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トラブルと魔道具

 食事を終え一息ついたが、これから何をしたものか。


 金策に走らなければいけないのはもちろんだが、これからしばらくは探索者として生きることになるのだから、まずは探索者に関してもっと知らなければならないだろう。


 探索者がどのようにお金を稼いでいるのか?それが解れば金策に関しても解決するかもしれない。


 よし、探索者ギルドに行って情報を集めよう。


 ――探索者ギルドには半刻程でたどり着いたが、途中で何度も探索者らしき人達を見かけた。


 塔が街のシンボルと言うだけあって、探索者の数はかなり多いようだ。治安の方は大丈夫なのだろうか?


 建物に入ると、更に多くの探索者で賑わっていた。


 ん、壁際に人だかりがある。何だろうか?

 近付いてみると、そこには大きな掲示板が設置してあり、探索者達は掲示板に貼り出された紙を、熱心に読んでいた。


 文字が読めない者もいるようだが、そういった探索者には有料で内容を教えてくれるサービスが有るようだ。

 掲示板の内容は概ね以下の通りに分かれていた。

 現在不足している素材のリスト、そしてパーティーメンバーの募集だ。


 つまりは探索者は塔に入り魔物を狩るか薬草などの素材を収集し、管理事務所がそれを買い取る。不足している素材は、一時的に買い取り価格が高くなるようだ。


 そして探索者はより安全に探索が行えるように仲間を募る、という事なのだろう。


 そう考えれば、塔が王国にもたらす利益はきっと想像出来ないほど莫大な物になっているはずだ。受付レベルにあれほどの魔術師が配置されていることも頷ける。むしろ職員は全員魔術師なのかもしれない。


 ふむ、探索者に成れば常に命の危険は孕んでいるが、生き残り素材を集められる限りは生活に困ることは無さそうだ。


 塔の中がどれ程危険なところかは知らないが、昨日広場で見た探索者達を見る限りでは、賢者の石の素材を集める事に比べれば大したことは無いだろう。


 あの後、ギルド内を見て回ったが、思いの外広い施設だった。地下にはミーティングルームや修練場も備えられていた。


 ミーティングルームは大小いくつかあり、小さい部屋では探索者パーティーが打合せに使えるようだ。大きい方は何に使うのだろうか?


 修練場では、六人の探索者が修練を行っていた。しばらくその様子を眺めていたが、実力の幅は広そうだ。戦いその物に慣れていない様子の者もいたが、なかなか良い動きをしている者もいた。


 あれこれと連携の確認もしているので、きっとトライアルに向けたパーティーなんだろう。……でも何かイライラしているようにも見える。


 それにしても、先ほどから結構派手に爆発が起きたりしているが、建物はびくともしていない。周りを見渡すと、修練場の四隅で魔術師が結界を張っていた。


 少しすると、魔術師が休憩に入ったようだ、修練していた者達もそれに合わせて休憩を始めた。


 休憩に入った探索者達は、こちらを気にしながら話をしているように見える。途中から見られていることに気がついていたようだったので仕方が無いか。


 あまり人に見せたくはないんだろうな。あまり邪魔になるのもいけないし、そろそろ戻るか。


「おい、てめえ。どこに行くつもりだ?」


 う、絡まれた。ちらっと振り返るとパーティ内で一番動きの良かった奴だった。


 背が高く、赤髪赤目のイケメンだ。身につけている防具は使い込まれていて、身のこなしも悪くない。が、いかんせん言葉遣いが汚いな。


「修練の邪魔になるといけないので、そろそろ戻ろうかと」


「さっきから人様の修練見ながらアレコレと口走ってたくせに、いまさら邪魔になるもクソもねぇだろうが。そんなに自信があるならてめえも何か見せていけよ」


 ……あれ、いつの間にか心の声が漏れていたか?

 しまったなぁ、こいつらが休憩に入る前にさっさと戻れば良かった。


「何か見せろと言われましても、特にお見せできるような物はありませんよ?」


「ん、てめえ昨日探索者登録の受付で、いつまでもウダウダしてた奴だな。その黒髪は見間違えねえぞ。てめえもトライアル待ちなんだろう? まったくこんなガキが探索者になろうってんだから世も末だな。しかたねぇ、俺達が修練に付き合ってやるから遠慮するなよ」


 あ、こいつ昨日、後ろでしびれを切らしてた奴だ。まったく面倒くさい奴に目をつけられてしまった。

 今さら逃げても、何かと因縁を吹っ掛けられそうだ。もう囲まれてるしな。仕方がない、面倒だが後腐れの無いようにしておくか。


「……久しぶりに体を動かすので、お手柔らかにお願いします」


「おお余裕じゃねえか、こりゃ修練が行き過ぎて腕の一、二本折れちまっても仕方がないよな、俺が丁重にもてなしてやる……ぜ!」


 言うやいなや、突然手にした剣を振り上げ斬りかかってきた。訓練用に刃引きされているとはいえ、当たったら危ないだろう。


 上段から振り下ろされた剣を、半身だけずらして避けながら踏み込み、男の重心が乗った足に自分の足を引っ掛けながら蹴り上げる。


 なんということでしょう。男は綺麗に回転しながら、その顔面を使い見事に地面に着地したではありませんか。……って、痙攣してる。以前と比べて体の動きはかなり良くなっているせいか、加減が難しいな。


「ジークさん! クソッふざけやがって、殺せ! 生きて返すな!」


 おおぉ、名前だけは強そうだな。それにしても、こいつらその辺に職員がいるのに、そんな不穏なこと言い出して大丈夫なのか?


