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天獄塔・第二層(二)

 全員が第二層に入ったのを確認した後、移動を始める。

 今回の目標は地図上で空白地帯になっていた場所の探索なので、ひとまずは休憩できそうな場所を先日の探索中に幾つか目星を付けておいたから、そこに向かって歩くことにする。



「この第二層は魔物が暗闇に乗じて空から襲ってくることがあるから、目の前や足元だけじゃなく上空も十分に注意をしてね」


「かしこまりました。先日説明のあったシャドウ・エッジ・グレムリンですね」


「そうだね、ただ昨日は遭遇しなかったけど、シャドウ・エッジ・グレムリンの他にも魔物はいるかもしれないから、一応は決めつけてかからないようにして欲しいかな」


「……そうですね、申し訳ありません。以後気をつけます」


 珍しくアリスが迂闊なことを口にしたので、改めて注意をうながすことにした。

 アリスは自身の発言の不味さに気がついたようで、すぐに反省をしてくれた。


「それにしても、夜間の移動なんて久し振りだぜ。傭兵やってたときに数回は経験があるんだが結構体力も気力も要るんだよな。それに加えて頭の上まで警戒しなけりゃいけねえってのは辛いな」


「そうね、本来なら足元を気を付けるだけでも注意が必要だもの」


 ジークもエリーシャも夜間の移動は余り好きではないようだ。まあ、そんなのが好きな変人は見たことがないので普通の反応といえば普通の反応か……。

 あ、そうそう、つい忘れるところだった。


「ところで、ジークには例の魔道具の試験をして欲しいんだ。今日は一日ずっと、この仮面を身につけて探索をして欲しい」


 そう言いながらアイテムポーチから例の仮面を取り出す。もちろん、これはジークの為に作った暗闇対策用仮面型魔道具のことだ。

 改良したデザインが思いの外評判が悪かったので、前のデザインに戻してある。

 仮面を見たジークが喉をごくりと鳴らし、口を重そうに開く。


「……ここで身に付けなきゃダメか?」


「試験だからね。こういうところじゃなきゃ意味がないよ」


「また、洞窟で役に立たないと困るから、ぐずぐずしてないで男らしく覚悟決めなさいな」


「エリーシャまで……あー、くそっ、かぶりゃいいんだろかぶりゃ!」


 エリーシャの援護射撃もあり、ジークは渋々ながらも仮面を身に付けてくれた。渋々と言うよりはヤケクソ気味に見えなくもないが、そんなに心配しなくてもきちんと動くと思うよ。試験は念のためだからね。


「おお、格好良いじゃないかジーク」


「見た目はアレだったが、やっぱ性能はすげぇな、皆こんな感じで見えてたのか……。流石に直ぐには慣れねえが、この仮面つけてるとなんつーか、こうちょっとばかしやる気が出てくるな」


「恐怖心を和らげるように付与したから、ブレイブのような効果が得られるはずだよ。これで洞窟も問題ないはず」


「おお、そういうことか。これなら確かに……、見た目もなんだか気にならなくなるな!」


 いや、格好良いから《気にならなくなる》は表現がおかしくないかい?……まあ、何にしても気に入ってもらえて何よりだ。

 皆があまり視線を合わせてくれないのが気にはなるが、これで今日一日何事も起きなければ、運用面も問題は無くなるだろう。実際に問題が起きそうな点としては、ジークが前のめりになりすぎる可能性くらいだが、注意はしておこう。


「それじゃあ、ジークも仮面を気に入ってくれたみたいだし、そろそろ先に進もうか」




 第二層の探索を始めて、間もなく魔物と遭遇することになった。今回も前回同様にシャドウ・エッジ・グレムリンの群れだ。

 ただ前回と違うところと言えば、少し離れた所で別の探索者パーティーが、他の群れと戦闘中だということだろうか。


「向こうの探索者パーティーはちょっと苦戦してるみたいね。分が悪そうだわ」


「あのままじゃ、やばそうだな」


「周りのことよりも、まずは目の前の魔物を何とかしないとね。他の探索者の目がある以上はあまり派手にはできないから」


 助けたいのは山々なんだけどね……。だからといって目の前を疎かにはできない。




「くそっ、もどかしいぜ」


「すぐには終わらせて貰えそうには無いわね」


 現在僕達の周りを飛び交っている、シャドウ・エッジ・グレムリンの数は十五体。特に脅威は感じないが付かず離れずで、なかなか距離を縮めてくれない為、こちらからの攻撃も中々届いていないのだ。

