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アリス

 先ほど買った肉串を食べ終える辺りで丁度、探索者ギルドに着いた。


 早朝にもかかわらず、賑わいをみせている。こんな早くから大したものだ。っと、また登録受付に行列ができているといけないから早めに並ばないと。


「アリス、上の階に登録をしに行こうか」


 人混みを抜けながら、上の階に向かうと登録受付には長い行列が……無かった。


 前回と違い、受付には誰も並んでおらず閑散としている。あれ、なんで?


「朝はやい時間は、商人などの荷馬車が優先して入管を受けますので、昼ごろまでは探索者志望の旅人は街の中に入れないんですよ。この時間に受付に来られるのは、前日登録が間に合わなかった方くらいなので空いていますよ」


 受付前でキョドっていたせいか、受付の女性が説明をしてくれた。


「ああ、そういうことですか、あの、この子を探索者登録したいんですが」


「え、この子を……ですか? ご存知とは思いますが、探索者は非常に危険な仕事ですよ?」


 受付の女性がアリスを見た後、露骨に表情が変わり責めるような口調で確認をしてくる。


 そりゃそうか、アリスの見た目はどう見ても強そうには見えないからなあ。


 でも今朝は三階から平気で飛び降りたし、先日のトライアル待ちの集団に比べれば全然弱くないはず。


「こう見えてもこの子は決して弱くはありませんから。それにそのためのトライアルでしょう?」


「トライアルとはいっても命の危険が無いわけではないのですが……はぁ、そこまで仰るのであれば構いません、但しこちらは一切の責任は取れませんが本当に宜しいですね?」


「ええ、もちろんわかっています」


 その後の受付は特に問題なく進み、アリスの探索者証発行とトライアル登録が完了した。あ、そうだ。


「この後、修練場を利用したいのですが、何か手続きは必要でしょうか?」


「こちらは窓口が違いますので、一階の総合受付でお願いします」


「わかりました、丁寧にありがとうございます」


 一階ってことはあの人混みか……受付には時間がかかりそうかな。


 受付を離れ一階に向かうと、やはり探索者が多かったが窓口も相応の数が用意されており、思っていたほど待たなくても良かった。とはいえ一時間近く待ったので多少待ち疲れたけどね。


