それは秘密です
先程は場を満たしていた魔力が再び薄くなっている。ちょうど半分、魔術師と遭遇する前と同じ値を示している。……そうか、この双子の魔力は、性質がかなり深いレベルで親しいということなのだろう。
二人で一人の魔術師といったところか。でも片方が倒れても変身する訳ではないらしい。昔セオドールが近所の子供達に聞かせていた、探偵物の創作物語を思い出す。そういえば一時、王都でものすごく流行ったな。
閑話休題、こちらの安い挑発にも、魔術師の片割れはしっかりと反応してくれた。冷静さを失っているのだろうか?
その割には現時点で兄弟が倒れたにも関わらず、自身の勝利を疑っている様子はまったくない。二人がかりで僕を倒しきれなかったのに、だ。
であれば、自身の勝利を信じるに足る根拠となる物が、未だ存在するということなのだろう。……まあ、大体予想はつくけど。
魔術師は壁に並べられたゴーレムの足元から一歩も動かずに、怒りに任せて醜悪な笑みを浮かべている。
――いや、違うな。
モノクル越しに見る限り、魔術師は詠唱隠蔽を保ったまま魔力を練っている。つまり、過剰に怒っているように見えるのはブラフだ。
恐らく魔術師が行っていること、それは――。
「それが切り札かな? 待っててあげるから、悔いの無いようしっかりと魔力を練ると良い」
「……その余裕、後で悔いることになるぞ」
僕の指摘に魔術師は表情を消す。だが、バレたからと言って魔力を練る事をやめるわけではないようだ。
しばらく様子を窺っていると、ゴーレムが乗っている土台が薄っすらと青白い光を放ち始めた。それも魔術師のすぐ近くにある一体だけではなく、五体全てのゴーレムが同じ変化を起していた。
「なるほど、一体だけじゃないってことか」
「バカが、今更後悔しても遅いぞ!」
魔術師が勝ち誇ったような態度で言い放つ、若干癪にさわるが確かに言うだけのことはある。五体ものゴーレムをしっかりと制御し切る事が出来るのであれば、相当な脅威となるだろう。……制御できればね。
片割れを失った状況でどこまで制御できるのか、ゴーレム使いはミスリルゴーレム以来なので、少しだけ楽しみではある。
もしかしたら、表情に出てしまっているかもしれないな。
「驚きはしたけど、後悔はしていないよ」
「強がりを、行けっ!」
主の指示に従い、一斉に動き出すゴーレム達。
僕がこれまでに見た事のあるゴーレムの中でも、最上位の動きを見せていると言っても過言ではない。それが五体あるというのだから、異界産の素材というのは本当に凄いな。
第五層の鉱石でこの結果なのであれば、より上層で取れた鉱石を使ったらどれほどになることか。異界産の素材は僕達だけではなく、魔術師も強化してしまう。諸刃の剣のような物なのかも知れない。
まあ、だからと言って僕が上を目指すことをやめるようなことはありえない。魔術師が強くなるのであれば、僕達がもっと強くなれば良いだけのことだ。
ゴーレム達に囲まれないように注意しながら、波状攻撃を避ける。五体全ての形状が異る為、その動きは一つとして同じ物は無い。これを制御するというのだから大したものだ。
恐らくこの魔術師にとって、最大の武器というのは、この制御力だろう。
空間魔術を操るくらいなので、もともと魔術の制御には自信があるのは間違いないのだが、この魔術師はその水準を遥かに凌駕しているように思える。そこで気を失っている片割れも、こいつと同レベルの制御力を持っているとすれば非常に恐ろしい話だ。
……ポータルを使えて、制御も上手く、それが二人も居る、か。どうにも嫌な予感がする。
「おっと、今のはちょっとだけ危なかった」
