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天獄塔・第二層(三)

 ジークは乱入ついでに一匹のシャドウ・エッジ・グレムリンを切り伏せると、その勢いのまま最前線まで躍り出た。


 彼らを囲んでいるシャドウ・エッジ・グレムリンの数は残り十四匹。先ほどの僕達が戦った群れとほぼ同数となる。先ほどまでの動きを見る限りでは、この数ならジーク一人でもなんとかなるだろう。


 正直なところ、確かに僕と比べてしまえば見劣りしてしまうかもしれないが、現在のジークの実力は決して低いものではない。

 僕やアリス、エリーシャとの出会いが、ジークにとってのブレイクスルーになったのだろう。


 近代魔道具を含んだ装備品を抜きに考えたとしても、その辺の探索者と比べた場合、大きな実力差があるように思われるほどだ。


 それに加えて現在は近代魔道具で底上げされている上に、武器にはエンチャントもかかっているのだから、例え目の前にいる魔物が第一層のガーディアンだったとしても十分討伐が可能だろう。

 ましてや、シャドウ・エッジ・グレムリン程度の魔物であれば、不意を打たれることさえなければ物の数ではないだろう。


 戦況を見る限りでは、ジークが助けに入ったお陰で、崩れかけていた戦況を一気に押し戻すことができたようだ。これなら僕達が加勢しなくても安心して見ていられる。


 しかし少し余裕が出来たせいか、探索者達は何故かジークの様子をチラチラと窺いながら戦っているように見える。実力差が気になるにしても、ちょっと魔物から目を離しすぎではないだろうか……。


「それじゃ、そろそろ決めるぜ! おりゃあ!」


 ジークはそんな視線に気付かずに、エンチャントされた武器を振り上げ、その淡く緑色に描かれる剣閃を飛ばし、数体を巻き込みながら、群れの後ろに控えているボスらしきシャドウ・エッジ・グレムリンを一撃で切り飛ばした。


「嘘だろ!?」


「俺達が苦労している敵を一撃で……」


 探索者パーティーの面々が群れのボスとジークを交互に見ながら、それぞれ驚きの言葉を発している。ジークはその視線を群れから離さずに警戒を続けている。


「まだ戦闘は終わってねぇぞ! よそ見してねぇで戦いやがれ!」


「す、すまない。確かにそうだな……みんなもう少しだ! 気合入れるぞ!」


「おう!」


 ジークに活を入れられた探索者パーティーは、その視線をシャドウ・エッジ・グレムリンの群れに戻すと再び戦闘態勢をとった。


 ボスを失った群れは、軽いパニックに陥りながらもなんとか連携を保ちジーク達に襲いかかるが、やはりボスがいなくなったせいだろう、攻撃は少しずつ単調なものになっていき、気合を入れ直し待ち構える探索者達の刃の餌食となり闇に沈んでいった。




 ひと通りの魔物を討伐し終えた事で、探索者パーティーの面々は落ち着きを取り戻しつつあった。

 パーティーメンバーには負傷者もいたようで、被害状況の確認を急いでいる。


 被害状況の確認が終わり、パーティーのリーダーらしき男が、恐る恐るジークに歩み寄りその口を開いた。


「ありがとう、お陰で助かったよ。君がいなかったら俺達はもっと大きな被害を……、いや見えを張るのは止そう。きっと全滅していただろう。とてつもない一撃だったが、君は一体……? もしよかったら名前を聞いてもいいだろうか?」


「凄えのは仲間の精霊魔術で、俺は大したことはしてねぇよ。それに助けあうのはお互い様だから名乗るほどの事はしてねぇ。じゃあな」


 助けることができて満足したのか、ジークは碌に会話もせずにこちらに引き上げようとしていた。……別に名前ぐらい名乗っても良いだろうに、それもジークの良いところなんだろうが、不器用な性格だな。

