魔物の肉
ようやく風邪が良くなってきました。
ぶり返さなければ良いなぁ。
そんなわけで昨日の流れの通り今、僕とアリスは魔物の肉を処理するための調理器具を探しに来ている。
流石に一般的な調理器具とは扱いが違うようで、取り扱っている店は極端に少ないらしい。昔は一般の調理器具と一緒に売られていたんだけどなぁ。
数軒訪ねてはみたが全くかすりもしなかったので、ジークとエリーシャに謝って今日一日探索をお休みにしてもらった。
二人共魔物の肉には興味があるようで、特に渋ること無く許してくれた。
とはいえ、この広大な異界都市では普通に探していては全く見つかる気がしないので、自分で探すことは早々に諦め探索者ギルドで紹介をしてもらうことにしたのだが……。
「ふーん、魔物の肉を処理するための調理器具一式ねえ、また君たちは変わったことしようとしているわね」
「なんだか随分と嬉しそうですね?」
今、僕達の対応をしてくれているのはお馴染みシェリルさんだ。随分と楽しげにニヤニヤしている。
僕達の番になるまでは別の職員が対応していたのだが、僕達がいることに気付いたのか、番になると無理やり替わってしまった。まあ何とも自由な女性である。本来の仕事とかは無いのだろうか?
先日の僕達に興味がある宣言はどうも冗談やリップサービスなどではなく本気だったようだ。
「それはそうよ、魔物の肉を処理するのはもうそれだけで一つの商売になるほどなのよ。魔物ごとに手順は違うし、腐りやすいから早めに処理しないといけないし、かなりの腕が必要なのよ?」
「ま、まあ人間どんなところに適性があるか分かりませんから。自分たちで処理する探索者だって居ないわけではないですよね?」
「いないわけじゃないけど探索中に最低限の食料を調達するためにやっている人ばかりだし、慣れている魔物しか手を出さないって聞いてるわ。ましてや調理器具一式揃える人なんているわけ無いでしょ」
おう、かなりレアな要求だったようだ。説明しているシェリルさんのテンションはどんどん上がっている。
なんとか穏便に済ませることはできないものだろうか……って無理か。
「すみません。私がバーナード様にお願いをしたのです」
「え、バーナード君じゃなくて、アリスちゃんが使うの!? でも、アリスちゃん魔物の肉の処理って結構グロいって聞くわよ? 本当に大丈夫なの?」
「バーナード様においしい食事を食べていただく為であれば、それくらいは大したことではありません」
「……アリスちゃん……よし、そういうことなら調理器具の紹介は私に任せて! 絶対に良い道具を探してみせるわ!」
どうもアリスが処理をするのは意外だったようだ。僕がイメージしている食肉処理のイメージとくらべても更にグロいのだろうか?
しかもアリスの発した《僕のために》ってところがツボに嵌ったようで、ここが受付だということを忘れたように大きな声で快諾してくれた。
お姉さんに任せなさい的なポーズは似合っていますが……いや、紹介だけで良いんですよ?
シェリルさんは散々騒いだ後、僕達に隣の待合で少し待つように言うなり奥に引っ込んでしまった。奥から急かすような声が聞こえているので、絶賛調査中なのだろう。
ただシェリルさんがいなくなったことで、窓口には誰もいなくなってしまったが良かったのだろうか?
しばらく窓口が機能していなかったが、先ほどシェリルさんに無理やり交代させられた職員が、何故か半泣き状態で戻ってきたことで再開されたようだった。
「さあ、お店に行くわよ!」
店を調べ終えたのか、意気揚々とやってきたシェリルさんはそう宣った。いや、だから紹介してくれるだけで良いんですよ?
僕の心の声は届くはずもなく、アリスの手を引くシェリルさんの勢いは止まることは無かった。
それにしてもアリスがこういう時に「消しますか?」とか物騒なことを言わないところを見ると、シェリルさんのことはわりと好ましく思っているということなのだろうか?
