているんですが」
そう言いながら首に手を持って行き、そのまま掛けているネックレスを外す。
「……っ、その髪はクローツ様と同じ――」
「はい、黒髪黒目です。先日、訳あって元の青髪青目から変質してしまいました。もしかしたら神託と何か関係があるのかもしれませんね」
……適当だけど。
神託時にクローツがどのような容姿で現れるのかは分からないが、少なくとも僕が会った時は黒髪黒目だった。
もしかしたらと思って掛けてみたが、グレゴワールの反応を見る限りでは、上々な反応だと言って問題はないだろう。
折角なのでこのまま押し切ってしまおう。
「かくれんぼ君、マリナさんが第十五層で使っていた近代魔道具の名前です。この名前を知っているのは限られた人間だけのはずです」
「……その名前まで知っているのですか、秘匿されている彼の手記にも記されておりましたが、バーナード様でしたか」
セオドールが作った近代魔道具の一つ、高性能隠密マント――正式名:かくれんぼ君――、恐らくそれがマリナさんが僕の索敵に掛からなかった理由だ。
ちなみにこの随分センスのない名前は、セオドールが本気で悩んで絶大な自信を持ってつけた名称だ。
初めて聞いた時に大爆笑してしまったせいか、即お蔵入りになってしまったので、この正式名称を知っている人間は限られてくる。
つまりこの名称を知っているということは、セオドールとかなり親しい関係だということになる。
しかしまさか手記にまで残しているとは、よほど根に持っていたのか?
セオドールの死後、彼の作った近代魔道具は軒並み回収され廃棄されたと聞いたが、恐らく教会の関係者が密かに回収し、マリナさんに与えたのだろう。
……となると
「もしかして、マリナさんがパーティーを組めない理由は近代魔道具にあったりしますか?」
「それも理由の一つですが、一番の理由は別にあります」
グレゴワールは一度シェリルさんの方を向き、一つ頷くと改めてこちらを向き話し始めた。
「マリナがパーティーを組む相手には錬金術師が含まれる必要があります」
「……それも神託ですか?」
「はい、神託によると全員が錬金術師である必要はありませんが、最低一名は錬金術師を含む必要があります」
「それはまた難儀な話ですね。事が事なので公に募集するわけにもいかない」
「その通りです。希望者に情報をもらさずに選別する必要がありましたので、結果的に世間では原因不明だがパーティーを組まない探索者というレッテルが貼られることになりました」
もしかしたらマリナさんは、他にいくつも近代魔道具を持っていたりするのだろうか?
セオドールの近代魔道具は面白いものが多いから久しぶりに見てみたい気はする。
いっその事異界産の素材で強化するのもありだろうか、見てみたい触ってみたい改造したい。
「バーナード君、落ち着きなさい」
「え!?」
ふと二人に目をやると少し心配そうな目で見られている。僕はいたって冷静ですよ? でも、少し落ち着いてみよう。
というか、グレゴワールが何かを言いたそうにしている。
「どうされました?」
「あの、もしご迷惑でなければ、マリナをバーナード様のパーティーメンバーに入れていただけないでしょうか?」
まあ、見合いを断られた以上はその選択肢になるだろうとは予想していたが、それはそれで難しい問題も孕んでいる。
「マリナさんは単独で第十五層を攻略できるくらいなので、こちらとしては願ってもないことです。しかし――」
「しかし?」
「僕が天獄塔を登っているのは完全に個人的な理由です。上層階にある僕の研究室にたどり着いたとして、そこにあるものを誰かに渡すつもりはありません」
「マリナが天獄塔に挑んでいるのは神託によるものです。他の探索者とは目的が異なりますので問題は無いでしょう」
「そうですか、……では、あとはマリナさんの意思次第でしょうか。どうも僕は嫌われているようですので」
そう言うとグレゴワールは少し首を傾げる。
「マリナはバーナード様のことを随分気に入っておりましたから問題は無いと思いますが」
なん……だと……? あの暴言の数々が? というか剣を突きつけられた記憶ならありますが?
ま、まさかのツンデレだったりするのか?
――そんな訳で今、目の前にマリナさんが座っている。
改めてグレゴワールに呼びだされたマリナさんは、難色を示しつつもなんとか席についてもらうことは出来た。というか、コレ本当に嫌われてるんじゃないか?
席に座ってから数分、誰も何も離さないまま時間が過ぎていく。
そんな状況を変えようと思ったのか、グレゴワールが先んじて口を切った。
「そういえば、マリナはバーナード様が黒髪黒目だったことを知っていると聞きましたが、それは本当ですか?」
「え、やっぱり!? ……こほん。はい、初めて見かけた時には確かに黒髪黒目だったと記憶しています」
マリナが大げさに反応をしたが、すぐに表情を戻し落ち着いた素振りで返していた。。
返答を聞くなり、グレゴワールが力なく頭を垂れた。
「……その話を聞いていれば、今日という日がもう少し早く訪れていたことでしょう」
……黒髪黒目はクローツ教にとって特別な意味を持つらしいからな。初対面で気付いたのであれば数ヶ月は違っていた事になる。
とはいえマリナさんの様子を見る限りでは、そのあたりの話は知らないんだろう。
石像でその容姿を見ることはできるが、クローツが黒髪であることは神託を直接受けたものしか知ることは出来ないのだから。
「そ、それで私をお呼びした理由は何でしょうか?」
グレゴワールの落胆具合が効いたのか、マリナさんは慌てた様子で話題をそらし始めた。
「ん、ああ、そのことなんだがマリナ、君はそちらのバーナード様のパーティーメンバーに入りなさい」
「え、彼は錬金術師ですよ!? てっきりグレゴワール様は魔術師を求めているものだと」
「魔術師など求めるわけがないでしょう」
グレゴワールの落ち着いた様子に反して、マリナさんはかなり驚いている。……どういうこと?
ああ、そういえば先ほどの黒髪黒目の件もそうだったが、マリナさんには神託に関する情報が制限されているということなのだろう。
それにしても情報を制限し過ぎじゃないだろうか?
情報が制限されている以上は行き違いがあったとしても不思議ではない。
以前、一人ぼっちだったことにに触れた時に、いきなり怒ったのはそのイライラが溜まっていたのかもしれないな。
「……それがグレゴワール様のご指示であれば、バーナード様、以後よろしくお願いします」
……やっぱり嫌そうじゃないか? だ、大丈夫かなぁ。
「様付けはちょっと、むず痒いから止めて欲しいかな。あまり畏まらないようにして欲しいかな」
「……わかったわ、それじゃあ年下だからバーナード君で良いかしら?」
年下という言葉にグレゴワールとシェリルさんが微妙な表情をしている。ま、まあ年齢言ってないし、そんな顔しなくても良いんじゃないかなぁ。
「じゃあ、それで。マリナさんこれからよろしく」
そう言って手を差し伸べると、遠慮がちに握手された。……やっぱり嫌そうじゃないか?




