仲間の優しさ
連休があっという間に終わってしまった。
さて更新ペースをどこまで維持できるか……。
群れの討伐に多少の時間がかかったのもあるが、ジークがかなり疲れていたので、少し早いがここで昼食を摂ることにした。
誰か反対するかもしれないと思ったが、ジークもエリーシャも魔物の肉が楽しみだったので大賛成との事だった。
先ほどの流れで幸い水場が目の前にあったため、アリスが今夜シェリルさんをもてなす為の分も準備したいと言い出したので、そういうことなら落ち着いて調理できるようにと結界の魔導具をアイテムポーチから取り出して、地面において起動して安全な場所を確保してみた。
流石に本格的な厨房のような環境は無理だが、魔物の肉を処理するには調理魔道具があれば足りるので、アリスはこの仮設でも十分だと言ってくれた。
アリスが準備に入り暫く時間がかかりそうなので、これから何をして時間を潰そうかな……。
とか考えていたら、何やらエリーシャが心配するような顔をしてそわそわしている。何かあったのだろうか?
「ねえ、バーナード君。見張りは立てなくて大丈夫なの? ここならそこそこ周りは見えるけど、異界の魔物は何処から襲ってくるか分からないわよ?」
「そういやエリーシャは初めてだったな、お前を助けたときも気絶したお前を連れて動けねぇから、バーナードが使ってたんだぜ」
「使うって何を?」
ああそうか、そういえばエリーシャが起きている時に使ったのは初めてだったかもしれない。
森の異界ではエリーシャを助けてからは野営していないので魔道具は使っていなかったし、天獄塔の異界に入ってからは日帰りばかりだったから知らなくても仕方は無いか。
「ああ、結界の魔道具だよ。これを起動しておけばそうそう入ってこれる魔物はいないはずだよ。少なくともここレベルの魔物なら何の心配も要らない」
「え、なにそれ、そんな便利なもの凄くコストが高いんじゃない? 魔道具ってことは動かすのには魔石が必要でしょ。私たちはまだ探索者の駆け出しなんだし、そんなに一杯も魔石を採れないわよ? 流石に危険を冒して探索に出てまで赤字にはなりたくないのだけど……」
「異界は魔石が多くとれるし、近代魔道具は使用するために消費する魔石量もかなり少ないんだ。探索中に近代魔道具を多少贅沢に使っても赤字にはならないから大丈夫だよ。今回の探索に関しては赤字か黒字のどちらかと言えば大黒字かな」
「うへ、近代魔道具ってなそんなにも違うもんなんだな。 なんか街で見かける魔道具とは世界が違うぜ」
街で見かけるような質の悪い古典魔道具と、僕達が年月を掛けて研鑽した結果である近代魔道具を比べる時点から間違えている。
僕としては古典魔道具などと比べられる事自体に嫌悪感があるわけだが、その意見に同意してくれるような錬金術師はすでに存在していないので、この気持ちは内側に抱えていくしか無いのだろう。
「はは、そうだね。……ちょっと、そっちで採取した素材の仕分けをするよ」
――少しぎこちない笑みだったかもしれないな。エリーシャはともかくジークも少し心配げにこっちを見ている。
声をかけてこないのは彼らなりの優しさだろう。
先ほどまでの気分転換に始めた素材の仕訳けだったが、これが意外と興味深いものになった。
仕分けていた薬草を調べていく中で、どうも天獄塔の異界で採取した薬草は普通の薬草に比べて薬効成分が強いというか、どうも倍近い性能がありそうだということが分かったのだ。
森の異界で採取した薬草ではこんなことはありえなかったのだが、これも天獄塔の異界ならではということなのだろうか?
