まったく、厄介なことだ
残された光景を見て、若干やりすぎてしまった感が拭えない。直撃を受けた魔術師はもちろん、僕の盾になったゴーレムもほぼ半壊状態だ。異界産の素材で造られた以上、このゴーレム達は相応の耐久性を持っているはずなのに……。
そんな攻撃をそのまま突っ返した訳で、咄嗟にゴーレムの口を半分程度閉じたものの、当然だが生身で耐えきれるはずもなく、魔術師は消滅してしまった。先程まで命のやり取りをしていたのは事実だが、もう少し良い方法はあったかもしれない。
言い訳をさせてもらうとすれば、あの魔術師が怒っていたとはいえ、まさか洞窟内でここまでの高火力攻撃が行われるとはさすがに予想していなかったのだ。
僕達が第五層を踏破した際には、洞窟が崩落する恐れもある為、火力は落として探索を行っていた。これは僕の認識がおかしかったのかもしれないが、常識的に考えれば火力は抑えるだろう、と。
ただ、ここで驚くべきは第五層を構成する洞窟には、ほとんど損傷が見られないということだ。相変わらず不思議なことだらけだが、異界というのはこういうものなのだと思うしか無いだろう。もしかしたら、あの魔術師は既に耐久実験を行っていたのかもしれない。
閑話休題、このまま考えていても状況が変わるわけではない。ひとまずは意識を切り替えて、気絶している片割れが起きてしまう前に無力化させてもらおう。
「これで良しっと」
魔術師に近寄り、アイテムポーチから取り出した手錠をかける。これで、こいつの目が覚めても安心だ。この手錠ももちろん近代魔道具である。これには身につけている者の魔力を拡散させる効果があり、襲い掛かってきた魔術師を無力化して拘束する為に昔から重宝している。
そして次にゴーレムに近づき、首元へ手を伸ばす。
「回収できたのは一組だけか。……まあ、あれだけの衝撃だから仕方がないと思うしか無いな」
人形のゴーレムから引き抜いた杭を見て、独り言が漏れてしまった。というのも実はこの魔道具、製造コストがそこそこ高い物だったりする。
名称はインターセプターとインジェクター。
インターセプターは、ゴーレムの内部に満たされる魔力の流れを横取りして、セントラルによる詳細解析を可能とする魔道具だ。
そしてインジェクターは、魔術師から送られた命令に割り込みを掛けて、その中身を改ざんする事を可能とする魔道具である。
この二つの近代魔道具を組み合わせてゴーレムに仕掛けることで、僕が今回行ったような事を実現することが可能となる。
本来であれば、解析にはそれなりの時間が掛るのだが、今回はたまたま起動前に取り付ける事が出来た。起動シーケンスから全ての情報を取得できた事で、これだけ高速な解析と改ざんを行うことが出来たというわけだ。
普段であればこれだけの数を投入する事はないのだが、今回はどのゴーレムと戦うことになるのか分からなかった事もあり、確認出来た範囲内の全てのゴーレムに仕掛けさせてもらったという訳だ。まさか全部が動くとは予想外だった。
結果的には判断は正しかったのだが、そんな物が幾つも壊れてしまったのだから、僕が愚痴を漏らしてしまっても仕方が無いと思っている。
「せめて、僕の塔の防犯もこれくらい簡単なら良かっ――いや、そうでもないか」
よくよく考えれば、魔術師達がポータルや異界を調査解析していないという事は、さすがにありえないだろう。
それでも僕の研究室には誰も訪れることはなかった。世界で五本の指に入る錬金術師と、一介の魔術師の技術力の差がそこにある。などと自惚れてみる。
実際、塔の防犯性能が低かったら、とうの昔に研究室までたどり着けているに決まっている。つまり僕は殺されていた。
これに関しては、防犯面にしっかりとこだわった事が、たまたま功を奏した結果の上で今が成り立っていると言っても過言ではないだろう。
魔術師はまだ目覚める気配はないので、このまま連行してしまおう。そう思い、魔術師に歩み寄ろうとした瞬間、呼び出し音が耳に届く。発信者は――アリスだ。
