天獄塔・第二層(七)
「僕とアリスで前面を受け持つよ」
「かしこまりました」
「前面なら俺もいけるぜ!?」
ジークが少し不満そうにしている。でも、今のジークにはまだ苦手な部類だろう。なにしろ……。
「ドラウグル・バーサーカーの攻撃は避けるか受け流すかどちらか徹底しないといけない。ジークは苦手な動きだから、なるべくガーディアンの後方を位置取って」
「ああ、確かに苦手だな。わかった任せとけ」
「エリーシャは後方支援をお願い。腐臭をなるべく散らして欲しい」
「わかったわ。吸魔石のお陰でちょっと強めに頑張らないといけないけど、なんとかしてみせるわ」
ガーディアンのエリアにもこれまで同様に、吸魔石がゴロゴロしている。そのため魔術や魔道具の発動には、エリーシャの言うように吸魔石に吸い取られないように、普段よりも強い魔力が必要になる。エリーシャは風の精霊の声からその辺りを理解したのだろう。
強化した武器や防具は多少の腐敗で何か不都合が起こるわけではないが、皆が余計なことを気にしながら戦うことにメリットはない。それに人体に悪影響が起こる可能性もゼロでは無いので、風の精霊の力で腐臭を散らすことができれば、皆が戦いに専念できるはずだ。
「それじゃあ、いくよ!」
僕の掛け声に合わせて皆がガーディアンに向かって駆け、それぞれの位置取りを始める。
もちろん先ほどの指示通り、前衛が僕とアリスでガーディアンの攻撃を捌きながらカウンターを合わせていき、そしてガーディアンの死角にあたる位置にジークが位置取って強撃を狙っていく。エリーシャは少し後方から風の精霊魔術で牽制をしながらサポートをすることになる。
僕とアリスが接敵すると、ガーディアンは大きな斧を振り回し始めた。
……近くで見ると本当に凄い勢いだ。避けた斧が当たる度に、地面は削り取られ辺りに撒き散らされる。飛び散った石が僕達に向けて飛んでくるのだが、これが地味に痛い。致命傷にはなりえないが、視界を邪魔したり、動きを阻害したりする。
幸いなことに速度は無いので避ける事はそう難しくは無いのだが、如何せんリーチの差があるため、アリスの攻撃は中々ガーディアンには届かないようだ。少しの間だけ様子を見ていたが、アリスはよりガーディアンの懐で避けることを選んだようだ。
かなり近づいた為、少々ヒヤッとした場面もあり心配になるが、アリスとしてはさほど問題は感じていないようにも見える。つい先日ブーツに付加した効果で空間を踏み台にし、トリッキーに避けながら、一撃一撃を狙い済ませて当てている。
僕は、なるべくアリスと連携を取るように、ガーディアンの動きを制限しながら隙を窺うことにする。
ジークもその狙いは僕と同じようで、ガーディアンの死角を意識しながら、その足を重点的に削り始めていた。強化した武器のおかげか、ガーディアンの鎧もさほど意味を成さないようで、割りと深めに入ることもあって、聖水が内部まで浸透し始めているのか、傷口から白い煙と泡を立たせながら浄化を始めている。
それにしても、結構有効打も当てているはずなのだが、このガーディアンは一向に弱る様子が無い。バーサーカーという名前は伊達じゃないということなのだろう。もともとアンデッドなので痛覚は存在しない上に、体力も無尽蔵にあるわけなので仕方がないことではあるか……。
そんなことを考えていると、ガーディアンは攻撃が全く当たらないことに業を煮やしたのか、より狂ったように斧を振り回しながら大きく息を吸い込むと、動き回る僕達に向かって腐臭を吐きかけてきた。
「風よ力を貸して! エア・ディスターブ! くっ、やっぱり結構キツイわね。あまり長くは持たないから早めに片付けて頂戴」
風の精霊が風の流れを作り、ガーディアンの吐く腐臭を空高くまで持ち上げて拡散してくれたようだ。
「了解、早めに始末したいところだね」
