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親友の遺言

重めの話はこの話までで、次話以降からバトルシーンも増えていきますので、もう少しお付き合いください。m(_ _)m



 やはり、僕が寝ている間にセオドールからの伝言があったらしい。


 よくよく考えれば、世界情勢が変わる程の出来事だ。伝言の一つも無いなんて事はあり得ないか……。


「セオドールからの伝言を再生してくれ」


『かしこまりました。伝言を再生いたします』




 そろそろ君の耳にも今回の事が届いている頃かもしれない。ひどい顔をして驚いてる様子が目に浮かぶよ。


 君との友情に誓って言うが、勿論私は大量殺戮などはしていない。どうも魔術師連中の謀略に嵌められてしまったようだ。


 奴らは長い時間を掛けて少しずつ根回しを行い、機会を窺っていたのだろう。


 王都に居を構える私が一番狙われやすいことは理解していたつもりだったが、研究の最終段階だったこともあって、没頭するあまり奴らの動きに気づくことができなかった。


 私がそれに気づいた時には、既に全てが終わってしまっていたよ。今や王国全体が私の敵に回ってしまった。


 ただ今日は悪い知らせだけではない。実は先ほど、ようやく私は念願の研究を完成させることができたよ。


 これでようやく胸を張って、君と同じ高みで並び立てる……が、残念ながら私はこの研究成果の至る先を見ることは叶わないだろう。


 先ほど私の研究所に、騎士団が差し向けられている事がわかった。ここに到達するのもそれほど時間は掛からない。


 君がこの伝言を聞く頃には、私は処刑され命は無いだろう。


 君が長い眠りに入ったことは、先程セントラルに確認した。ついに《賢者の石》の錬成に成功したんだね。おめでとう。やはり君は凄いよ。


 ……私はこの最期の研究成果を君に託そうと思う。


 研究資料は全てセントラルに転送しておいた。これの扱いは君の判断に委ねる。使うも使わないも君の自由だ。


 今のままでも一応完成ではあるが、この錬成を本当の意味で成功させるためには《賢者の石》が必要になる。


 今は君が動けなくて本当に良かったと思っている。君のことだから僕が危機に陥っている事を知ったら、全て放り投げてでも飛んできそうだからね。


 ……これから錬金術に非常に厳しい時代がやって来ると思う。だが、どうか君には生き延びて欲しい。


 今からセントラルを通じて、君の塔の異界化を行う。深度は最大値で異界化するから、君が目覚めるまで誰かが到達することは無いと思う。


 最後に……ありがとう、素晴らしく充実した人生だったよ。




 ――衝撃的だった。やはり魔術師連中が……。現在には確たる証拠が残されているわけではないが、セオドールが最期に残した伝言は、僕にとって信じるに値するものだ。


 謀略の事もそうだが、同じ高みってどういうことなんだろうか?世界を旅して様々な錬金術師と会ったが、セオドールに並び立てる奴なんて一人もいなかったのだ、当然僕レベルでは到底及ばないはずだ……。


 それに異界化についてもそうだ。これまで聞いたこともない技術だ。大体、賢者の石と長い眠りの関連性なんて誰も知らないはずだ。セオドール……君は一体……。


「セントラル、セオドールが残した資料を――」


 ――セオドールが残した資料は最期の研究に止まらず、彼がこれまで行った全ての研究を含んでいるようだ。懐かしいものも多いな。


「使うも使わないも自由……か。あれを聞いたら埋もれさせる訳に行かないよ……」


 彼の最期の研究はやはりホムンクルスに関する物だった。


『完全なるホムンクルスの錬成』


 旧来のホムンクルスはその体組織のみを錬成し、魔石を核とした疑似生命体を生み出す。しかし魔石と体組織が拒絶反応を起こしてしまうため、その寿命は数日と非常に短い。


 これをセオドールは前回の研究で、魔石をそのまま核として使うのではなく、魔石を素材に錬成した魔核を核として使うことで拒絶反応を減らし、その寿命を数年に伸ばした。


 今回の研究ではそれを更に大きく進化させていた。魔核を改良することで魔核をベースにして体組織の錬成が可能になっているのである。


 体組織と魔核を別に錬成するから拒絶反応が起こる。これに関しては拒絶反応を減らすことは出来てもゼロには出来ない。では魔核をベースに体組織を錬成するとどうなるか?


