天獄塔・第二層(一)
アクセス数の激増に感動しつつも中々のプレッシャーに少々戸惑っています。
受付を通りポータルから第二層へ移動する。
ポータルを出て周りを見渡すと、そこには暗い闇が広がっていた。
幸い月明かりが周りを照らしているため、本当の意味での闇では無いわけだが、あたりの様子は暗いせいであまりわからないな……。
今の段階で唯一わかることといえば、ここが屋外ということ、つまり第二層のポータルは屋外に設置されているということになる。
この第二層はトライアルや第一層とは違い時間の概念もおかしいということなのだろうか?
昔セオドールが教えてくれた時差というやつかもしれないし、もしかしたら常闇の可能性も出てくるだろう。
おもむろにアイテムポーチから未踏地形探索魔道具を取り出して起動する。
前回同様、低い音を立てながら飛んで行く子機を見送り、最後の一機が飛び去るのを確認してから辺りの探索を始めることにした。
少しだけ付近の探索を行ったのだが、これが意外と大変だということがわかった。
天獄塔の異界に限らず、旅の際には夜の移動はなるべく行わないのが一般的だ。
何と言ってもまずは暗さのため見通しが悪くなること、基本的に夜の魔物は凶暴化している事が多いことがあげられる。
危険性は増すが得られる物は変わらないので、奇特な人間でもない限りはわざわざ夜に行動するようなことは、特殊な状況下でしか行わないのである。
幸い今のところは魔物に遭遇していないが、当然の事ながら安心はできない。
さて、気を取り直して、もう少し歩いてまわってみるか。
そんなことを考えていると、ふと頭上に気配を感じた。
慌てて前に転がると、先程までいた辺りを何かが通りすぎるのが視界の端に見える。
「魔物か!? 暗くてよく見えないな。セントラル、視界補正を頼む」
『かしこまりました。視界の補正を開始します』
セントラルのサポートを受けモノクル越しに上空を見上げてみると、十数匹の小さな黒い魔物が飛び交っているのが見えた。
身体は数十センチメートル程度で、子供のような身体をしている。その耳は尖っており背中から羽根を生やしている。
《シャドウ・エッジ・グレムリン》
エッジ……か、確かによく見ると羽が刃物の様に切れ味が良さそうだな。
暗闇にあの速度で飛び交うとなると、探索者にとっては中々に厄介な相手かもしれないな。
少し情報を集めようか……。
アイテムポーチから月詠を取り出し、少しの間シャドウ・エッジ・グレムリンの様子を窺う。
僕の周りを飛び回りながら数回突撃をしてくる。
どうも遠距離の攻撃手段は持ち合わせていないようで、周りを飛んで隙を窺う動きしかしてこない。
基本的に暗闇を利用しているつもりなのだろう、でも僕にはよく見えているよ。
ブリジットを造ってから、益々身体能力が人間のそれからかけ離れてきたらしく、動体視力も異常に高くなっている。
正直なところコマ送りと言うと言い過ぎだが、そんな印象を受けるくらいよく見える。
流石に暗闇はセントラルのサポートがないと見えないが、視界を補正している以上は、ただ速いだけの魔物だ。
シャドウ・エッジ・グレムリンは仲間を連携を取りながら、様々な方向から突撃をしてくる。
とはいえ、そろそろネタが尽きてきたのかな? ……それじゃあ、様子見はこれくらいにして討伐させてもらおうか。
突撃してくるシャドウ・エッジ・グレムリンの動きに月詠を合わせていく。
急に僕が反撃してきたので慌てたのか、必死に身体をひねりながら緊急回避を行おうとするもよけきれずに、一匹また一匹と月詠の餌食になっていく。
そのまま数匹のシャドウ・エッジ・グレムリンを始末したあたりで、群れのリーダーらしき個体が何やら大きな鳴き声を発すると、反転して逃げていってしまった。
すると間もなく全てのシャドウ・エッジ・グレムリンがリーダーの後を追うように逃げていってしまう。
まあ、追うつもりは無いから良いんだけど、異界に来てから逃げていく魔物って初めて見たかも……。
