実は他の魔物にも遭遇していたよ
確かにここまでの道中、地面から突き出した金属があるだけで、それ以外は白虎が駆けていた以外は変化はなかった。
だからと言って白虎以外に魔物が存在しなかったかと問われれば返答は異なってくる。
「んー、ジークは気が付かなかったみたいだけど、実は他の魔物にも遭遇していたよ」
「はあ!? マ、マジかよ」
「うん、マジマジ」
僕の言葉に目を見開き、アゴが外れんばかりに大口を開いて驚くジーク。直後に周囲を忙しげに見回すも、それは空振りに終わったようだ。しかし、当然ジークとは異なり、他の皆は気が――ついていなかったようだ。ジーク以外の皆も同様に驚いた顔を見せている。
僕のモノクルのように、魔物を調べられるアリスなら気が付いても良いものだが、さすがにあの白虎から逃げている最中に気が付けと言うのも酷な話だろう。
だから、その魔物に気が付かなかったからといって、何か悪いわけじゃない。襲われた時の事を考えれば、確かに気が付いた方が良いのは間違いないだろう。だが襲われそうになっていれば、さすがに気が付いていただろうしね。
……まあ、それにその魔物はまったく動いていなかったのだから仕方がないかなあ。
そう思いながら、少しだけイタズラ心が湧いてしまった。わざとらしく周りを見渡した後、皆に向き直り口を開く。
「ここからもその魔物が見えるよ。初めに発見した人には何か良いものをプレゼントするよ」
その言葉をきっかけに皆がその魔物を探し始めた。プレゼントと言っても特に何か考えていたわけではないので、相談しながら決めることになるだろう。というか、ジークは男からプレゼント貰って嬉しいのか?
「――あっ!」
少し時間がたった頃、最初に声を上げたのは驚くなかれマリナさんだった。てっきりアリスが一番に見つけると思ったのだが。
あとでアリスにその事を聞いてみたら、緊急性があったわけでもないし、僕からのプレゼントは魔道具の力には頼らずに自らの力でつかみ取りたかったとの事だった。その意気や良し。確かにズルをしても嬉しくないよね。
閑話休題、マリナさんの視線が向かう先にあったもの、それは地面から突き出た金属の塊だった。しかしこの場所からは少し距離があるので、皆には何を見ているのかわかりにくいかもしれない。
「どれのことだよ?」
「うーん、私もわからないわ」
ジークとエリーシャが目を細めながら、訝しげな表情を見せている。二人は若干疑っているようだが、恐らくマリナさんは正解している。
「ちょっと動いたのよ」
「だから何が――」
「あっ、私もわかりました」
マリナさんの言葉がヒントになったのか、ジークの声を遮るようにアリスが声を上げた。若干悔しそうだが、それでも魔物を見つけられた事が嬉しかったようで、微妙な表情ではある。
「あの金属、魔物です」
「あ、私が言おうとしてたのに……」
「あ、ごめんなさい」
ドヤ顔で説明しようとしたマリナさんだったが、溜めたせいでアリスが先に答えてしまった。
アリスに悪気はなかったようなので、マリナさんも冗談気味に責めたようだ。
「発見したのはマリナさんが先だったから、プレゼント獲得はマリナさんだね」
「まあ、それなら良いけど。やったあ、プレゼントだー」
素直に喜びを表現するマリナさんを見て、少し感慨深く思ってしまう。
合流した当初よりも、随分と気安くなった。見ている限りでは、皆とも自然なやり取りをしているように見える。
マリナさんにとって、教会関係者とは異なり対等な立場で接することが出来る、そんな間柄の友人というものは、僕が思っていたよりも大事なのかもしれない。
僕がセオドールを救えていたら、もっと違った未来があったのかもしれない。……ダメだなあ、その考えはよそうと思っては居るが、どうしても浮かんでしまう事が避けられない。もう百年も前に過ぎた事だというのに。
「プレゼントは何が良いかなあ。何かリクエストがあったら言ってくださいね」