 魔核から産み出された体組織は、当然のことながら魔核との相性は抜群に良く拒絶反応はゼロになる。


 ただしこれにも欠陥は残っている。ホムンクルスは自己再生能力を持っていない。つまり怪我をした場合、人間のように怪我が治ったりはしない。修復には失われた体組織を新たに錬成してやる必要があるのだ。


 これを解決するのが、セオドールが最期に残した《本当の完成》つまり賢者の石の利用だ。


 賢者の石をベースに魔核を作ることで、そのホムンクルスは自己再生能力を持つらしい。




 賢者の石……か、あれをもう一度錬成することが出来るだろうか……。いや、弱気になるべきではない、時間はある。それにセオドールの最期の研究だ、僕の手で完成させてやりたい。


 賢者の石の錬成に使う機材は、塔に戻れば錬成実績のある機材が手に入る。……塔に上る理由が増えてしまったな。


 でもセオドールのお陰で戦力増強の目処(めど)がたった。


 現段階のホムンクルスでも十分に戦力になるはずだ。資料によれば魔核の素材に使う魔石の質で、ホムンクルスの性能が変わるらしい。


 残念ながら手持ちの魔石に高品質な物は無いため、最初に錬成するホムンクルスの性能は低そうだが、より品質の高い魔石が手に入り次第、魔核の移し替えをしていけば良い。


 よし、先ずはホムンクルス第一号の錬成に取り掛かろう。




 ――数日後の深夜、流石の異界都市も眠りにつき、静けさを取り戻していた。僕は今、目の前の大きなフラスコの中を覗いている。


 急いで素材を集めて作ったフラスコだったため、素材の透明度は低く中が非常に見づらい。折を見て作りなおすべきだろう。


 とはいえ、現状の要件は満たしているので今はこれで我慢している。


 今、フラスコの中には一人の女性が頭まで培養液に浸かっている。


 外見を見た感じでは年齢は15歳くらいに見える。少しだけ幼い顔つきだが、パーツは整っており非常に美人に見える。


 身長は150センチメートルくらいで低め、それとはアンバランスに胸は大きめで、銀色の髪の毛は腰まで長く伸び、その肌は透き通るように白く非常に綺麗だ。


 うん、これ誰かに見られたら絶対に誤解されるな。


 どうしても場所の確保ができなかったので、宿の部屋で錬成を行うことにしたのだが、錬成過程が進むにつれ、客観的に見た状況の不味さが際立ってきた。


 宿には部屋の掃除は必要ないと伝えてはあるものの、何かの拍子に部屋の中を見られたら不味いので錬成は夜間に行い、日中は錬成器具ごとアイテムポーチに入れて隠し睡眠をとる、という強行手段に出てみた。アイテムポーチにしまっている間は錬成工程が進まない為、効率は悪いがやむをえないだろう。


 現在はホムンクルス錬成の最終段階を迎えている。後は培養液を抜いてやれば目がさめるはずだ。


 トライアルは明後日なので、明日登録できればギリギリ間に合う。


 フラスコの下部にあるコックをひねり、培養液を別の器に排出する。培養液は何度か再利用が可能なので漏れないように細心の注意を払って作業を行っている。


 少しずつ培養液が抜かれていき、最終的にフラスコ内には女性だけが残されている。


「さあ、目を覚まして……」


 呼びかけに応えるようにまぶたが動き、ゆっくりと開いていく……。そのまま瞬きを数回。次第に焦点が定まってきたのか、その銀色に(きら)めく目が僕を見つめる。


「おはよう、僕はバーナード、君の創造主だ。君の名前はアリス。これからよろしくね」


「……おはようございます。お父様」


 お父様か……、まあ創造主だからお父さんみたいなものか、でも僕と見た目年齢そんなに変わらないから、周りから見たら明らかに異常に見えるだろうな。


「アリス、僕のことは名前で呼んでくれ」


「……分かりました、バーナード様」


 うん、受け答えも大丈夫そうだ。ホムンクルスは生まれながらにして知識を持つ。


 今回は魔核の錬成時にセントラルへのアクセス権限も与えたので、更に効率よく自己学習してくれる事を期待しているが、その結果がわかるのはしばらく先になるとは思う。


「アリス、まずは身体を拭いてこの服を着てくれ」


 アリスに予め買っておいた服(これを買う時も店員に変な目で見られたんだよなぁ)を渡すと、アリスは首をかしげ少しだけ考える素振りを見せた後、身体を拭き始めた。


 アリスからしてみれば、生みの親に体を見られたくらいなんということもないのだろう。だけどこの状況は客観的に見てあまりよろしくない。


 ん、よく考えたらこれからアリスと一緒に暮らすことになるのか……。宿代も二人分必要になるってことは、あれ?結構ヤバイ?早くも経済的に危機に陥りそうだ……。


 ま、まあひとまず金銭的な問題は先送りにするとして、今後の事を説明しないとな。




 服を着たアリスを椅子に座らせて、僕は向かい合わせにベッドに腰掛けアリスを眺める。


 腰まで伸びた銀髪は左右でまとめツインテールにしている。服が多少余裕のあるものを買ったはずだが、胸元は小さかったらしく少し張っている。服は追々補充していかないといけないだろう。


