……ん?
とりあえず、今日はジーク達の孤児院に行く予定にしたものの、まだ先方に連絡を取っていなかったことを思い出した。……ごめん嘘付いた。実はあの後すぐアリスに指摘されました。
よくよく考えれば、既に昼なので何か用事が入っている可能性もある。
ダメ元で通信して確認したところ、幸いな事に皆家に居るようだった。何でも今日は、パリスが絵本を数冊持ち込んで、子供達に読み聞かせをしてくれているのだそうな。
パリスは魔術師に引き取られた頃は習うべきことも多く、また探索者を目指していたこともあり、スラムとは疎遠になっていたらしい。
だが今は念願の探索者となれたことで、ランディスと一緒にいる時間も増え、心にも生活にも余裕が出来た。
最近はスラムや孤児院の子供達に自身が学んだ多くの事を伝えているようだ。
閑話休題、孤児院には子供達も多いので、昼食時にお邪魔しても悪い。子供達に嫌われてしまうのは避けたいしね。そのため少し時間をずらして昼食が終わった頃に訪ねることとなった。
「今日はアリスも一緒に行くかい?」
「はい、今日は特に用事は入れておりませんのでご一緒いたします」
少し前までは、外出する際にアリスを連れて行かないことが増えてしまっていた。だが、スタンピード後に発生したピエール達の救出劇を経た事で、再び一緒に出かけることが増えた。
……あの時は緊急事態だったとは言え、随分と心配を掛けてしまった。それはとても心苦しくは思っている。
ある程度、落ち着いてから連絡を入れれば良いかと思って後回しにしてしまっていたが、ランディスが気を利かせて孤児院まで走り、通信機から連絡をしたという事だった。
お世辞にも上手くないランディスの説明により、アリスには余計な心配を掛けてしまったという訳だ。セントラルから連絡を入れる事はそれほど手間でもないので、完全に僕の手落ちだったといえるだろう。
ただ、さすがに僕も、毎日のようにあのようなトラブルに巻き込まれる事は無いのだが……。
まあ、良いか。僕自身アリスと出かけるのが嫌なわけではない。
「少し早いけど出る準備したら出かけようか。適当に散策しながら向かおう」
「はい、かしこまりました」
先日ファエルから聞いたアクセサリショップにでも行ってみようかな。……そういえば、何でファエルが可愛いアクセサリの店を知っているんだろうか?
アクセサリショップでは、アリスがとても嬉しそうに商品を見ていた。どうもアリスの好みにピタリと合っていたようだ。やるなあ、ファエル。
店には少し長居してしまったが、アリスが気に入った可愛らしいブレスレットをプレゼントすることが出来たので良かった。
随分と喜んでくれたので、せっかくだし後で何かを付与するついでに、長持ちするように色々と盛り込もうと思う。
その後も街を散策しながら時間を潰し、少し予定時刻を過ぎた頃に孤児院へたどり着く。
孤児院の前ではジークが子供達と遊んでいた。前よりも子供達が増えているような気がするのは、気のせいではないだろう。そろそろここも手狭になって来たんじゃないかな。
もし良かったら建物を天獄塔みたいに伸ばそうか? 子供達が楽しく住めるように魔改造するよ?