「んー、ちょっと考える時間をちょうだい」
さて、ここから先はどう進むべきだろうか。
普段どおりであれば、新たな階層を探索し始める際には、未踏地形探索魔道具を稼働していた。しかし、今回は想定外の事態である白虎との遭遇があったせいで、起動したのはつい先程になる。つまり、現時点では地図がほとんど出来上がっていない。
今の段階で選ぶ事が出来るとすれば、目の前の森を抜けて先に進む、もしくは先程発見した魔物との戦いを選ぶか。
もし、金属の塊に擬態している魔物との戦闘を避けたとしても、この先何処かでは戦わなければならない状況に陥ることは容易に想像できる。
であれば、初戦に関しては見通しの良い場所を選んで戦っておくべきだろうと思う。
「皆、この後の事なんだけど、あの魔物と戦ってみても良いかな?」
「他に選択肢なんてあったかしら?」
うん、実に好戦的な回答をありがとう。マリナさんが当然のように淀み無く答える様子を見て、逆に安心してしまう。やはりうちのパーティで一番好戦的なのはマリナさんで間違いないだろう。
とはいえ、他の皆も魔物との戦闘に対しては特に避けたい様子もないように見える。もしかしたら先程、白虎から逃走した事も影響しているのだろうか?
皆の態度を見る限りでは、先程までの鬱憤を晴らす意図もありそうに感じた。……まあ、別に悪い話ではない。
「それじゃあ、第三十五層における初戦闘、といきますか」
魔物の近くまで近寄る。
先程までは殆ど動いていなかった塊だったが、僕達の接近を察知したのか、気持ち悪いほどに動き始めていた。
「こいつら何で今まで動かなかったんだろうな」
「んー、多分だけど白虎のせいじゃないかなあ」
「白虎にびびったってか?」
「少なくとも僕はそう推測しているよ」
ジークが冗談っぽく聞いてくるが、僕は至って真面目だ。だって――。
「白虎は金属を食べるからね」
「マ、マジかよ!?」
「玄武の属性は水、青龍の属性は木、そして白虎の属性は――金、つまり金属だからね」
白虎の牙とか爪なんて、並大抵の金属なら平気で切り裂くからなあ。以前、賢者の石の素材を採取したときなんて、防具の殆どがあまり役に立たなかったくらいだ。
異界産の素材で強化した事で、装備全般が大幅に性能が上がった。だが、それでもあの白虎の攻撃力を想像するに、ただでは済まない可能性が高い。
それを説明したところ、皆一様に驚いていた。皆よりも大幅に長生きしているエリーシャも、四神に関する情報は詳しく知らなかったようだ。
「だから、食べられてしまわないように、白虎にバレないよう擬態しているんだと思うよ」
そう言いながら、うねうねと動き続ける金属へと視線を戻す。
《メタル・ミミック》
見た目はスライムが一番近いだろうか?
スライムとは、主に洞窟のような薄暗い閉所に生息している、非常に危険で手強い魔物である。液体金属のスライムも存在はするが、そいつらは擬態という能力は持っていない。
忙しなくうごめいていたメタル・ミミックだったが、次第にとある形に変わっていった。
《メタル・ミミック(小白虎)》
「……小白虎、ね。なんだか良く出来た美術品みたいだなあ」
元々四神はそれぞれが神々しい。その姿を金属で忠実に表現しているのだから、その感想は当然のものだろう。
とはいえ、メタル・ミミックがそれを意図しているのかといえば、それは否だ。こいつらは自身が強いと思っている魔物に擬態しているに過ぎない。
こいつらにとって最も力のある存在、それが白虎だったという事なのだろう。まあ、この第三十五層で考えれば間違いないだろう。
さて、問題はどこまで白虎を真似してくるのかという事だ。
少し早いですが、今年最後の投稿となります。
おかげさまで今年一年、とても楽しい一年となりました。
来年も錬金術師は家に帰りたいを楽しんでいただければ幸いです。
それでは皆様、良いお年を。