まあ確かに悪い人では無さそうだけど、一応魔術師側の人間なので注意はしておくに越したことはない。……今のところは様子見だろうか。
シェリルさんに案内されること数十分、途中何度か寄り道をしながらも、目的のお店に到着することができた。
絶対に仕事の領分超えているよね。
――お店に入るとそこには確かに一般の調理器具とは様子の違う道具が置かれていた。
最新という札のついているところを見ると、これは……最新古典魔導具だ。古いのに新しいとはこれ如何に。
と、まあ冗談はおいておくとして、なぜ魔物の肉を処理する道具が他の調理器具と一緒に扱われていないのか非常に疑問だったのだが、最近では血抜きとか切り分けとか毒抜きとかそれぞれの工程毎に専用の魔導具が用意されているようだ。
昔は完全に作業者の腕だよりだったのが、道具も改善されてきているのだ。時代が変われば常識も変わるものである。
流石に全部を買うわけにはいかないので、基本となりそうな物を見繕って購入することにした。
……シェリルさんが金額交渉をしてくれているうちにお店の古典魔導具は全部スキャンできたので、アリスが慣れてきたら少しずつ改造していくことにしよう。
「今日はありがとうございました」
「いやいや良いのよ、今日は楽しかったわ。また面白いことやるときは私に教えてね」
ウインクを交えながらアピールするシェリルさん。いやそれはどうだろうか、わざわざ教えなくても目ざとく見つけてきそうな気がするよ。
でも、今日は確かに助かったので今度何かお礼をしないといけないかもしれないかな。
宿に戻った僕たちは、早速購入した調理器具の具合を確かめるために厨房を借りることにした。
今日処理をするのは昨日持ち帰っておいたシャロー・フォレスト・ウルフである。
アリスは目を閉じて魔道具を使うイメージを頭に描きながら手を数度動かしていたが、一つ大きく頷くと目を開けて処理を始めた。
初めて魔物の肉の処理を行うとは思えないような流れる手つきで、手際よく作業を行っていった。
まるで熟練の技だが、アリスに聞くと実はセントラルのサポートを利用しているとのことだった。
数分後には全ての工程を終え、目の前には見事に処理された肉が輝きを放っていた。
「これって生でも食べられるのかな?」
「シャロー・フォレスト・ウルフの肉は生食には向かないようです。焼いて食べるのが一番美味しいらしいです」
そう言いながら、肉をスライスして厨房のコンロの上で熱しておいたフライパンに乗せ始める。
すると非常に香ばしい香りが厨房を満たしていくのが、僕のような素人でもよく分かった。
少し赤みが残った状態の肉に塩と胡椒を振りかけると、皿に取り僕の目の前に置いてくれた。
「魔物の肉を料理するのは初めてなのですが、お味はいかがでしょうか?」
あの凶悪な魔物がこれほどまでに綺麗な色合いに変わるとは……、肉を箸でつまみそのまま口の中に入れ一噛みする。
その瞬間にこれまで味わったことのないレベルの繊細かつ濃厚な味が口の中に広がっていく。
「これは……すごいよ! こんなに美味しい肉は初めて食べたよ。これまで食べたことのある魔物の肉よりも全然美味しい!」
「良かった、頑張ったかいがありました! シェリルさんに感謝ですっ」
「そうだね、シェリルさんには今度料理をごちそうするのも良いかもしれないね」
確かにアリスの言うとおりシェリルさんには本当に感謝しないといけないな。調理魔導具のおかげで肉の味も素晴らしかったが、アリスの喜びもこれまでにみたことのない程だった……。
こんなに可愛い子が満面の笑顔で喜んでくれるのは男冥利に尽きるというものだなぁ。ジークだったら一撃でノックダウン間違いなしだろう。
食べ物の表現は違和感なく書けてるのかなぁ。
初めてなので心配です。
食事テロする予定は無いので過剰な描写は避けています。