 非常に言いづらいが、アリスには伝えておかないといけないことがある。ひとつ深呼吸をし、気を落ち着かせアリスの顔を見た。


「僕には現在どうしてもやらなければいけないことがあって、それには危険を冒す必要もある。アリスを造った理由はそれを手伝ってもらうためなんだ。だから本当に申し訳ないが君にも危険を冒して貰う必要が出てくると思う」


「ご心配は無用です。創造主であるバーナード様の要求は、何を置いても優先されます」


「アリス……ありがとう。できれば明日、アリスの探索者登録をして、そこでアリスの能力を確認したいのだけど良いかい?」


「はい、問題ありません」


 良かった……って、よくよく考えたら拒否されることなんてありえないか。アリスの見た目があまりに荒事と縁遠いため、普通の女性と話している気になってしまう。


 見た目は可愛らしいが、アリスの魔核にはシルバーウルフの魔石が使われている。本当はもっと上位の魔石が使いたかったが、手持ちの魔石で一番上質なものがこれだった。


 魔核の質がどの程度ホムンクルスの能力に影響するかわからないが、流石に弱いということは無いと信じたい。


 そして嬉しいことに、アリスが目を覚ましてから僕の力も上がったように感じる。やはりホムンクルスでも生命体として扱われるようだ。


 ひとまずの難関を乗り越えた為、少し疲れが溜まっていた事もあり眠くなってきた。


「それじゃ、明日は早めに起きないといけないから、そろそろ寝ようか」


「はい」


 そう笑顔で受け応えながら、部屋の床に寝始めるアリス。ちょっと待てって、そうか部屋には一つしかベッドは無い。……か、考えてなかった。


 もちろんアリスは創造主の寝床を使うわけにいかないため、床一択だったようだ。ホムンクルスとは言え、流石に女の子を床で寝かせる事などできるはずもなく、僕は床、アリスはベッドという構図が出来上がる。


 アリスはかなり抵抗したがなんとか納得してもらった。明日絶対に部屋を換えてベッドを二つにしよう。




 迎えて翌朝、最悪の寝覚めは相変わらずだったが、宿の人に気付かれないように、アリスを外に出さなければいけなかったので、死ぬ思いで起きて行動を開始する。


「ひとまず人目につかないように外に出て、宿の外で待機していて欲しいんだけど……どうやって外に出てもらおうかな」


 姿を隠す魔道具はアイテムポーチには入っていないし、先日作った認識阻害の魔道具も今回は役に立たない。どうしたものかな。


「分かりました、それでは外でお待ちしています」

 そう言うなり、アリスは窓を開け外を見渡すと、そのまま外に飛び出した。


「え、ここは三階――」


 慌てて窓に駆け寄り下を見ると、壁などを蹴りながら勢いを殺し見事に着地、何事も無い様子で歩いていた……。おぉ、流石はシルバーウルフ。


「おっと、準備して外に出ないと……」


 階段を降りてロビーに出ると、宿屋の主人が驚いた目でこちらを見ていた。そりゃそうか、いつもこんな時間に起きないからな。


「飯ならまだ出来てないぜ」


「お早うございます。今日はすぐに出ないといけないので、朝食は無しでいいです。」


 アリスを待たせているので、挨拶も早々に外にでることにした。


 宿の外に出ると、いつの間にかアリスがそばに来ていた。斥候とかの適性があるかもしれないな。


「待たせたね、それじゃあ登録に行こうか」


 いつもより早い時間だが、さすがは異界都市、すでに通りは賑わっていた。


 少し後ろを歩くアリスを見ると、町並みを初めて見るせいか、忙しく視線を動かしていた。僕も最初はこんな感じだったんだろうな。


 それにしてもここ数日と比べて、明らかに周りの視線を感じる……とはいえ、当然のことながら僕が見られているわけではない。


 アリスが周りの視線を集めすぎている為に、一緒に歩いている僕まで多くの視線を感じてしまう。認識阻害の魔道具を造った意味が薄れてしまっているな。


「アリス、後ろじゃなくて隣を歩いてくれないか?」


「いえ、私はバーナード様の従者ですので隣を歩くわけには……」


「あー確かに君を造ったのは僕だけど、僕は君を従者として扱うつもりは無いよ……ってあれ?」


 振り向くと、アリスはこの世の終わりと言わんばかりの表情をして立ち尽くしていた。え?


「わ、私は不要でしょうか?」


「え!あ、いやそういう意味じゃなくて、もちろんアリスのことは必要としているよ! ただ過剰にへりくだる必要は無いって意味で」


 その言葉を聞いて多少安心したのか、アリスはほっとため息をし口を開いた。


「私はバーナード様に造られました。ですのでバーナード様にお仕えすることが最も重要なことです」


「そ、そうか、ただ街を歩くときは隣を歩いてもらえると助かるよ」


「……わかりました」


 ようやくアリスの様子も戻ったので、途中の屋台で肉串を何本か購入し、一緒に食べながら探索者ギルドに向かった。

アリス初登場

これから彼女も活躍していきます。


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