センス
何と日間ランキング入りしてしまいました。
天獄塔の異界の第一層をクリアしてから数日の時間が経ったが、今のところまだ第二層には挑戦をしていなかったりする。
そんな僕が今何処にいるかというと、非常に賑わいを見せているいつもの場所……天獄塔の広場である。
僕的にはすぐにでも第二層に挑戦しても良かったのだが、ジークとエリーシャからのお願いで第二層への挑戦は少し期間を置いてから行うことになったのだ。
どうも第一層のガーディアン戦で深手を負ってしまったエリーシャとしては、少しの時間でも良いので自分を鍛え直したいとのことだった。
ジークもその鍛錬に付き合うようなので、折角なのでアリスにも一緒に鍛錬をしてもらうことにした。
アリスは僕の世話をしたかったようで少し抵抗をしたが、彼女もなるべく多くの経験を積むべきだと思うので、説得をして納得?してもらった。
念には念を入れアリスには《加護》を与えておいたので、恐らくだが不満からくる怒りは鍛錬においてジークとエリーシャにぶつけられることだろう。
これを乗り越えれば彼らもきっともう一段上に上がれるはずだ。
閑話休題、そんな訳で僕は一人広場で店を広げ、アリスが捌いて調理しておいてくれた魔物の肉を煮込んだスープを売りさばいているところである――と言いたいところだが実はまだ全然売れていない。
では何故売れていないのか?その理由は簡単で僕が売り方を余り知らないからだ。
料理自体は美味しいので一口食べればわかってくれると思うのだが、そもそもその一口を食べてもらえない。
さて、どうしたものだろうか……あ、そうか試食だ。
以前セオドールが言ってたな、若いころに食品を売る仕事をしたことがあるらしく、その仕事では必ず試食をさせていたらしい。
ただその試食のさせ方もルールが有るらしい。
まずはお店に人が近づけるように《テリトリーを開く》必要がある。
これには客の興味を引きつける事が大事だったはずだ、今回は幸い大きな鍋に煮込んでいるので店先でかき混ぜながら匂いを広げるだけでも効果があるだろう。
少しずつだが人が足を止めるようになってきた……。
次は実際に試食をしてもらうわけだが、客というのは無理に試食させようとしても抵抗するし、うっかり手にとってしまったが故に買わなければいけないんじゃないか?という圧迫感を与えてしまう為に警戒されてしまう。
ここで大事な事は……、そうそう確か立ち止まってくれた客に試食の料理を《手渡す際に相手を見てはいけない》だったかな。
手渡す際に相手を見ないことで客に警戒を解いてもらうんだったな。
渡し方は相手が手を伸ばさなくても良いように相手の前に差し出すことと、すぐに手に取らなくてもすぐに引いてはいけない。
よし、手にとってくれた。
――最初はどうなることかと思ったが、一人目の客の反応が直ぐに次の客を呼び込んでくれた。
その後は、数回の試食の結果、連鎖的に広場全体にスープの話題が広がったことで、最後の一杯は奪い合いになりそうなほどの盛況ぶりだった。
実は最悪の場合、ダニスさんを探しだして試食させ広告塔に仕立て上げるつもりだったが、その必要は無かったので安心した。
できればそんな方法は取りたくないからね。
売り切れた直後くらいに噂を聞きつけたシェリルさんがやってきたのだが、すでに今日の分が売り切れていたため明日また用意することを約束し、シェリルさんには諦めてもらった。
かなり恨めしそうにしていたがそれは気にしないでおくことにしよう。
今日の分が全て売り切れたので、店じまいをし宿に戻ることにした。
皆の鍛錬の様子を探索者ギルドの地下まで見に行こうかとも思ったが、僕がいても邪魔になるだろうから遠慮することにして、宿に戻ってある作業を行うことにする。
その作業とは新しいホムンクルスの錬成である。
ひとまず今日の売上も中々のものだったので、専任で働いてくれる人手を増やしても大丈夫だろう。
使用する魔石は天獄塔第一層のガーディアン=ポイズン・グリフォンの魔石である。