ふと、探索者ギルドの素材買い取り依頼の張り紙で、《薬草の買い取り》という物があったことを思い出した。
トライアルに参加するまではあまり違和感も湧かなかったのだが、薬草の採取依頼などトライアルを終え天獄塔の異界に入った探索者にするような依頼ではないのだ。
しかも天獄塔の異界には薬草に似た毒草も多数見受けられるので、これが普通の薬草なら探索者的にもギルド的にもメリットは全く無いと思う。
なんといっても薬草に詳しいだけでなく、トライアルをクリアできる探索者でなくてはならないのだ。
自然と薬草の買い取りでも高い報酬が得られるということなのだろう。
実際のところ僕はセントラルもあるので、すぐに薬草を見分けることができるが他の探索者はそうではないだろう。時間は有限なのだ。
素材の採取だけでも結構稼げるかもしれないな、忘れないようにしよう。
これはポーション類などもそうだが手持ちのあらゆるものを代替素材が手に入り次第、天獄塔の異界産素材で作り直すくらいの勢いで良さそうだ。
ふふふ、ちょっとこれからのことが楽しみになってきたぞ。って、ん?
――少しぎこちない笑みだったかもしれないな。エリーシャはともかくジークも少し心配げにこっちを見ている。
声をかけてこないのは彼らなりの優しさだろう……優しさだよね?
さて、そうこうしている間にもアリスの準備は順調に進んでいるようで、すでに魔物の肉の処理は終えていて料理の準備に入っていた。
ジークの手で簡易的なかまどが作られており、パチパチと薪が燃える心地よい音が聞こえてくる。
今後の事を考えると、野営料理用の魔道具を作ってもいいかもしれないな。
近代魔道具なら持ち運び可能な大きさにまとめることもできるだろうし、料理に使うと便利そうな機能を付加することで、野営における食事の質が圧倒的に向上すること間違いなしだろう。
……アイディアは浮かぶがまだ流通はできないので、まずは自分たちが使える範囲で色々試していこう。
「料理が出来ました。皆さんおまたせしてしまいました」
「アリスちゃんそんなにかしこまらなくて良いのよ」
「す、すげぇ良い匂いだ……」
目の前に配膳された料理に目を向ける。今日は肉と野菜を煮込んだ物らしい。
非常に食欲をそそる匂いになっていて、その見た目も相まって素晴らしく美味しそうである。
ジークとエリーシャに目を向けて見ると、すでに二人の視線は料理に釘付けになっている。
「どうぞ召し上がってください」
アリスの一言を皮切りに料理を食べ始める面々、言葉なく一心不乱に食べ続けるところがこの料理の評価というところだろうか。
前回食べたシャロー・フォレスト・ウルフの肉も美味しかったが、今回使用したユニコーン・バッファローの肉もまた格別に美味しい。
野菜と一緒に煮込んだことで、染みだした肉のエキスが野菜やスープをより美味しくしているのが、僕の馬鹿舌でもよく分かる。
――アリスが作った料理を食べ終えるまでに大した時間は必要なかった。
皆満足そうに食後の余韻を楽しんでいる。
「これならシェリルさんもきっと喜んでくれると思うよ」
「本当ですか! よかったです」
アリスも料理に確かな手応えを感じているようで、満面の笑みを浮かべている。
余らせた食材はアイテムポーチに入れておいたので、この先数回はこの食材が楽しめそうだ。
今夜シェリルさんに振る舞う分はすでに調理済みで、こちらも同じくアイテムポーチに入れておいた。
これでもし帰りがギリギリになってしまっても、すぐに料理を振る舞うことが可能なので安心して狩りができるというものである。
でも、このペースで食材を手に入れていくと、アイテムポーチすら一杯にしかねないので早めに売りさばくルートを確立しなければならないだろう。
あれ、まてよ? いっその事泊まっている宿に卸すのもアリかもしれないな。
そうすれば宿代を補填できるかもしれないし、宿でも美味しい食事を期待することができる。
何よりももしかしたら、より高級な宿に泊まることも可能になるかもしれないではないか。
うん、それが良い。自分で売る体制が整うまでは宿に買い取ってもらえないか交渉してみよう。
色々な魔道具の活躍の場を作らなければ。