「よう、来たな……ん?」
「やあジーク、二人は中にいる?」
「お、おう。二人共待ってるぜ」
こちらに気が付いたジークが僕に声を掛けた後、後ろを向いて首を傾げる。一緒に遊んでいた子供達もジークの視線に誘導されたのか、同じように後ろを振り向いたのが、ちょっとだけ可愛く感じてしまった。
改めてジークと子供達に挨拶をしてから孤児院の中に入ると、ランディスとパリスが揃って出迎えてくれた。
先程伝えていたので、ランディスとパリスとはすぐに話に入れるように待ってくれていたようだ。
「バーナード兄、待ってたぜ! ……ん?」
「お待ちしていました……ん?」
「二人共、こんにちは」
「? こんにちは」
僕に挨拶をした後、二人は揃って後ろを向いて首を傾げる。アリスはそれを見て不思議そうな顔をしながら二人に挨拶を済ませた。
「さ、座ろうか」
「お、おう」
テーブルを挟んで対面に腰掛ける。ランディスとパリス両名を見て、あまりの自然さに微笑ましい思いだ。パリスも通いつめているおかげか、すっかり孤児院に慣れたようだ。
僕達が座ったのを見計らったかのように、エステルが部屋に入ってきた。
「どうぞ、お茶でぇす」
「こんにちは、エステル」
持ってきたお茶とお菓子をテーブルに置くと、小さく礼をして退室する。
……ランディスの視線は以前と異なり、エステルの一挙手一投足に向くようなことは無いらしい。成長したものだ。そういえば、パリスはエステルのことをどう思っているのだろうか?
てっきり恋敵認定で敵対するするものかと思われたが、意外にもそのようなことはない。少なくとも表面上はとても友好的に見える。
しかし、実際の所はどう思っているかなど、さすがに聞けるわけがない。
――なんだか巻き込まれそうで怖いのだ。こういうのは魔術師と相対するよりも怖い。
ひとまず触れないように無難な話をしよう。
「二人共、パーティの調子はどう?」
「それよりもさ! バーナード兄、今日は何かすっげえ魔道具を持ってきてくれたんだろ? 早く見せてくれよ」
「もうラン君ったら。バーナードさん、すみません」
「ははは、構わないよ」
大丈夫、話が怖い方向に向かわなければ何の問題もない。
まあ試作した魔道具の事は、家から連絡を入れた時点で伝えているので、良い反応をしてくれているのは仕方がないかもしれない。ランディスって結構、魔道具好きだしね。
「とはいっても、そんなに期待させてしまうほど、凄い物ってわけでもないんだけどね」
「でも、魔術師対策なんだろ? 何かすっげえじゃん」
ランディスが無邪気に盛り上がっている。言葉だけ独り歩きしている感は否めないが、僕としてもそれなりに自信はある。この期待に応えられると嬉しい。
ただ、パリスの反応はイマイチなようだ。手を口に当てて、何かを考えるように下を向いている。
「……しかし、魔術師対策なんて本当に可能なんですか?」
「馬鹿、バーナード兄が言ってんだから、出来るに決まってんだろ?」
「もちろんです」
パリスの疑問にランディスがツッコミを入れると、アリスが便乗するように頷いた。いや、信用してくれるのは嬉しいが、盲信はしないで欲しい。
「いや、パリスの疑問も最もだと思うよ。一応、僕的にはそれなりの自信はあるけど、それが絶対の成功を約束しているわけじゃない。だからこそランディスにデータ取りを兼ねて渡すんだ」
ランディスに説明しながら、視線を動かしてパリスの顔を見る。その視線の意味に気が付いたのか、ようやくパリスの表情に納得の色が見えた。
「私が仮想敵を演じれば良いという事ですね?」
「面倒かもしれないけど、今後の探索で君達パーティの生存率を上げる為に協力して欲しい」
この異界都市には魔術師は多い。しかし、積極的に魔道具の実験に協力してくれるような魔術師は、なかなか存在するものではない。
シェリルさんに依頼すれば協力してくれるかもしれないが、あの人は多忙すぎて手をわずらわせるのは申し訳ない。
その点、パリスは魔術師でありながら探索者を生業とする貴重な存在だ。それでいて、ランディスの安全に関わる事であれば、協力を惜しむようなことはないだろう。
「……わかりました。他ならぬラン君の為ですし。ところで、肝心の魔道具はどのような物なんですか?」
「ありがとう。実は二人共、もう少しだけ体験しているよ」
「え!?」
二人が揃って同じ反応を示す。その様子を見てついつい笑みが漏れてしまう。
「――後ろが気になると、なかなか集中できないと思わない?」
割りと地味な機能?