 そう思っていたら、エリーシャがおもむろに口を開いた。


「ジーク! 早くこないと置いて行くわよ」


「ああ、すぐに戻るぜ!」


 エリーシャは少し心配をして、聞き耳を立てていたのだろう。ジークが名乗らないので少々もどかしく思ったようだ。とりあえずはナイスフォローといったところだろう。


 エリーシャの声でようやくジークの名前を聞いた探索者達が互いに顔を合わせながら、遠くでポツリと呟くのが聞こえてきた。エリーシャもジークが戻ってきた為、聞き耳をたてるのをやめたようでその言葉には気付いていないようだ。僕も聴力が上がっていなければ恐らくは聞き逃していただろう。


「ジーク……。さしずめ狂気の血鬼(クリムゾン・オーガ)のジークといったところか……」


 そう、今まさにジークに二つ名が付いた瞬間だった。よりによってこんな時に付かなくても良いだろうに……、僕のせいじゃないからね。


 それにしても鬼か……。確かに、そう言われてみれば仮面のデザインは鬼に見えないこともないか。でも、なんで《狂気》なんだろうか? そんな狂った要素あったかな? ジークの振る舞いかな。




「おかえり狂気の血鬼(クリムゾン・オーガ)


「なんだそりゃ? 妙な名前付けてんじゃねぇよ。それにしても間に合ってよかったぜ。鍛錬の成果が出せたな」


 早速、ジークを二つ名で呼んでみたのだが、軽くスルーされてしまった。妙な名前って別に僕が付けたわけじゃないからな。


「そうですね、上手くいって良かったです」


「こんなに上手くいくと、逆に何か悪いことが起きるような気がしてきちゃうわね」


「これこれ、エリーシャさんやフラグを立てるのはやめてくれないかい?」


「フラグ? 何それ?」


「ああ、いやこっちの話だから気にしないで良いよ」


 あれ、フラグって言葉はあまり一般的では無いのかな? セオドールのやつはよく使っていたんだけど……。それにしても皆、想定通りの結果が出せたようで一様に嬉しそうにしているな。




 先ほどの戦闘後は数回魔物との戦闘になったが、特に大きなトラブルが起きること無く、休憩地点まで来ることができた。

 例の空白地点までは、あと少しといったところだろうか。このペースなら明日の早い時間には到着することができるだろう。

 ひとまず、今日はここで野営をして明日に備えることになった。


「バーナード様、温かい飲み物を用意しました。皆さんもどうぞ」


「ああ、ありがとう」


 現在は食事も一段落つき、休憩していたところなのだが、アリスが気を利かせて温かい飲み物を用意してくれたようだ。

 第二層は今のところ常に夜間の為、日が上がらない分だけ冷えてしまう。とはいえ冬ほど寒いわけでは無いので、我慢できない寒さではない。


 ……装備に温度調節でも付加しようかな。よくよく考えて見れば、常闇があるならば灼熱や極寒の層があっても別におかしな話ではない。


 うん、やはりいざというときに困らないように、早いうちに皆の防具に温度調節をつけるべきだろう。

 いっその事、今夜にでも付加しても構わないわけだしね……。


 あ、そういえば皆のブーツもまだ付加していなかったな。

 第一層のポイズン・グリフォンの羽が手に入ったことで、この素材で強化錬金を行えば、皆のブーツも僕のブーツのように空を駆けることができるようになる。素材は大量にとれたわけだし、今夜の錬成ついでにやってしまうか。


「……バーナード。突っ込んだ方が良いか? また顔に出てるぞ」


 おっと、いけない。どうしても顔に出てしまうようだ。表情を元に戻し、努めて平静を装い考えを巡らせることにしよう。


 シャドウ・エッジ・グレムリンの素材も何かに使えないかな? 今のところ各自の武器の切れ味を上げるくらいしか思いつかないけど、それだけだと流石につまらないからなぁ。

 いや、まてよ? アレなら面白いかもしれないぞ。おお、早く錬成作業に入りたくなってきた!


「どうしてこんなにわかりやすいのかしらね?」


 あれ、できていませんでした? 僕はいたって平静でしたよ?


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