 修練場は受付で登録してから、地下の修練場で探索者証を提示することで利用が可能となるらしい。

 基本利用時間に制限は無いが、混み合っている場合は利用時間に制限がかかる事もある。


 あとは一時間毎に一回結界を張る魔術師が交代するため、施設が破壊されないように休憩時間となるようだ。




 修練場に行ってみると、丁度交代時間だったのか数人の探索者が休憩していた。ちなみに受付は……ああ、あったあった。


「これから修練場を利用したいのですが、受付はこちらで良かったでしょうか?」


「あ、はい。こちらであっていますよ。本日の受付担当のシェリルと申します。あら、バーナードさん髪の色変えられたんですか?」


 え、ああ。よく見たら僕が探索者登録した際に受付にいた女性だった。シェリルさんって言うのか。改めて見るとこの人もきれいな人だな。


 年齢は二十歳くらいだろうか、髪は金髪でショートボブ、胸は大きくはないが、スマートで全体のスタイルは整っている。


 眼鏡をかけていてぱっと見はおとなしそうに見えるので、先日の虎人の一件がなければ僕も楽勝で騙されているだろう。


「髪の色は変えていませんよ。先ほど、一階で利用登録してきました。探索者証の確認お願いします」


「あら、そうなの? 暗かったから見間違えたのかしら。はい、探索者証の確認が終わりました。上で説明は受けました?」


「あ、はい。大丈夫です」


「では、C区画を利用してください。くれぐれも他の探索者と争い事を起こさないようにしてくださいね。他の担当はわかりませんが、私は容赦しませんので」


 おお、先日のジーク達との一件の時にいてくれたら楽だったのに……。


 さて……と、それじゃあ、アリスの動きを確認しようか。修練場の片隅にいくつかの武器が置かれているので、あの中から好きなモノを選んでもらおうか。


「アリスはあの中で何か使ってみたい武器はある?」


「少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?」


「ゆっくり選んで構わないよ」


 いくつかの武器を手に取り使い心地を確認していたが、……武器を決めたようだ。


「レイピアとマン・ゴーシュか、アリスは身のこなしが軽いから合ってるかもしれないね。じゃあ、少し打ち合おうか」


 僕も武器を選ぶか、うーん普段から使っているわけじゃないけど、この中では一番近いからショートスピアかな。


 ショートスピアを手に取り数回振り具合を確かめた後、用意された区画に向かい中央辺りでアリスと対峙し互いに武器を構える。


 ふむ、きちんとさまになってるな。ホムンクルスとしての知識か、それともセントラルから引き出したのだろうか。どちらにせよ期待できそうだ。


 まずは打ってきてもらうか、僕も身体能力が上がりすぎてるし、具合を確かめないといけないからちょうど良いかな。


「セントラル、サポート」


『かしこまりました。サポートを開始します』


「それじゃあ、打ち込んでおいで」


「了解しました。では、いきます。やっ!」


 掛け声とともに、一足飛びに間合いに入ってくる。っと、剣筋も思ったよりも速い!?……が、見えないことは無い。この辺りは目も良くなっているのかもしれない。


 最初だからか、アリスも正面から素直な剣筋で突いてくるので捌きつつ受け手にまわり様子を窺う。


 一回二回と受ける毎にアリスの剣筋も少しずつ変わってきた。次第にフェイントも混ぜながら突き、切りも混ぜ始める。


 うん、先日のジークとくらべても十分に強い。じゃあ、受け側はどうかな?


「そろそろ、こちらからも行くよ」


 同じように最初は素直に、次第にフェイントを織り交ぜながら打ち合う。しばらくの間、区画に打ち合う音が響く。


 アリスの腕前は想像以上だったみたいだ。多少は心配していたのだけど杞憂だったかな。これなら十分戦力になるだろう。




「――それじゃあ、そろそろ休憩しようか」


「はあ、はあ、はあ、はい……」


 アリスが肩で息をしながら返事をし構えを解く。アリスの動きが思ったより良かったため、少し長めに打ち合いをしてしまった。


 僕は身体能力が上がっているせいか、さほど疲れてもいないがアリスは疲れてしまったらしい。


 客観的に見ると僕の体力は少々異常に見えるかもしれないな。幸いこの時間帯は見学してる人もいなかったので誰にも見られてはいなさそうだ。


 あー、そんなことなかった。シェリルさんがバッチリこっちを見て手を振っている。


 と、とりあえずシェリルさんは置いておくとして、今はアリスだ。


「良い動きだったよ。途中からセントラルのサポート使ってた?」


「はい、バーナード様にならってセントラルに接続してサポートを使わせてもらいました」


 僕は最初から利用していたが、セントラルのサポートは戦闘行為にも利用することができる。


 ずるいと言うなかれ、剣筋を予測したり、相手の動きの小さな変化に合わせてフェイントを見破ったり、相手の苦手とする打ち込みがわかったりする。


「これからも、積極的にセントラルを使って構わないからね。何か冷たい飲み物を持ってくるから、しばらく休んでて良いよ」


「あ、いえ。そういう事は私が……」


「あー、そういうことは気にしないで、疲れてるだろうからしばらく休んでて」


 アリスの返事を待たずにその場を離れる。飲み物は塔の広場なら売ってるかな。




 広場は相変わらず大勢の探索者で賑わっていた。


 露店も幾つか出ているようで、飲食物を売っているもの、素材を販売しているもの、探索用の道具やポーションなどの加工品を販売しているものと多種多様だ。


 広場内での商売は探索者のみが行うことができる。


 異界で手に入れたものを探索者ギルドに売ることもできるが、依頼が出ていない素材は買取価格が低い場合もあるので、広場で直接探索者相手に売ることもできる様になっているらしい。


