天獄塔・第十五層(二)
サンド・ワイバーンが地面から飛び出してきたことで、その大きな姿が顕になった。
一度飛び出るとすぐには潜れないのだろうか? 特に潜る素振りも見せずに、大きな唸り声を上げてこちらを威嚇している。
基本的な見た目は通常のワイバーンと同じだが、特徴的なところは目が存在していないところ、そして耳が大きく発達しているところだろうか。
「お、おいエリーシャ、大丈夫か!?」
「大丈夫よジーク。ちょっとだけ驚いたけどね」
結構ギリギリの回避に見えたが、エリーシャ的にはもう少し余裕があるようだ。
心配して声をかけたジークよりもよほど落ち着いている。
「サンド・ワイバーンも毒をもっているかもしれないから、皆十分に気をつけて」
「かしこまりました」
「任せとけ」
「わかったわ」
サンド・ワイバーンが毒をもっているかは分からないが、通常のワイバーンのように毒をもっている可能性もあるので注意だけはしておくことにする。
「それじゃあ行くよ!」
僕の号令に合わせて、皆が弾けるように駆けてサンド・ワイバーンに近づいていく。
――皆、立体的な戦い方にもかなり慣れてきているようだ。魔道具のブーツから作られる足場を上手く利用してフェイントを織り交ぜつつ、それぞれが得意としている距離を保っている。
大型の魔物を相手する場合、その攻撃を一撃被弾しただけで致命的なダメージを負う可能性も考えられる。
それがわかっているのだろう、各自が間合いをきちんと把握できているようだ。
一方、サンド・ワイバーンはというと、思うように獲物を捉えきれないせいか、所々大振りな一撃が増えてきているように見える。その苛立ちがこちらに伝わってくるほどだ。
それにしても地上に出てから、今に至るまで最初のような俊敏な動きは見せていないな。
油断させるつもりで温存しているのか、それとも地上ではあの速度が出せないのかは判断が付かないが、先ほどの突撃は厄介だったので、無いなら無いで正直助かる。
闘いながら様子を窺ったが、どうも毒は持っていないようだし、この程度の速度だったらアリスやエリーシャはもちろん、今のジークなら十分避けることができるだろう。
問題があるとすれば、やはりこちらの火力だろうか。各自が所有している武器そのものの切れ味は、サンド・ワイバーンの硬いウロコも容易に切り裂ける程なのだが、アリスやエリーシャの武器は軽いため、その身体を深く切り刻むことが出来ないようだ。
この辺りは今後の課題ということにしておこう。
まあ、そのためどうしても僕かジークが一撃を入れる必要があるのだが。サンド・ワイバーンは本能的に理解しているのか、僕とジークにはなるべく近寄らず距離を保とうとしてくる。
――時間はかかったが、遂にジークの一撃が胸元を捉えた。
「終わりだ」
もがき苦しみ、動きが鈍ったサンド・ワイバーンの死角から上に飛び、その大きな首を切り落とす。
素材の採取が終わるまでの間、少し休憩を取ることにして地図の作成具合を確認する。
どうも、まだ余り作られていないようで、目的地の辺りを見ても、オアシスらしきものは地図上に見当たらなかった。
「まあ、時間はそれなりにかかるからな」
「ん、どうしたの?」
「ああ、いやこっちの話だから気にしないで」
……心の声が少し漏れてしまったようだ。気をつけないと。
「バーナード様、素材の採取が終わりました」
「ありがとう、アリスもゆっくり休憩して良いよ。今日は半日あれば目的のオアシスにたどり着く予定だから、あまり急いでも仕方がないしね」
――休憩を終え、結界魔道具を止め再びオアシスのある方向に向かって歩き始めた……のは良いのだけれど、再び遠くの方から地面が蠢きながら何かが近づいてくるのが見える。
……またサンド・ワイバーンか、このペースで襲われると面倒だな。
何とかしてさっさと止めをさせないかな? 先ほどと同じ戦い方をすると時間がかかるのは目に見えてるから、何か新しい一手が欲しいところだ。
「お、おい、何ボーっとしてるんだバーナード。またサンド・ワイバーンが近づいてきてるぞ」
「ああ、うんわかってる。何か一手欲しいなぁと思ってね。……あ!」
「バーナード様、どうかされましたか?」
皆、アリスの問いかけと同じく、少し不安そうにこちらを見ている。迎撃するならそろそろ体勢を決めないといけないから当然といえば当然か。
皆を放置し、サンド・ワイバーンに向かい無防備に歩き始めると、皆が心配の声を上げ始めた。
「大丈夫、皆そこで見てて」
そう言いながら、アイテムポーチから一つの近代魔道具を取り出して地面に置いて起動する。
起動した魔道具は低い音をあげながら
そして高速で近づいてくるサンド・ワイバーンが飛び出しそうな距離にさしかかり――
地面を震わせる程の衝撃と、もの凄い激突音を響かせた。
「「「え!?」」」
衝撃が収まり、地面から一部だけ露出している身体を掴み地面に引きずり出すと、頭が潰れ絶命したサンド・ワイバーンが姿をあらわす。
「ば、バーナード様、一体何をされたのでしょうか?」
珍しくアリスも驚いているようなので、先ほど起きたことを説明をすることにした。
「サンド・ワイバーンの潜行速度がかなりの速度だったから、そのままぶつかってもらったんだよ」
「ぶつかるって何にだよ?」
そうだよね、砂漠にぶつかるものなんて普通は無いからね。
「この近代魔道具、地盤硬質改良機で地面を固めたんだよ。本来、この魔道具は地盤が柔らかい地域などで、建築や土木の用途で地盤を改良し強固な地盤を手に入れるためのものなんだ」
つまり、サンド・ワイバーンの進行上の地面を一気に固めて、避ける間もなくぶつかって貰ったというわけだ。
流石に強力な体躯を誇るワイバーンも、硬質化した地盤には敵わなかったようだ。
それにしても、弱らせるくらいを予想していたんだが、まさかこんなに上手く行くとは……普段は余り使わない魔道具も異界産の素材で強化しておいて良かった。
「まあ、そんなわけで次からサンド・ワイバーンはこれで仕留めようか」
その後、探索を開始してから半日以上は歩いていたが、どうも予定と違ってきていることに気付いた。
流石にそろそろオアシスに到着しても良い頃だと思うのだが、何故かそのオアシスが辺りを見渡しても影も形も見当たらない。
「おかしいな、報告書の情報に間違いがあったのかな?」
「確かに、オアシスらしきものは見当たらないわね」
エリーシャも風の精霊の力を借りて、少しの間空から辺りを眺めていたが、オアシスは見つからないようだ。大体の位置に近づけば目立ってわかると思っていたのだが……。
……しかたがない、横着してないで地図を見るか。
アイテムポーチから踏地形探索魔道具の親機を取り出し起動させる。
そして浮き上がった地図を見て驚いた。
「……オアシスが移動している?」
実際に地図上で動いているところが見えるわけではないが、情報を取得した時間の差なのだろう、移動した軌跡が断片的に記録されていたのだ。
報告書にはオアシスが移動することは記載されていなかったので、少なくとも発見した探索者は移動することに気付いてはいない事になる。
実際には不定期に移動するのかもしれない。今日はたまたま移動する日に当たったということなのだろうか?
この速度で移動されると、今日は歩いても追いつけそうに無い……か。
「皆ごめん。今日はオアシスで野営する予定だったけど、辿り着けそうにないから、この付近で野営することになりそうだ」