集中しきれていなかったせいか、人形のゴーレムが繰り出す攻撃が当たりそうになってしまった。避けきることはそれほど難しくはないが、さすがに直撃されれば僕もただでは済まない可能性がある。
緩みかけていた意識を再びしっかりと持つ。何にせよ今は避け続けるしか無い。
しばらくの間、ゴーレム達の攻撃を避け続けているが、未だに見事な連携を見せている所はさすがである。並の魔術師であればとうの昔に乱れてしまうことだろう。
……だけど、それもここまでだ。
「ふふ、準備完了っと」
「……何がおかしい?」
「おっと」
一瞬、モノクル越しに表示された情報に気を取られたので、攻撃を食らいそうになってしまった。油断大敵だね。
さて、と。僕が打った布石が、無事に成果を上げた事がモノクル越しに表示された。それを見て少しだけ笑みが漏れる。
「気でも触れたか? 壁に追い込んだぞ。ゴーレム、愚か者にとどめを刺せ!」
僕の笑みを勘違いしたのか、魔術師は勝負を決めにかかってきたようだ。本当は何をしたのか、魔術師に感づかれる前にやらかしてしまおう。
魔術師の命令を受け、ゴーレムが一斉に襲い掛かってくる。今のままでは全てを避けきる事は難しそうだ。
モノクル越しに見えるメニューを操作して、仕掛けを起動する。次の瞬間――。
「は?」
「残念、ハズレ」
ゴーレム達の攻撃は間一髪、僕にまったく当たる事無く、虚しく空を切った。勝利を確信したであろう魔術師は、想定外の出来事に驚き、マヌケな声をあげる。
すぐに気を取り戻した魔術師だったが、その後も数回攻撃を試みるも、攻撃は一つとして僕に当たることはなかった。
「……一体何をした?」
「それは秘密です」
魔術師からの探りに対して、少しふざけて言葉を返すと、あからさまに機嫌が悪くなる。
命のやり取りをしている相手なのだから、当然丁寧に教えてやるようなことはしない。せいぜい自分の頭を使って頑張って考えると良い。
少しだけ考える素振りを見せた魔術師は、何かを確かめるようにゴーレムを動かして攻撃を仕掛けてくる。当然全ての攻撃は僕には届かない。
だが、それを見た魔術師の口角が微かに上がる。
「どうやら攻撃が少しだけずらされているようだな。……だが種は破れたぞ」
そう言い放った後の攻撃は、先程よりも少し僕に近づいたので、もう少しだけずらしてやると再び遠のいた。
「まだまだ遠そうですね」
「……ならば避けられない攻撃をすればいい」
すると、五体の内の四体が左右に開くように動き、僕の行動範囲を狭める。そして目の前では一体のゴーレムが大きな口を開けて構えを取る。見た目は小型のドラゴンなので疑似ドラゴンブレスの準備といったところだろうか。
「ここまでもったことを褒めてやる。だがこれで終わりだ。死ね!」
ゴーレムの口内に濃い魔力が収束していくのがわかる。おいおい、こんな狭いところで撃つ攻撃じゃないだろう。こんなの撃ったら魔術師だってただじゃすまないはずだ。
このまま待っているわけにはいかないので、慌ててモノクル越しに見えるメニューを操作する。まあ、少しは狙っていた攻撃なのでちょうど良い。
「よし、間に合った」
「え、ちょ、ちょっと待――」
魔力の収束が臨界点を突破する瞬間、ゴーレムが首をぐるりと動き魔術師の方へ向いて口を半分以上閉じる。それを見た魔術師は慌てふためき、わけのわからないことを口走った。……いや、待つわけがないだろう。
臨界点を越えた魔力がゴーレムの口内で弾ける。その衝撃はゴーレムの頭部を破壊しながら外部へと漏れる。
漏れた光と衝撃は、ゴーレムの前方へと拡散した。危うく僕も余波を食らいそうだったので、残りの四体のゴーレムに壁になってもらうことにした。
――光と衝撃が収まった後、射線上に魔術師の姿はどこにもなかった。