 もしかしたら助けにいけないように時間を稼いでいるのかもしれない。

 ジークを見ると少し焦りが見えている気がする。

 唯一エリーシャの弓矢だけが届いているが、自由に飛び交うシャドウ・エッジ・グレムリンには中々当たりそうにない。


「仕方がないわね。ジーク、アレをやるわよ」


「ちっ、もう使うことになっちまうとは……、でもまあ、出し惜しみするもんでもねえか! いつでも準備は良いぜ!」


「こちらも問題ありません。いつでもいけます」


「了解。風の精霊よ力を貸して! エンチャント・ウエポン」


 エリーシャが風の精霊の力を借りて、各自の武器に風の魔力を付加し始めた。皆の口ぶりからすると、これが鍛錬成果の一つなのだろう。


 そういえば先日、エリーシャが風の精霊の力を借りて空を飛んだ時に後で聞いたのだが、これまでは風の精霊の力をそのまま放出するような使い方ばかりをしていたらしい。しかし僕の近代魔道具を色々見るうちに、風の精霊の力を借りて空を飛ぶことを思いついたと言っていた。


 風の精霊の力を借りて武器に風の魔力を付加するアイディアのきっかけはジークの剣なのだろう。

 エリーシャが付加を完了すると、それぞれの武器の刀身が薄い緑色に淡く光を放ち始めた。


「私とアリスちゃんで、あいつらを誘導して一つに固めるから、ジークは止めをお願いね」


「わかってるぜ! まかせとけ!」


 エリーシャは風の精霊の力を借りて空を飛び上から剣を振り、アリスは地上から剣を振る。すると、淡い緑の剣閃が描かれながら、シャドウ・エッジ・グレムリンに向かって飛んでく。

 あのエンチャントは威力を調節して放出しているのだろう。一回放出しても効果は持続しているようだ。


 慌てたシャドウ・エッジ・グレムリン達は剣閃を避けようとするが、高速で飛び交う剣閃を避けきれずにその羽根を傷つけられながら少しずつ誘導されていった。


「ジーク、今よ!」


「おっしゃ、でかいの食らいやがれ!」


 誘導され一塊になったシャドウ・エッジ・グレムリンに向かって、ジークがその剣を振りぬくと、先程までとは違い、威力の高そうな剣閃がシャドウ・エッジ・グレムリンの群れを切り裂く。


 凄いな一撃で終わらせるなんて……、しかし風の精霊の力を借りたにしても、エンチャント効果が高過ぎる気もする……。


「エンチャントも連携も凄かったよ。あの短期間でここまでできるようになるなんて大したものだよ。それにしてもちょっと威力が高過ぎるような気もするけど……」


「ふふ、バーナード君にそう言ってもらえると嬉しいわ。頑張ったかいがあったわね。実は色々と試して見たんだけど、バーナード君が強化した武器は風の精霊の魔力を付加した際の効率が良いみたいなのよ。他の武器でも試してみたけど、全然結果が違ったわ」


 ああ、そういうことか。近代魔道具として強化したから魔力の通りは抜群に良いはずだから、ここまでの威力が出るのか。

 近代魔道具がきっかけとはいえ、エリーシャ達の試行錯誤は、ちゃんと自分たちのできることと向き合った結果だろう。

 傍目には近代魔道具よりもエンチャント・ウエポンが目立ってくれるから、今後のことも考えると非常に使い勝手がいいものになるかもしれない。


「ジークもよく連携が取れてたね……ってあれ、どこ行ったんだ?」


「ジークなら討伐した後、すぐにあちらのパーティーを助けに走って行きましたよ」


 アリスに促されるままに視線を向けると、ジークはすでに助けに向かっていた。気が早いな。


「助太刀するぜ!」


「ひっ、オーガ!? あ、いや探索者か……。すまない助かる」


 オーガ?

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