 ちらりと職員の方に視線を向けてみるが、そのまま視線をそらされた。


 ……もしかしてよくあることなんだろうか?


 ――残りの男達にも顔面から着地して頂いた。……やはりやり過ぎたかな、途中からなんか楽しくなって、つい狙ってしまった。


 三人目からはあからさまに警戒されたけど、逆に燃えてしまって最終的にはこの結果である。


 これだけ力の差を見せつけておけば、これから絡まれることは流石に無いだろう。無いよね?


 できればこれから被害者が出ないように、心が折れて探索者自体をやめて欲しいものだ。


 若返った身体にはまだ慣れないが、思いのほかよく動けたように思える。まあ、それはそれとして、とりあえず今はこの男達をどうするかだけど……あ、そうだ。


「すみませーん」


 後始末が面倒だったので、先ほど視線を逸らした職員にお願いして修練場を後にすることにした。強いくせに面倒事から逃げたんだし、それくらいやってもバチは当たらないよ。




 その後は、魔道具屋に行ってみることにした。錬金術師は絶えたと聞いていたので、宿で魔道具屋があることを聞いた時は驚いたが、古典錬金術製の魔道具は生活用途でそれなりに普及していた。これは異界化した塔のお陰でもあるらしい。


 古典魔道具は近代魔道具に比べて燃費が悪いのだが、塔のお陰で魔石は日々相当な量が産出されている事もあり、普及に成功したらしい。


 ちなみに現在、生活魔道具は細工師と魔術師が共同で制作しているらしい。


 魔道具屋にたどり着き中を覗いてみると、成る程、確かに中々の賑わいを見せているようだ。


「いらっしゃいませ、どうぞゆっくりご覧下さい」


 店の中は生活魔道具が綺麗に陳列されており、調理用魔道具や清掃用魔道具、冷暖房魔道具など、確かに日々の生活が便利になりそうなものが数多く置かれていた。


「こちらの冷房はつい先日発売されたばかりの最新魔道具になります」


 これが最新……か、なんだか泣けてくるな。構造を見る限り低出力高燃費なのは間違いないだろう。しかし生活で使用するレベルであれば、十分な出力は確保していることが見て取れる。


 この状態であれば、やはりすぐには近代魔道具を売るべきでは無さそうだ。しばらくは自分が使用する範囲に止めよう。燃費や出力があまりに違いすぎるので、王国の経済に大打撃を与えてしまいそうだ。




 魔道具屋を後にしてからは、当面の生活に必要そうな物を色々買い揃えた。服や下着も数が全く足りていなかったので、結構な出費になってしまったが仕方がないか……。


 買い物がひと通り終わった頃には、すでに日が落ちかけていたので宿に帰ることにした。

 宿に戻ると、夕食の準備をしているところだった。


「飯ならまだだぞ?」


「あ、構いませんよ。まだ部屋で荷物の整理などしなければいけませんので」


 実はこの宿、厳ついおっさんが経営している。全くもって癒やされない。探索者にはガラの悪いものも多いようなので、女性ではやっていけないのかもしれない。


 食事の準備ができたら、声をかけてもらえるようなので、部屋に戻ることにした。




 今日の修練場での出来事を考えていた……。ジーク達のように、少しやり取りをしただけで直ぐに思い出される。やはり、黒髪黒目は目立ち過ぎているように思える。何か対策を考えなければならないだろう。


 当面はフードを被れば何とかなりそうではあるが、ところ構わずフードを被っていればそれはそれで目立ってしまう。


 ……認識阻害ならどうだろうか。適当なアクセサリーをベースにして、認識阻害を付加するくらいなら、特に特別な機材はいらないだろう。

 よし、明日はアクセサリー屋にでも行ってみるか。




 迎えて翌日、相変わらず寝起きは最悪だった。もちろん、きちんと寝ているので、疲れは取れているのだとは思うが、精神的な問題で疲れがまったく取れている気がしない。こんなのが毎日続くかと思うと気が重い。


 結局、満足に動き出せるまでかなり時間が掛かってしまった。朝食はどうしたかって? もちろん、凄く嫌そうにされましたよ……。


 近いうちに朝食貰えなくなりそうだ。今まさに食べてるところだが、厳ついおっさんからのプレッシャーが半端無い。その後、食事が終わり逃げるように宿を出たのはご愛嬌。


 さて、気を取り直して、アクセサリー屋を見て回ることにした。探索者の街という割には、アクセサリー屋も武器屋等と同じでいくつかあるようだ。


 自分が探しておいて言うのもなんだけど、アクセサリーつける探索者なんているんだろうか?


