積み重ねてきた必然だ
予想外の状況に、自分の目を一瞬疑ってしまう。とはいえ、立て続けに放たれる攻撃を食らうわけにもいかないので、しっかりと確かめる程の余裕は無い。
「二人いるとか、話がっ、違うぞ」
「話? ……あの死に損ないの探索者め、野垂れ死ぬと思ったが、生きて逃げ延びたのか」
「なおさら生かして帰すわけにはいかんな」
魔術を避けながら半ば八つ当たりのような言葉を発してしまった。それを聞いた魔術師達は、この場での決意を新たにしたようだ。
というか、問答無用で魔術を撃ってきている辺り、元々生きて帰す気など無いだろうに。なおさらってなんだよ。
ただ、今のやり取りで一つ明らかになったことがある。やはりピエール達パーティを襲ったのは、この魔術師二人組だ。となると、ピエールが魔術師が一人だったと言ったのは、二人の内の片方だけしか認識できなかった? 顔が同じだったので気が付かなかった?
そんな少しだけの思考すら邪魔をされているせいか、考えがまったくまとまらない。
今のところは避ける事に集中すれば、何とか避けきれない事は無い。しかしその代わりこちらから攻撃を仕掛けることもできない。それほどまでに二人の連携は見事に感じる。双子だったとしても出来すぎなほどに。
少なくとも、二人の魔術師からは視覚で互いを確認することは出来ないはずだ。しかし、放たれる魔術のタイミングは際どいタイミングを物にしている。さらに言えば、二人の魔力はモノクル越しに見ても見分けがつかない。
避けながらなので、しっかりとではないが何とか奥の様子を確認することは出来た。奥は行き止まりになっているらしい。……まあ、先程の壁のように細工されていなければの話だが。
奥は見えた。であれば、次はこの窮地をどうやって凌ぐのか、だ。
いつものように魔術をキャンセルして反撃してやりたいところだが、発動前にキャンセルするには少々距離が離れている。さらに言えば、挟まれた状態では片方をキャンセルするのが精一杯だろうか。
「それでもマシか!」
「突っ込んできた!? 馬鹿め!」
現状を打開するために、一歩踏み出す事にした。奥側の魔術師が放った魔術を避けながら、通路側の魔術師が放った土槍に向かって駆ける。魔術師もまさか自分から当たりに来るとは思っていなかったのか、驚きの声をあげた。
そして、土槍が僕の眼前に届く瞬間――跡形もなく消え去った。
「なっ!?」
更に輪をかけて驚きを表現する魔術師を無視して、通路の端にあるゴーレム達の元へ走り寄る。魔術師へと一足飛びに突っ込むには、情報が足りていない。とりあえず、ゴーレムには盾になってもらおうか。魔術師達も折角作り上げたゴーレムを自らの手で壊したくは無いだろう。
ゴーレムの影に隠れながら、次の一手を打つべくアイテムポーチへと手を入れる。
「私達を相手に隠れられると思うな」
奥側の魔術師が通路へと出てきたようだ。しかし、今の位置取りならどちらからもゴーレムが死角になって、こちらに有効な魔術を放つことは――。
そう思った瞬間、あり得ない射線から魔術が飛んできた。咄嗟に身体を反らしギリギリ避ける。
他にも居たのか!? 慌てて魔術が飛んできた方へと視線を向けるが、そこには誰も居なかった。……どういうことだ?
