勘違いと神託
更新が遅れてしまいました。
シェリルさんの爆弾発言で、一瞬頭が真っ白になったが、……ちょっと待て。
いくらなんでも、僕にそっち系の趣味がないことくらいわかるだろうに。
「そのことなんですがね、こちらとしても誠に残念ですが、どうもバーナード様はそちらの趣味は無いと仰っておりまして……」
グレゴワールがシェリルさんに先ほどの一件を話し始めた。シェリルさんにもちゃんと説明してやってくれ。
しかし、何故かグレゴワールの話を聞くにつれて、シェリルさんの表情がわずかに怒りを帯びてきているように見える。
「……バーナード君、どういうことかしら? 私にもよく分かるように説明して欲しいのだけど」
「いや、どうもこうも僕はそっち系の趣味は持ちあわせていませんから」
そう言い放つと、何故かシェリルさんの怒りが限界を超えた。
「貴方はアリスちゃんの想いをなんだと思っているのよ! 研究は確かに大事よ、でもね献身的な彼女を見て何も思わないの!? そっち系の趣味じゃないって何よ!?」
シェリルさんがすごい勢いで詰めてくる。え、なんで怒られてるんだ?
ふと、アリスが目覚めた日の出来事が僕の脳裏に浮かび上がる。
え、なんでこんな時に? というより、これって走馬灯ってやつじゃ……、いや僕は別に死にそうになんてなってないぞ? って、目の前のシェリルさんから今までにないレベルの魔力の高まりを感じる。
え、冗談でしょ!? ここは教会――
とっさにリストバンド型の近代魔道具を起動する。頼む、間に合え!
「……あれ?」
静かな部屋の中に、シェリルさんの間の抜けた声が響いた。よ、良かった。間に合った。
これは緊急用に用意した魔道具で、ってそれどころじゃない。
「シェリルさん、ちょっと落ち着いてください。僕の認識ではここまで怒られるような事を言ったつもりはないのですが、何か話が大きく食い違っていませんか?」
「……食い違い?」
「はい、食い違いです。何故怒られた上に、アリスの話まで出てくるんですか?」
「確かに今回の件にアリスちゃんは直接関係はしないけど、バーナード君に好意をもっていることくらい気付いているでしょ!?」
食い違いという言葉を聞いたせいか、シェリルさんは怒りを抱えつつも、努めて冷静に話をしようとしている。いきなり魔術を撃たれることはなさそうだ。
アリスの気持ちには、もちろん気付いている。
始めの頃はホムンクルス特有の気持ちかと思っていたが、これまで数回に渡りホムンクルスを錬成してきた今ならよく分かる。
あの好意はホムンクルスではなく、アリス個人の気持ちだ。
流石にあれがわからないのは、鈍感を通り越してしまっている。だけど、それと今回の件がどう間接的に関係があるというのだろうか?
「もちろん気付いていますし、すぐにとは言いませんが、誠意を持って対応するつもりです。でも、それと男色の趣味と何の関係があるというんですか?」
すると何故か二人の時間が止まったかのように、ピクリとも動かなくなった。
「……男、色? グレゴワール司祭、いつからマリナは男性になったのかしら?」
「え、あ、いえ、マリナは今も変わらず女性ですが……」
え、マリナさん?
「あれ、グレゴワール司祭の右耳のピアスは?」
「これですか? これはクローツ教において司祭であることを示したものです。しかし急にどうされました?」
……セオドールよ、そういえば君から教わったことは大体はあっているが、稀に激しい間違いをしている事もあったのを忘れていたよ。どうも盛大な勘違いをやらかしてしまったようだ。
つまり今回の見合い話とやらは、僕とマリナさんの見合い話だったというわけだ。
近代錬金術の復活劇、それにより教会側に何かしらの変化があり、僕との縁を作る必要が出てきたのだろう。
しかし、調べても調べても裏側の立役者である僕の存在はつかむことが出来なかった。
ところが先日、第十五層のガーディアン戦を目撃したマリナさんは、僕がその存在であることを確信し、グレゴワールに報告した。
グレゴワールは直接、僕にコンタクトを取る前にシェリルさんに面会をし、今日この機会を作ることに成功したというわけだ。しかし――
「何故色々すっ飛ばして、見合いなんですか? 別に会談でも良かったわけですよね?」
「……簡単に言ってしまえば、神託が関係しています」
……クローツめ、あの野郎また何かやらかしやがったな?