 そう思ってた時期が僕にもありました。謎は店に着くなり即座に消え去ったよ。何人もの探索者が女性同伴で店を訪れていたのだ。


 見た目で直ぐにわかったが、男性の探索者の同伴女性のほとんどは娼婦で、逆に女性の探索者は、男娼を連れていた。


 探索者の稼ぎは多いようだが、命懸けの仕事である。それ故に、探索者達には宵越しの銭を持たない者が多いのだろう。


 当然の事ながら探索者向けの商売は多そうだ。

 まあ、他人のことはどうでも良いだろう。さっさとアクセサリーを選んで、認識阻害を付加したい。

 デザインの幅も広く色々と目移りしてしまったが、ひとまず男性がつけてもおかしくなさそうなデザインのネックレスを買うことにした。




 そんなわけで、アクセサリーを買った後は特に何処にも寄らず、宿に戻ってきた。また誰かに絡まれる可能性もあるから、早く対処したかったのだ。


 部屋の机にポーチから素材と錬成器具を取りだして広げ、モノクル越しに表示されている錬成手順を確認する。


 この程度の錬成であれば難易度はさほど高くないのだが、最近は賢者の石しか錬成してなかったので、念のため手順を確認をすることにした。


 一通りの資料を読み込み錬成手順を確認した後、机の上に広げた素材の中から、白い粉の入った瓶を手に取る。


 実は古典錬金術と近代錬金術は、その錬成工程に大きな違いはない。ある一点のみが異なる。しかし、その一点の違いにより、完成した錬成物に大きな差が出てしまう。


 魔術が術により魔法現象を起こすように、魔道具は道具に仕込んだ理で魔法現象を起こす。つまり魔道具はその内部でマナを循環させる必要がある。


 全ての物質には、その内部にマナを循環させるための道のような物が存在し、物質によってマナの通しやすさが異なる。しかしながらマナを通しやすいミスリルやオリハルコンは特別として、殆どの物質はマナを通しにくい。生い茂る未開の森が人を拒むように。


 マナが循環しづらいから、魔道具は低出力高燃費となる。しかし近代錬金術には未開の森を、きれいに整備された街道のように整地し、マナ循環特性を変えてやる工程が存在する。それこそが《錬成効果の劇的な向上》であり、その工程で使用する素材がこの白い粉、《錬成粉》だ。


 錬成粉の基本的な使用方法は非常に簡単である、水に錬成粉を溶かし素材を浸してやるだけで良い。

 物にもよるが概ね二時間程度漬けてやれば、その物質のマナ循環特性は劇的に変化する。高出力低燃費な錬成素材の出来上がりである。


 錬成粉自体は市場に多く流通していたため、以前は近代魔道具も多く流通していた。しかし錬成粉のレシピは一部の錬金術師以外には秘匿されていた。

 錬金術師がいなくなれば錬成粉が錬成出来なくなる。恐らく現時点で錬成粉のレシピを知っているのは僕だけだろう。


 閑話休題、錬成素材の漬け込みを始めたので、マナ循環特性の変化を待っている間に、魔法付加の準備を行うことにする。


 魔法の付加を行うためには、付加を行う魔法の理を理解しそのイメージを対象物のマナ回路に書き込む必要がある。


 認識阻害を例にとると、対象物を確かに見ているのだが、その認識を阻害し、あたかも別の物を見ているように錯覚させる、という事象を強くイメージする……だけではもちろんダメである。


 今回のケースであれば、黒髪黒目が青髪青目に見えるというように、具体的に何をどのように見せるかをイメージする必要がある。


 ――さて、そろそろマナ循環特性が変わった頃だろうか。液に浸したアクセサリーを取り出して、水分を拭き取り机に並べる。


 モノクル越しに表示されている値は、十分な水準まで変化しているので、理を書き込む工程に進むことにする。


 理の書き込みにはセントラルの支援を使う。通常は直接自身の魔力で理を書き込むのだが、理を乗せた魔力を一度セントラルによる処理を経由して書き込むことで、より短時間に、より精度の高い錬成を行うことができるようになる。


 このセントラルが完成した事が、賢者の石錬成を決心したきっかけであり、もちろんセントラルの支援が賢者の石錬成に大きく役立ったのは言うまでもない。

 十分程で全ての理を書き込み終わったので、完成したネックレスを身につけ鏡越しに確認を行う。


 ちなみに今回は魔石を使わず、装着者のマナを使用する仕組みをとっている。本当は魔石のマナで維持したいのだが、アクセサリー自体の形状が決まっているため、魔石を搭載する事ができないから仕方がない。まとまった時間が作れたら何か対策を考えることにしようと思う。


 うん、ちゃんと機能しているようだ。これで多少は目立たなくなるだろう。




 アクセサリー型魔道具の錬成後は特にやるべきことも無いので、残りの期間は街を散策しながらトライアルを待つことにしたのだが……。


「セントラル、そういえば僕が寝てた間に伝言受けてたりしないか?」


『セオドール様から一件承っています』


 もしかしたらと思って聞いたのだがビンゴだったみたいだ。


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