もしかしたら今後、知識を有する魔物と戦うこともあるかもしれないな。
そうなると魔術などへの対策も必要となってくることもあるだろう。
シャドウ・エッジ・グレムリンの撃退後は、数回同様の魔物に遭遇したものの特に問題も起きることは無かった。
結局、第二層を半日掛けて探索を行ったのだが、その間もずっと日があける事は無かった。
つまりここは最低でも半日以上は時間がズレている、もしくは当初の推測通り常に夜であるという可能性が高い。
ふと思ったのだが、ジークは洞窟の暗さには怯えていたが、野営の際には特に夜の闇を怖がっている様子は無かった。
ということは、ただ暗闇が怖いというわけでは無くて、暗闇に洞窟という要素を追加することで初めて恐怖の対象になり得るということなのだろう。
過去に何かしらトラウマを抱えているのだとは思うが、ジークが話してくれることは恐らく無いだろうし、僕にできるのはその対策くらいか……。
仮面の本使用はまだ先になりそうだが、次に洞窟の探索が必要な際にぶっつけ本番というのも何なので、機能テストはこの第二層でおこなってみても良いかもしれない。
さて……と、だいたい出来上がっているみたいだから、そろそろ地図の確認をしようかな。
未踏地形探索魔道具の親機を取り出し起動すると、親機の上部がうっすらと光り始め、浮き上がるように立体的な地図を写しだす。
……広さは第一層とあまり変わりは無さそうだ。第一層のような岩山も存在しないようで特徴的な地形は見当たらないな。
――いや、そんなことはないな。
視点を変えながら出来上がった地図を確認していて気付いたのだが、どうもこの第二層には子機が入って行くことができない場所が存在するようだ。
そのせいか出来上がった地図の一部がポッカリと開いてしまっている。
最初はそういう地形なのだろうかとも思ったが、何も写っていないのは流石におかしい。
大きさで言えば天獄塔の広場程かな、何かしら遮蔽物でもあるのだろうか……そこに何があるのか気になるな……。
まだ時間は少しあるが、その場所に辿り着けるほどには残っていなさそうだ。
仕方がないか、該当の地点に関してはまた後日調べることにするか……、勝手に行くと皆が怒りそうだしな。
今日の所は近辺の探索に留めるべきだろう。
その後は近辺の探索を行いつつ、シャドウ・エッジ・グレムリンの群れと数回遭遇したが、いずれも数匹討伐すると逃げてしまった。
まあ、それでも結構な数を討伐することができたので良しとしようか。
素材も幾つか採取することができたことだし、また夜の錬成が捗るというものだ。
さて、そろそろ時間なので、今日の探索を切り上げて帰るかな。
帰りのポータルを抜けると、いつもの広場が目の前に広がっていた……のだが、その様子はいつもとは少し違っていた。
確かにいつものように賑わいをみせてはいるのだが、ポータルから少し離れた広場の一角に人だかりができていて、なにやら慌ただしい雰囲気を醸し出している。
遠巻きでは何が起きているのかは分からないが、数人が話している様子を見ると余りよろしくはない事が起きているようだ。
何事かと近づいてみると、聞き覚えのある声が人だかりの中心辺りから聞こえてきた。
「おい、しっかりしろ! もう少しの辛抱だ!」
ダニスさんらしき人物の声が聞こえたので、人だかりをかきわけて中に入ることにしたのだが、屈強な探索者達が集まっているわけで簡単には前に行かせては貰えないようだ。
仕方がないので少し強引に人と人の間に入り込むことにしたため、隙間もなく集まっている体格の良い屈強な探索者たちを、身体の小さい人間が力任せに押し分けていくという妙な構図が出来上がる。
今回は事態は急を要するようなので、そこはあまり気にしないようにしよう。
さて、中では何が起きているのか……。
魔道具の名前とかもっとちゃんと付けないとなぁ。
未踏地形探索魔道具とかダサいですよね。