沸々と湧き上がる怒りをなんとか抑えつつ。グレゴワールの話に耳を傾ける。
「マリナに関する神託を全てお教えすることは出来ませんが、バーナード様が疑問を抱かれるのももっともなお話だと思われますので、バーナード様に関係する部分をお伝えする許可は得ております。実は――」
グレゴワールは内容を抜粋しながらも丁寧に説明をしてくれた。
僕もセオドールの処刑後、その家族も処刑されることになったが、神託により救われたことまでは聞いていた。
実はその信託の中でクローツは、近代錬金術に関することに触れているらしい。
当時から数えておよそ百年後。つまり現在の事だが、再び近代錬金術は復活し今よりも大きな発展と栄華をもたらす、と。
その近代錬金術復活の場所は、もちろん異界都市アミルトである。
そして錬金術師と強固な縁を作るためには、セオドールの子孫であるマリナが鍵になるとされた。
……まあ突っ込みたいところはいくつかある。
クローツが僕を起こしに来なかったら、僕はまだ起きていないだろう。つまりクローツは自分の神託の補正を行う為に、わざわざ自分の元に呼び寄せてまで僕を起こす手伝いをした、ということだ。
百年後の事柄を予言する程の奴が、何故僕が起きる時期を見誤ったのか? 理由はよくわからないが、クローツにとってはイレギュラーだったということだろう。
そして近代錬金術の復活とか繁栄に関しては、錬金術排斥派が知ったら大変な自体が起きていたことは容易に想像できるものだが……。
ああ、未来の話ができるくらいだから、その程度のことは織り込み済みと考えるべきか。
そして一番大事なところだと思われるが、僕との縁を作るためにマリナさんが鍵となるとのことだが――
「……なにも結婚まで画策する必要はありませんよね?」
「そ、そうでしょうか? いくら稀代の錬金術師であるセオドール・アリストラの子孫とはいえ、バーナード様からすれば、当然ですが縁もゆかりもない娘です。それこそ結婚という手段でも取らなければ、強固な縁などとても――」
「僕は貴族や商家というわけではありませんし、本人の意思から離れた結婚には肯定的な印象は持っていません。それに僕としては親友の子孫という時点で、かなりの縁を感じますしね」
「まあ、言われてみればそうね」
僕が説明でシェリルさんは理解してくれたようだが、肝心なグレゴワールはというとイマイチ得心がいかないようで、未だ首をかしげている。
「バーナード様と親友……ですか?」
あ! そういえばグレゴワールからすれば、僕は神託には示されているが、あくまでも一介の錬金術師に過ぎない。
……自分で言うのはかなり恥ずかしいので、シェリルさんに説明を――目をそらされた。先ほどの勘違いを根に持ってるな。……くそ、仕方がない。
わざとらしくなってしまったが一つ咳払いをし、説明を始める。
「セオドールには互い認め合い切磋琢磨した、親友と呼べる間柄の錬金術師が存在します。その錬金術師は故あって若い姿形をしていますが今現在、この異界都市アミルトで探索者をしています」
言っている僕は死ぬほど恥ずかしいというのに、場の雰囲気は非常にシリアスだ。
まあグレゴワールからすれば神託に係る事案だから当然といえば当然か。
部屋の中にグレゴワールが喉を鳴らす音が静かに響く。これから僕が何を言うか既に理解しているということか。
「天獄塔と呼ばれる塔の元の所有者であり、セオドールの死から百年後に目を覚ました錬金術師、バーナード・エインズワース。……つまり僕のことですよ」




