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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
近代錬金術復活編

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悩みと提案

 ダニスさんたちを見送った後、宿に帰ることにした。


 ……回り道して塔まで来たのは正解だった。宿に帰るのがすっかり遅くなってしまったが、気持ちの整理も多少はついたし、ダニスさんから重要な話を聞くことも出来たわけだからな。


 特にセオドールの子孫に会えた事は本当に嬉しいことだ。セオドールが危機の時には何もしてやれなかったが、せめてマリナさんには何かしら協力をしてあげたいな。


 そういえばマリナさんは事情があってパーティーメンバーが集まらないみたいだったが……。

 誰も近寄らないってくらいだし、神託によって何か制限が掛けられていてもおかしくは無いが。


 とはいえ、まずはマリナさんに謝らないといけないな。かなり怒っていたから機嫌が治るまで時間がかかってしまう可能性が高いが、僕も軽率だったのは事実なのでそこは諦めるしか無い。


 謝らないといけないと思うと少しだけ気が重いが、不思議と足取りは軽くなっていた。深夜の沈んだ心はどこかに飛んでいってしまったようだ。




「アリス、ただいま」


「バーナード様おかえりなさいませ。お疲れでしょうから今日はゆっくりとお休みください。すぐに朝食の用意をしますので、少しお待ちください」


 宿に帰ると、すでにアリスは起きていたようで、僕の部屋を軽く掃除している最中だった。って、もしかしてずっと起きてたのか?


「ありがとう。アリスも疲れているだろうからゆっくり休むといいよ。朝食は宿のを貰ってもいいし――」


 そう言って、アリスを見るとこの世の終わりと言わんばかりの表情をして立ち尽くしていた。あれ、これデジャヴ?


「と思ったけど、やっぱりアリスに朝食を用意シテモラオウカナ」


「かしこまりました。すぐにご用意しますね」


 一転して明るい表情に戻るアリス。そのコロコロと変わる表情に、つい僕も笑顔になってしまう。


「くす、ありがとう」


「……何か良いことでもありましたか? 先ほどから何やら非常に嬉しそうですが」


「うん、そうだね。昨日から今朝に掛けて色々とあったからね。詳しいことは近いうちに話すよ」




 アリスに作ってもらった朝食を食べようとしていると、その匂いを嗅ぎつけたのか、ブリジットが僕の部屋に入ってきた。


「ブリジット、おはよう」


「お兄ちゃん、アリス、おはよう。ボクの朝ごはんは~?」


「すぐに用意しますね」


 アリスがブリジットの食事を用意し始めたので、しばらく手を止め待つことにした。


 アリスは相変わらずの手際の良さで、さほど時間も経たないうちに、ブリジットの分の食事も用意してしまった。

 折角なので一緒に食べながら今日からの指示を出すことにする。


「ブリジット、昨日シェリルさんの了承も得たことだし、今日から露店商売をお願いするね。内容はこれまでに何度も説明しているから、大丈夫だよね?」


「うん、大丈夫だよ。泥船に乗ったつもりで、どーんとボクに任せておいて」


 ……そこは大船だな。ブリジットは胸を張って主張しているが、少しだけ心配になってきたかもしれない。


 ホムンクルスだから基本的な知識は有しているはずだから問題は無いはずなんだが、何故こんなに心配になるのだろうか? これがアリスだと何の心配もしないのだが……。


 それこそ用意した食材を全部自分で食べてしまいかねないという心配も……、いや、流石にそれは言い過ぎか。


「……お兄ちゃん、もしかして何か失礼なこと考えてない?」


「ソンナコトナイヨ?」


 ブリジットは獣のような勘で、僕の思考を何か感じ取ったのかもしれない。今後警戒はしておこう。




 朝食を食べ終えブリジットを送り出した後、食後にハーブティーを飲んで一息ついていると、片付けが終わったようでアリスが近くの椅子に腰を掛ける。


「ところで、バーナード様、今日のご予定はいかがいたしますか?」


「うーん、今日はちょっと考えたいことがあるから、部屋でゆっくりしようと思ってる」


 僕の口調から何かを感じたのか、アリスが心配そうにこちらを見ている。


「……何かお悩みでしょうか?」


「いや、そんなに心配そうにしなくても良いよ。悩んではいるけど、良い方向の悩みだから」


「そうですか、何かお悩みの際には私にも一緒に悩ませてくださいね」


「ありがとう。その時は頼むね」


「はい、もちろんです」


 アリスは嬉しそうに返事をしてくれる。アリスには本当に毎日感謝してばかりだな。

 ……ひとまず時間もあることだし、今のうちに昨日の情報共有くらいはしておくべきか。


「昨日アリスたちが帰った後に、シェリルさんに錬成粉の錬成方法を教えたんだ」


「そうですか。その様子なら上手くお伝え出来たようですね」


「シェリルさんは中々筋が良さそうだったよ。これが近代錬金術普及の礎になるとは思うんだけど、肝心の普及方法が……ね」


 僕が昨日の事を話し始めたため、アリスは表情を引き締め真剣な面持ちでこちらに身体を向ける。

 それを確認したのでそのまま話を続けることにした。


「シェリルさんに手を回してもらって一気に広げる手もあるけど、どうしても既存の魔道具流通には影響が出てしまうからね」


 僕の話を聞いて、少しの間悩む素振りを見せたアリスが、ふと何かを思いついたのか、人差し指を立てて口を開く。


「それでしたら、まずはこの異界都市アミルト限定で広めてみてはいかがでしょうか? 少なくとも領主であるシェリルさんは味方ですから」


「一気に広げるよりもまずは足元からってことか。……ただ、それでも既存の古典魔道具にはどうしても影響が出てしまうから――」


 まてよ? よくよく考えたら古典魔道具に影響が出たところで大した問題は起きない可能性も考えられる。


 そもそも、現在流通している古典魔道具は魔術師が作っている。つまりこの街に限って言えば、錬金術への理解がある魔術師は、恐らくシェリルさんの管理下にある。

 制作側のコントロールが出来るということは、古典魔道具から近代魔道具に変わった所で何の問題もない事を意味する。


 あとは流通している古典魔道具が近代魔道具に変わることに関してだが、これに関しては客は大して困らないだろう。新製品が販売されるのと影響では変わらない。


 問題となりそうなのは店が抱える在庫くらいか……いや、これに関しては金銭的な補助を行ってもらえれば大した問題にもならないだろう。


 何と言ってもこの街には金が有り余っているようだからね。


「……影響自体はそれほど気にする必要はないのかもしれない」


「多少の影響は出るとは思いますが、そこはシェリルさんに頑張ってもらうということで良いと思います」


 そうだな、細かい事は本職であるシェリルさんに任せておいたほうが良い。むしろ僕が考えるべきことといえば……


「課題としては都市外部への情報漏洩……かな」


 この街の話だけであれば特に気にすることでは無い。しかしながら事はこの街では完結しない。

 何も対策せずに近代魔道具の流通を行った場合は、その情報が都市外部に間違いなく漏れてしまうことだろう。


 できることならこの街できちんと普及ができるまでは外部に情報が漏れないように対策をしておきたいところだ。




 ――近代魔道具の問題は、近代魔道具で解決しますか。


 少し悩んだが、やはり僕らしくこの形で問題解決を目指すべきだろう。


 実現には少しばかり大掛かりな魔道具が必要になってしまうかもしれないが、やることは単純な事だから準備にもさほど時間は掛からないだろう。


 よし、早速情報漏えい対策に使う近代魔道具をシェリルさんに提案しに行くことにしよう。


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