ひとまず、この位置取りでは狙い撃ちにされる可能性が高い。死角を利用し、ゴーレムの影から別のゴーレムの影へと忙しなく移動する。しかし何処に位置取りしても、魔術は正確に僕を狙ってきた。しばらく避けることに集中して状況を確認する。幸い、先程挟まれたときよりも、魔術師達の攻撃密度は濃くないようだ。
その時、視界の端に原因となりえる物が映った。……なるほど、そういうことか。
片方の魔術師が魔術を放った直後、魔術師の目の前に歪んだ空間が現れたのだ。放たれた魔術はそのまま歪んだ空間に吸い込まれ――別の射線から飛び出てきた。つまり、この魔術師は空間に作用する魔術を行使することが出来る、ということだ。
どちらが、ではない。射線をコントロールしているのは片方に固定化されているわけではないという事は見て取れる。ほぼ確定的に双方の魔術師は空間魔術を高い精度で操るということだ。
「なかなか厄介だね。でも、手がないわけじゃない」
「「強がるな」」
僕の言葉が聞こえたのか、二人の魔術師が声を揃えて挑発してくる。僕はそんな事で嘘はつくつもりなど無い。ここに至るまでにこれまでにいくつものヒントがあった。
飛んでくる魔術を避けながら、小石をいくつか拾い上げる。そして、そのまま身体をひねる勢いを利用して、流れるように石を投げた。
その直後、通路に硬いものが割れる音が響き、周囲は闇に包まれる事となった。照明を割らせてもらった。ピエールが死にそうになりながらも、魔術師を撒いて生きて帰ってこれた理由の一つ。
「くっ、何も見えん! 時間稼ぎしたところで無駄だ。逃さんぞ!」
「見えないのは貴様も同じだ」
残念、僕はしっかり見えているよ。モノクル越しに、慌てながら周囲へと視線を巡らせる魔術師の姿が映る。……予想通りだ。この魔術師達は暗闇での行動に慣れていない。
ピエールに逃げられてから、それほど時間も経っていないのに、そこに思い至らないのか? いや、ピエールの件は偶然の出来事だと思っているのかもしれないな。真実はピエールという探索者が長い時間を掛けて積み重ねてきた必然だ。決して偶然などではない。
慌てながらも警戒する姿が若干滑稽に見えてしまったので、笑いそうになるのをこらえつつ、通路側の魔術師へと音を立てないように駆け寄る。これも必然の結果だ。
魔術師の顔面をめがけて蹴りを放つ。こちらはしっかりと姿を捉えているので、当然のことながら外すわけはなく、魔術師の顔面に直撃する。
魔術師は声にならないうめき声を残し、力なく吹っ飛び壁に激突した。……やべ、すごい勢いでぶつかったけど死んでないよな?
慌ててモノクルの表示を確認すると、何とか生きてはいるようだ。若干可哀想ではあるが、命があるだけマシと思ってもらおう。
次の瞬間、後方で弱い光が発生した。なるほど懸命な判断だ。普通の光なら再び視界が奪われるから、その選択は正しい。……一手遅いけどね。
「あ、兄上! 貴様、楽に死ねると思うな!」
「そろそろ、言葉だけではなく実践してみせたらどうですか?」
「殺す!」
自称弟の魔術師は激情型か? 僕の塔で探索者を殺しておいて、よくそんなセリフを口にすることが出来るものだ。……怒っているのはこっちだって同じだ。片割れが居なくなったことで、戦力は大幅に落ちたはずだ。一気に片付けさせてもらおうか。
魔術師は再び魔術を行使するために集中を始める。悪いけどそんな事はさせない。再び地面を蹴り、魔術師へと直線的に駆ける。
いつでもキャンセルする準備はできている。自信があるなら撃ってこい。
そして、魔術師が詠唱を隠蔽して魔術を発現する。しかし、魔術はこちらへ飛んでは来なかった。足元から生まれた歪んだ空間が魔術師を包み込む。
「ポータル!? 悪いけど逃がさないよ、セントラル」
『かしこまりました。ポータルをスキャンします――』
「逃げるかよ!」
てっきり逃げるかと思われた魔術師の声が後ろから聞こえた。振り向くと、魔術師はゴーレムの足元で勝ち誇った表情を浮かべていた。
『スキャンが終了しました』
「ありがとう」
「何を言ってやがる?」
「ああ、こっちの話だから気にしないで」
「舐めやがって」
なんだかどんどん言葉が汚くなっていくなあ。表情の割に余裕がなくないか? そのうちジークみたいにブロークンな言葉になったりして。