「おう、そこのにいちゃん。そんななりじゃまともに探索できやしないぜ?」


 声のした方を振り向くと探索者用の道具の露店でおっさんがニコニコしてこっちを見ていた。


 並べてある品を見ると使い古された武器や防具が並んでいた。探索者の中古装備を扱っているのだろうか。


 こんな格好だから侮られているのかもしれない。


「今日は飲み物買いに来ただけなので、また機会があればよろしくお願いします」


「ああ、それで荷物が少ないのか、これは失礼しちまったな。飲み物ならあっちの方に売ってるぜ」


 まあ、普段からアイテムポーチしか持ってないけど。んー、もしかしたら単純に心配してくれただけなのかも……。


 ちょっと疑り深くなってる気がするなあ。いかんいかん。


「おじさん――」


「お兄さんだ、もしくはダニスと呼んでくれ」


「……ダニスさん、ありがとう」


 おじさんと呼ばれることにコンプレックスでもあるのだろうか?


 流石にあの見た目をお兄さんとは呼べないので、名前で呼ぶことにした。


 ダニスさんの案内通り向かった先には、異界産の果実ジュースの露店があったが、人気があるのか客も結構並んでいた。




 果実ジュースを買って戻ると、ヨタヨタと倒れそうになりながら修練場の入り口から出てくる集団がいた。あれは……先日のジークの取り巻きだな。


 また誰かに喧嘩売って返り討ちにでも合ったのだろうか?そう思っていると、その中のひとりと目があった。


「げ、もう戻ってきやがった……」


「戻ってきた? ああ、先日はどうも。お体の方は大丈夫ですか? 見たところ、満身創痍と言っても差し支えないほど見えますが……」


「な、なんでもねぇよ。てめえには関係ねえだろう」


 よくよく見てみると、服や身体に刺し傷や切り傷が盛り沢山だった。……もしかしてアリスだったりして。カマかけてみるか?


「女の子にでも負けましたか?」


「な! 何言ってやがる。そんなわけねーだろ!」


 あからさまに動揺したなこいつら。はぁ、何となく見えてきたぞ。


 修練場で僕を見かける → 女の子一緒にいる → 女の子を置いて席を外した → さらってやろう。


 そのままかどうかは分からないが、当たらずとも遠からずってところだろう。最初に『戻ってきた』だったし。


「何があったのかわかりませんが、あまり僕の周りをうろちょろするようでしたら……本気で……潰しますよ」


 少し殺気を出しながら威圧すると、ひっとたじろぎ後ずさると思い出したように後ろを振り向き、何かを見つけたような表情を浮かべた後、僕の横を壁際に避けるように逃げていった。


 ん、何か修練場に怖いものでもいたのか?そう思って、修練場の入り口を入ると遠目に入り口を睨みつけているシェリルさんとアリスが見えた……瞬間、僕の姿を確認したシェリルさんとアリスの表情がころっと変わり、こちらに手を振ってきた。ジョセイハコワイナァ


「アリス飲み物買ってきたよ。あれ、シェリルさんどうされました?」


「ああ、実はね……」


 シェリルさんの話では、僕が席を外してすぐに奴らがアリスに絡み始めたようだ。


 シェリルさんは先ほどからアリスの実力を見ていたので、アリスのことは特に心配はしていなかったみたいだが、逆に奴らにやり過ぎないように途中から介入してくれたらしい。本当に感謝感謝だ。


 そんなアリスは、先ほどから口頭ではなくセントラルを通じてメッセージを送ってきているが、その内容は『後で全員消しますか?』だ。ニコニコしながらこっちを見ている。いや、だから怖いって。


「そういえば、あなた達明日からのトライアルに参加するのよね?」


「はい、二人で参加する予定です」


「そっか、あなた達なら万が一にも問題無いとは思うけど一応気をつけてね。あまりに油断していたら死ぬ可能性もあるから」


「トライアルなのに死の危険ですか?」


「塔に関する事になるから詳しい内容は話せないんだけど、トライアルの存在は新人探索者を守るためじゃなくて、既存探索者を守る為に行われているのよ。トライアルで死ぬ探索者は毎回大勢出るわ」


「命の危険がある割に、トライアルの説明って特にされませんでしたね。荷物や装備とか特に制限は無いんですよね?」


「探索者ギルドからすれば、探索者になれない見習い探索者が何人死のうが関係ないわ。王国にとって莫大な利益をもたらす塔とその探索者のみが大事なのよ。探索者志望なんてそれこそいくらでもやって来るから」