間違いなく手持ちの中では一番質が高い魔石なので、優秀なホムンクルスになることを祈ることにしよう。
――数時間後、ひと通りの錬成工程が終わったので後は成長を待つだけである。
アリスの錬成時とは違って、宿の部屋には従業員が入ってくることはありえないため、堂々と錬成ができるのは非常に助かっている。
アリスは僕の部屋を掃除することを他の人間に任せるつもりは全くないようで、普段から従業員の立ち入りを拒否しているのだ。
早ければ明日か明後日には錬成が終了するかな、それまでは僕が広場でお店開かないと……。
ふと、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「バーナード様、今帰りました。今、入っても宜しいでしょうか?」
「ああ、アリスかお帰り。どうぞ」
僕が返事をすると部屋のドアを開けアリスが中に入ってくる。その際に大きなフラスコを見ると少し驚いたような表情を見せたが、すぐに普段の表情に戻った。
「先日おっしゃっていたホムンクルスですね。ということはお店の料理は無事に売れたということですね」
「うん、最後の方は奪い合いになりかけてたよ。それにシェリルさんも売り切れた後に来て悔しがってた」
アリスは料理が無事に売り切れたことが嬉しかったようで、ほっとした表情をして胸を撫で下ろしている。
料理の味は皆が保証しているところなのでさほど心配するようなことではないと思うが、少々心配症なところがあるかな。
「それで反応を見た感じでは商売の目処は立ったかなと思ったから、新しくホムンクルスを錬成し始めたんだ。早ければ明日か明後日にはフラスコから出せると思うよ。性別は見たところ女の子だ」
「私の妹になるのですね。流石にまだあまり実感はありませんが……」
「そうだね、生まれたら面倒を見てやってくれるかい?」
「はいっ、お任せください!」
ぱぁっと明るい笑顔で答えるアリスは妹ができること、それに僕に頼られることが嬉しいようで、その後の終始上機嫌だった。
そのお陰か今日の夕食はアリスも力を入れて作ったようで、また格別に美味しい食事を堪能することができた。
翌日、ジーク達は再び鍛錬に向かうようだったので、アリスと一緒に送り出した後、午前中は魔道具のメンテナンスをすることにした。
メンテナンスをしながら、ジークの暗闇対策魔道具を考える。
ジーク以外は明かりが無くても暗闇の中を見ることができるので、できればジークに作る魔道具も同じようなものにしたいのだが、そもそもジークは暗闇自体が苦手なようなのでその辺りの対策も必要だろう。
途中までは魔道具のメンテナンスをしていたのだが、気付いたら暗闇対策の魔道具錬成に手を出してしまっていた。
なんというか、ふと思いついた物があったので一気に錬成まで持っていってしまったのだ。
結局これを錬成していたら気付いたら夕方になってしまっていたが、まあ一仕事終えることができたので良しとしよう。
この魔道具は基本的に僕達の魔道具と同じ仕組みなのだが、一部だけ違うところがある。
それは装着者を鼓舞するような付加を行っている点である。
これを身につけることでジークの暗闇への恐怖が完全ではないにしても払拭できるのではないかと思われる。
これでジークが暗闇でも戦力になるはずなので、きっと皆に喜んでもらえることだろう。
「――それで?この奇妙な仮面は一体何なんだ?」
ん、ジーク、君は一体何を言っているんだい?
この角とか模様とか格好良いとは思わないか?
強そうに見えるよ?
「もちろん、ジークの為に作った暗闇対策用の魔道具だよ。格好良いでしょ?」
「……すまねぇ、ちょっと俺にはこのセンスは理解できないんだが?」
「うーん、そうね……ちょっと厳しいかなぁとは思うわ」
え!?そ、そんなはずは……。助けを求めるような目でアリスの様子を見てみると、そのアリスは努めて僕と視線を合わせないようにしていた。
……あれ?
凄くないけど効果の有る知識。
誰かおばあちゃんの知恵袋チートみたいの書いてくれないかなぁ。