アリスに情報が届いてしまったか。余計な心配を掛けたくなかったので、出来れば帰還後に自分で伝えたかったのだが。まあ、救助に向かってから既に、結構時間が経ってしまったので仕方がないか。
誰から伝わったのかはわからないが、アリスの慌てる姿が目に浮かぶようだ。そう小さく笑いながら、通話をつなぐ。
「もしもし、アリ――」
「バーナード様! ご無事でしたか!?」
「あ、ああ。特に問題は無いよ」
「よ、良かったです」
……想像していた以上に慌てすぎだった。様式美を忘れている。
ひとまず僕の無事が確認できたことで、若干アリスの勢いが弱まったようだ。とはいえ、現状アリスに何がどこまで伝わっているのか、それが分からなかった。その為、横着せずに事の経緯を伝えることにする。
「――というわけで、魔術師は片割れを捕獲出来たけど、全員を救うことはできなかった」
「そうですか。亡くなってしまった方は残念ですが、異界の探索者である以上はこういった事も受け入れるしか無いですね」
事のあらましを伝え終わることには、アリスも随分と気持ちが落ち着いたようだ。なるべくいつもどおりの口調を心がけたのが効果があったのかもしれない。
それにしても、さっき僕を心配していた人と同一人物とは思えない程の切り替えだ。まあ、顔も合わせたことのない探索者の事だしね。
「状況はそんなところかな。こっちは魔術師を連行しないといけないから、そろそろ異界から帰るよ。アリスは夕飯の支度をして待っててくれると嬉しいかな」
「かしこまりました。腕によりをかけて準備しておきます」
アリスが嬉しそうに返事をしてくれたのを確認して通話を切る。
今、アリスにお願いをしたのは、理由の半分くらいは慌てて行動を起こさないようにするためだ。アリスに情報を伝えた人物が誰かはわからないので、一応は念のため。それにしても、いつもよりも腕によりをかけるとどんな料理になるのか?
僕としても、こんなところに長居するのも飽きてきた。ここに残しておけない物は研究資料等を含めて全て回収して帰ることにする。そう思い、再び奥へ移動する。
「あれ、思っていたよりも随分と少ないな。……ああ、そういえば空間魔術を使えるんだったか」
恐らくは重要な資料等は魔術師が所持しているのだろう。まったく、厄介なことだ。
――依頼事は片付いた、か。
戦いの前に魔術師が発した言葉。そのまま受け取るなら、二人はこの異界で何かしらの仕事を成し遂げたということだ。
まあ、それはシェリルさんに丸投げさせてもらうとしようか。理由はどうあれ、あの二人がスタンピードのどさくさで異界に入り込んでしまったのは間違いない。
十中八九、近代錬金術普及への妨害が理由だろうけど。
異界から戻ると、塔の一階は既に落ち着きを取り戻していた。僕達の姿を見た職員がこちらへと足早に近づいてくる。
よく見ると、僕がピエールの仲間を救出に向かう際にも受付で業務をしていた職員だった。一旦、連行した魔術師へ視線を向けると、表情に怒りを滲ませた。その後は安堵した様子に戻り、僕へと向き直り礼をする。
「ご無事で何よりです」
「全員を救出は出来ませんでしたけどね」
「いえ、ご協力ありがとうございました。すぐに他の職員を呼びますので、少しだけこちらでお待ちいただけますでしょうか」
少しだけ声のトーンを下げて言ったのだが、返ってきた答えは感謝の言葉だった。異界で暴れた輩と同じ魔術師とは思えない程の気持ち良い対応である。全ての魔術師がこういった人たちなら平和なのに。
そんな考えに浸りながら待っていると、入り口の扉が開くのが見えた。中に入ってきたのはパリスだった。
ここ最近の探索者ルックではなく、探索者ギルドの制服を着ている。つまり今は臨時で職員としての業務を行っているということだ。救出に行く前にお願いしておいたが、きちんと対応してくれていたようだ。
切りも良さそうなので、次かその次話くらいでこの章を閉じます。
もう少し短くまとめられるようになりたい。>_<




