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天獄塔・第二層(六)

 取り出した一本の矢を手渡すと、エリーシャは若干戸惑いながら説明を求めてきた。


「えっと、この矢で一掃すると言われても、バーナード君が出すくらいだから普通の矢じゃないとは思うけど……、できれば説明してもらえないかしら?」


 うん、普通はそうなるよね。今すぐに全部説明する程時間もないし、何よりネタバレはつまらないので、使い方だけ説明することにしておこう。


「まあ、効果は後のお楽しみってことで、今から強化聖水かけるから、魔物たちの真ん中辺りに撃ちこんでもらえるかな。はい、弓矢を構えてー」


 そう言って、魔物の群れの真ん中あたりを指さしながら、アイテムポーチから強化聖水を取り出す。

 エリーシャは戸惑いながらも、淀みない動作で矢を弓につがえると魔物の群れに狙いを定めてくれた。


「それじゃあ、いくよージュワーっと」


 効果音を口ずさみながら、強化聖水をつがえられた矢にぶちまける。

 すると、今まさに口ずさんだように音を立てながら、矢から白い煙と泡が激しく吹き出す。


「え、えっ! やだ、なにこれ!? 気持ち悪いんだけど!」


「ほら、早く射って射って」


 突然の変化にエリーシャが気味悪がって慌てながら矢を放つと、矢は綺麗な放物線を描きながら、魔物の群れに飛んで行く。そして、矢が軌道の頂点に達したあたりだろうか、一気に増殖して重力に引き寄せられる頃には数えられないくらいに大量な矢の雨となり、こちらに向かってきていた魔物の群れに激しく降り注ぐ。


 隙間無く降り注ぐ聖水まみれの大量な矢にアンデッドの群れは避けることもままならず、まさになすすべもなくという言葉がしっくりとくるように、次々と矢に当たり滅んでいくこととなった。




「いやー、まさかこんなに上手くいくとは思わなかったなぁ」


「……喜んでるところをごめんなさい。そろそろきちんと説明してもらっても良いかしら?」


 大量のアンデッドが滅んだことを確認してから、今目の前で起きた一連の結果に満足していると、エリーシャがようやく我に戻ったのか、状況の説明を求めてきた。


「ああ、そうだね。そろそろ説明しようか。あの矢はシャドウ・エッジ・グレムリンの素材で作った、特別製の矢なんだよ」


「……それだと聖水かけて大量に増殖したことの説明にはなってねぇだろ」


 ジークも乗っかってきた。


「これは余り知られていないことなんだけど、実はグレムリンって特殊な液体をかけると増殖するんだ。今回は強化聖水を使ったけど、基本的にはポーションでも良いし、万能薬でも良い。簡単に言ってしまえば近代錬金術製の液体なら多分なんでも良い」


 実はこれ、昔セオドールのやつと色々実験した現象だったりする。

 事の発端は、王都の図書館で魔物の素材が記載されている図鑑を見ていた時に、セオドールがグレムリンのページを見た時に言った「グレムリンって水かけると増えるんだっけ?」という何気ない一言が原因である。


 水に濡れたくらいで増えてたら、雨が降った時にとんでもないことになるので、当初は僕もセオドールの事をバカにしていたのだが、そのせいでセオドールもムキになってしまい、最終的には僕も付き合って数週間に渡り実験を行う羽目になったのは懐かしい記憶だ。


 様々な液体を用意してあれこれとグレムリンに掛けて反応を確かめてみるも、白い煙や泡が少し出る程度で中々増殖までは確認ができなかった。そろそろ研究を終了しようかという段階で、やけくそ気味にポーションをぶちまけてみたところ、なんとグレムリンが増殖を始めたのだ。


 その後は大量に増殖したグレムリンを一掃するのに、とんでもなく労力を費やすこととなり、最終的には付近の地形が変化してしまったところまでがワンセットだったりする。


 閑話休題、本当は僕もすっかり忘れていたのだけれど、素材を見ていたら思い出してしまったので作ってみたのだが、まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。


「……そんな馬鹿な話は聞いたことが無いけど、流石に今目の前で起きたことまでは否定のしようもないわね」


「多分、深く考えたら負けなんだろうな。……相当に上げていたつもりだったが、近代錬金術の評価には足りなかったみてぇだ」


「唯一の欠点は増えすぎることだね。これくらいの距離がないと危なくて使えないんだ」


 当たり前の話だが、こんな増える量も予測が付かない魔道具では、普段の使い道なんてものは存在しない。戦争で使われる案もあったけど、別の魔道具で弓矢自体を防ぐことが出来たりするので、その案もお蔵入りになってしまったらしい。

 魔物が大量発生してしまった際に数回出番があったらしいという話は聞いたくらいかな。




 そんな訳で大量のアンデッドを一掃した後は、素材の採取に時間がかかってしまったが、新たにアンデッドが湧くことも無くようやく先に進むことができるようになった。

 それから十分程度歩いたあたりで、ようやくガーディアンが待ち受けるエリアに到達することが出来た。


 視界の先には、禍々しい鎧を身にまとった黒いアンデッドが大きな斧を携えて立っていた。ぱっと見身体は小さいが、今までのパターンだと戦闘前に強大化すると思われるので、今現在の見た目はさほどあてにはならないだろう。


「やっぱり第二層はガーディアンもアンデッドか。……悪魔系かアンデッド系のどちらかだとは思っていたから、予定通りといえば予定通りか」


「《ドラウグル・バーサーカー》ですね。動きはそれほど速くは無いようですが、圧倒的な強い膂力を持ち口から吐く腐臭は物を腐らせることができるようです」


「装備品を腐らせられたら堪ったもんじゃねぇな。とはいえ、全く浴びねぇのも無理か……」


 ジークが自身の装備品とドラウグル・バーサーカーを交互に見ながら愚痴っている。愛用の装備品が腐ってしまうのは確かに耐え難いものがあるからね。 でもそのあたりは大丈夫だよ。


「一応、ボクが弄った装備品は軽い自己修復を付加しておいたから、多少なら大丈夫だと思うよ」


「……その話は聞いた覚えがねぇけど、俺が聞き逃したのか?」


「いや、言った覚えもないから聞き逃しでは無いと思うよ」


「……非常にありがたい話ではあるのだけど、なんだか納得しきれないのは何故なのかしらね」


 なんでだろうね? あまり色々気にしてばかりいると早く老けるよ?


「今は周りに人がいないから狙いどきかな? 皆の準備が良ければこのまま討伐してしまいたいのだけど良いかな?」


「私は問題ありません」


「俺も大丈夫だぜ」


「私も問題ないわ」


「よし、それじゃあガーディアンの討伐を始めますか」


 ガーディアンのエリアに入ると、いつもの様にガーディアンは低い唸り声をあげ、身体を震わせバキバキと音を出しながら巨大化していく……。

 へぇ、身につけている鎧はどうなるのかと思ってたけど、身体に合わせて一緒に大きくなるのか。


《ドラウグル・バーサーカー+4》


 バーサーカーというくらいだから、防御無視の荒々しい戦い方をするということなのだろうか?


 巨大化した身体に合わせて、一緒に大きくなった鎧はデザインも荒々しく変化しており、手に持った斧もより禍々しい物に変わっていた。多少持ちにくそうに見えなくも無いけど、ちょっとだけ格好良いな。


 今度ジークの鎧をあんなデザインにしてみるのも良いかもしれないな。


「バーナードみたいなデザインセンスしやがって! 覚悟しやがれ!」


 その言葉を聞き反射的にジークを見ると、すっと目を離された。


 ……僕のデザインセンスに何か問題でも?


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