改めて、状況を確認する。恐らくこのままでも討伐自体は問題無さそうだが、エリーシャの消耗具合から考えると、万が一ということもあるので、もう一手欲しいところだな。――よし一回試してみるか。
ふと、立ち止まりガーディアンの目の前で腰を低くして月詠を構える。その僕の様子を見てアリスが驚き声を上げる。
「バーナード様!?」
ガーディアンは立ち止まった僕に狙いを定めたのか、ヘイトを稼ごうとするアリスを横目に、上段に大きく振りかぶり、僕を目掛けて大きな斧を振り下ろしてきた。そして次の瞬間――。
「……マジかよ」
「……うそでしょ?」
「ば、バーナード様」
僕はガッチリとガーディアンの斧を受け止めていた。……やはり大丈夫だったか。アンデッドであるためガーディアンの表情は見えないが、多分驚いていることだろう。
先ほどからガーディアンの一撃を見ていた感じでは、確かに非常に重い一撃であることは間違いない。
しかし、ブリジットを造ってさらに上昇した亜神としての身体能力を、近代魔道具でさらにブーストしているのだ。不思議なことにあまり危機感を感じていなかった。その結果がこれである。我ながらいよいよ化け物じみてきたな。
「みんな今だ!」
ガーディアンの斧を押し返し、一気に跳ね上げる。皆状況が飲み込めずに少し時間が止まったようになっていたが、僕の号令と斧を弾かれて一瞬足を止め無防備になったガーディアンを見て我に帰り、全員の渾身の攻撃が見舞われる。
流石に無防備な状態でこれだけ喰らえば、ガーディアンとはいえ唯ではすまないようだ。ガーディアンは大きな叫び声をあげながら、武器を落とし膝をついた。
「良い実験になったよ」
月詠を振りかぶって首を切り落とし、胸を蹴り飛ばすと激しい爆炎を上げながらガーディアンは数メートル後ろに吹き飛び、仰向けに倒れた。
大きな地響きが辺りを揺らす。
戦いが終わり素材の採取を行いながら、ふとジークが疑問を口にした。
「ちょっと気になったんだけどよ、バーサーカーって、狂戦士のことだよな?」
「そうだね、我を失い狂った鬼神のごとく戦うらしいよ。敵味方関係無く、動くものならなんでも襲いかかるらしい」
ジークが難しそうな顔をしていたので、つい一般的なバーサーカーの知識を説明してしまったのだが、それがどうかしたのだろうか?
「……ガーディアンって味方いねぇよな? それに狂ったようなやつばかりだった気がするんだが、今回バーサーカーの意味あったのか?」
……あー、確かにそう言われてみれば、元々異界で遭遇するガーディアンっていつも一体だけだし、凶暴な魔物ばかりだ。まあ、でも異界探索において大事なことは……。
「……ジーク」
「なんだ?」
「多分、それを気にしたら負けだよ。トライアル時の蟻地獄の茶番を思い出すんだ」
「……ああ、そんなガーディアンもいたな。まあ、そうだな。気にするだけ無駄か。これ以降もどんなもん見せられるかわかったもんじゃねぇしな。異界もバーナードも含めてな」
その辺りは皆が同意してくれたようで、無理やりにでも納得することにしたようだ。何気に僕も混ぜられた気がするがそこは無視しておこう。
それにしても、どこのどいつがこんなふざけたものを考えついたのやら。などと考えているが、関係ありそうなのは二人だけだからな……。その人物の顔が僕の脳裏に浮かぶ。
――クローツもしくはセオドール……か? いや、こんなことやりそうなのは、……クローツ一択か。まあ、恐らくだが間違いないだろう。いくらセオドールでもここまではやらかさないだろうし、何と言ってもクローツにはあのエリクサーを仕込んだという前科があるからな。
ああ、流石にいっぺん殴ってやりたくなってきた……。
長くなりましたが、これで天獄塔の第二層の探索は終わりになります。
次話からは街に戻ってシェリルさん絡みの話になる予定です。