 そういうことなら、少しは気を引き締めてかかる必要があるかもしれないな。僕はともかくアリスは、実力はあっても命のやり取りに慣れているわけではない。


「助言ありがとうございます。万が一が無いように気を引き締めて当たることにします」


「ああ、いいのいいの。ちょっと君たちに興味も湧いてきたし応援してるわ」


「それじゃあ、明日の準備もしないといけないので僕らはそろそろお暇します」


 予定外の事もあったので、この後の打ち合いは切り上げて帰ることにした。


 アリスの探索者登録も無事完了したし、忘れかけてたけどアリスの準備もしないといけないしね。


 さて、アリスの装備を揃えてあげたいところだけど、当然のことながら先立つモノが無かったりする。


 幸いアイテムポーチの中には、ダガーが入っていたので武器に関しては最悪これで我慢してもらうとして、問題は防具だ。


 アリスはホムンクルスだから、魔核が破壊されない限りは死ぬことは無いので、本当は人間ほど防具にこだわる必要はない。


 近いうちに揃える必要があるとは思うけど、とりあえず胸当てだけはライトプレートを買っておくとして。あとは悪目立ちしないレベルで、安物でいいので軽装の皮鎧を揃えることにしよう。


 そういえば広場の露店で中古装備を扱っているところがあったな。




 アリスを連れて先ほどの露店まで行くと、ダニスさんから声をかけてきた。


「おう、そこのにいちゃん。そんななりじゃまともに探索できやしないぜ?」


 それ、さっきと同じだから……。


「……ははは、冗談だ。気にすんな」


 ダニスさんを覚めた目で見ていると、笑いながら誤魔化された。この人どこまで本気なんだろう。


「それより何のようだ?さっきは用が無さそうだったが……隣の嬢ちゃんか?」


 ダニスさんは人の良い笑顔を浮かべながら、僕からアリスに視線を移し上から下まで見始めた。


「はい、この子の装備を買いたいのですが、先立つモノが余りありませんのでこちらで揃えようかと」


「ふむ、姿勢もいいし身のこなしも軽そうだから、柔らかめの皮鎧で良いだろう。こいつを着てみな。あとは、どこか硬くしておきたい箇所はあるか?」


 そういって、売り物の中から革鎧を見繕ってアリスに放り投げた。え、サイズとか大丈夫か?


「硬くしておきたい場所ですか。んー胸当てとかありますか?」


「じゃあ、こいつもだな」


 ダニスさんから渡された防具を服の上から着せると、なんとサイズはピタリ。凄い目利きだ。


「それぐらいで驚くなよ。こう見えて俺も探索者やってんだから。それより武器はいらねえのか?」


「あー、いや欲しいのは欲しいんですけどね。ただ、先程も言いましたが先立つモノが少ないもので、レイピアとマン・ゴーシュ揃えるのは難しいかなぁと……」


「ふむ、んじゃあよ。こいつとこいつを防具と合わせてこれくらいでどうだ?」


 ダニスさんの提示した金額は想定していたよりかなり安いものだった。それで商売やっていけるのか?


「ああ、商売の心配ならいらねぇぞ。にいちゃんたちはちょっと周りと違う感じがするからな。先行投資ってやつだ。その代わりこれから贔屓してくれよ?」


「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせていただきますが、本当に宜しいんですか?次から他所で取引をするかもしれませんよ?」


「その時は俺の見る目が無かったってだけのことさ、ハイリスクハイリターンが探索者の基本だからな」


 なかなかに気持ちのいいおっさんだな。なるべく期待に答えられるようにしたいものだ。




 アリスの装備を購入し宿に戻ると、丁度親父さんが入り口の掃除をしていたので、アリスのベッドを確保するために部屋を二人部屋に変更してもらった。


 最初は別の部屋を用意しようと思ったのだけど、アリスが頑なに拒否したこともあるが、有事の際にアリスの修復作業をしなければいけないことを考えると同室のほうが良いだろうという結論になった。

 さあ、明日はいよいよトライアルだ。

頻繁に投稿できる人とか本当に尊敬してしまいます。

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