洗礼
ブックマークが100越えました☆
ポータルを抜けると、そこは石のようなもので作られた構造物の中だった。
部屋の中は暗いものの壁にはいくつか松明が焚かれており、なんとか周りを見ることはできそうだ。
「何かの建物の中……でしょうか? いえ、外の明かりが見えないから地下の可能性もあるかもしれませんね」
「そうだね、現在位置は……やはりわからないか、ひとまず現在位置をマークしておこう」
アリスの言うとおり現在の位置からでは外の明かりが見えないので、ここが地上なのか地下なのかそれすらも判断がつかない。
壁を触ってみるが素材は見たとおり石で出来ているようだが、何かの遺跡か何かだろうか?
部屋の中には金属製の扉が二つあるが、どちらに進むべきだろうか?
「く、暗えな……」
「壁の灯りがあるでしょう……、これくらいなら我慢しなさいな。アリスちゃんに笑われるわよ?」
「お、おおお俺は別に怖がってなんかねぇよ!」
ジークとエリーシャも入ってきたようだ、異界に入って早々、漫才のようなやり取りをしている。もう緊張感が無くなってしまったのか……。
「二人ともふざけてないで気を引き締めて、ここが異界ってことを忘れないでね」
「おっと、ごめんなさい。ジーク見てるとつい……ね、ってあれは何かしら、……矢印?」
エリーシャが指差す方向を見ると片方の扉に薄くだが矢印が書いてあった。こちらに進めということだろうか?
「異界に入ってすぐだからな、迷わねぇように誰かが案内してくれてんじゃねぇか?」
案内か……、現段階では確かに先駆者の誰かが後続のために用意した可能性も否定は出来ないか。
まあ特に今のところは疑うには材料が足りない。ひとまずは案内通りに進んでも良いだろう。
暫く案内通りに進んだが不思議なことに魔物とは一回も遭遇しなかった。この中は魔物が居ないのだろうか?
案内通りに進み初めて二十分くらいの時間が過ぎた頃、矢印の先に少し大きめな金属の扉が道を塞いでいたが、扉は少しだけ開いていた。
警戒しながら中を覗いてみると、扉の向こうは少し広めの部屋になっているようで、部屋の中央辺りに祭壇のようなものが設置されていた。
「祭壇のようなものが見えるね。あとは……よく見えないんだけど、行き止まりに見える」
「これは流石に不自然じゃないかしら?」
「なんだぁ? エリーシャお前もしかしてビビってんじゃねえのか? 祭壇だぜ? 宝があるかも知れねぇだろ」
「確かに矢印通りに進んだ先に祭壇があるのはともかく、行き止まりなのはあまりに不自然です」
「あ、アリスさん! 俺も今、丁度そう言おうと思ってやがりました」
ジークの手のひらクルーは無視するとして、確かにエリーシャやアリスの言うようにこの状況はあからさまに怪しい。
この部屋に入るのは一旦止めておいて、一度最初の部屋に戻りもう片方の扉の先を確認してみるべきだろう。
部屋にはいるのはその後でも遅くはないし、だいたい異界の第一層で矢印通りに進んだような場所に宝などあるわけがない。
本当に宝があったとしても、とっくの昔に誰かが取った後だろう。
「一度最初の場所まで戻――っみんなきた道を全速力で戻れ!」
皆に戻る提案をするために後ろを向こうとした瞬間に、足元が柔らかくなっていることに気付いた。よく見ると壁や床が蠢き始めていた。これはヤバい気がする。
「なんだこりゃ、くそっ戻る道なんて急にわかんねぇよ!」
「大丈夫マッピングはしてる! 僕についてきて!」
モノクルに映る案内に従えば迷うこと無く確実に戻ることができる。この機能はセオドールが発案したナビと言う機能をセントラルに組み込んだものだ。こういう場面で最も有用に動いてくれる。
ジークとエリーシャがはぐれないギリギリの速さで先導しながら来た道をひたすら走る。間に合ってくれよ!
「だ、だめ。そろそろ限界かも……」
「あの先を曲がれば元の部屋までもうすぐだから、もう少しだけ頑張って!」
エリーシャがそろそろ限界に近いようだ。励ましながら角を曲がると最初の部屋の扉を知らない男達が閉めているところだった。ちょっ、お前ら何やってんの!?
「え、閉められた……、どうしてよ!?」
「皆このまま駆け抜けて! 扉は僕がぶち破る!」
そう言うなり皆を突き放して、全速力で扉に突っ込んで扉に蹴りかかる。
「すげぇ速え……が、流石に蹴ったくらいで鉄の扉はぶち破れねぇだろ!?」
ジークの忠告をよそに蹴りが扉に届いた瞬間、靴底と扉の間で爆発が起き、轟音と共に扉を吹き飛ばす。
武器を落としても魔物と戦えるように靴にも色々と手を加えてあるのが幸いした。
そのまま部屋に転がり込み振り返ると、皆もなんとか部屋に戻ることができたようだ。
蠢く通路は口を閉じるように閉まっていった。一体何だったんだ?
「……ま、マジかよ何だその靴は」
「自分に衝撃来ないように調節するの難しかったんだよね」
「いや驚いてるのは、そこじゃねぇよ」
「皆無事みたいだね」
ひとまず全員無事が確認できたので、改めて部屋を見渡すと先ほど扉を閉めた奴らが、吹き飛ばされた扉の下敷きになって気絶していた。
あれ?こいつらは確か僕達が受付でもたついている時に先に入っていったパーティだ。
なんでこんなところにいるのかは分からないので、ひとまず全員縛り上げて意識が戻るのを待つことにした。
「うぅ、い、痛え。何が起きたんだ。ってうわ、お前ら生きてたのか!?」
「それはちょっと聞き捨てならないな。君たちがなぜあんなことをしたのか聞かせてもらおうか? 話す気がないなら何をしてでも聞き出すから覚悟してね」
「そう言われて、はいそうですかって大人しく話すとでも思ってんのか?」
あからさまに妨害してきた上で、ふっとばされて縛られているのにまだ自分の状況が理解できていないようだ。
「……別に話す気がないなら構わないよ、その時は全員殺すだけだから。最初は誰からにする? 君たち僕達を殺そうとしたよね? このまま無事に終わると思うなよ」
「ひっ、ま、待ってくれ。全部話すから勘弁してくれ――」
刃物を喉元に近づけるとようやく現状の立場を理解したようで、その後は容易に聞き出すことができた。
なんでもこいつらは、天獄塔の異界に入ったばかりの新人を罠に嵌めて殺すことを楽しんでいたようだ。
今回も受付に時間がかかっている僕達を見つけて、今回の妨害を企てたようだ。
あの通路は人喰いの通路らしく、奥まで迷い込んだら本来はまず戻ってくることはできないらしい。
万が一戻ってきた時のために、先ほどのように扉を閉めて確実に殺す方法を実行しているそうだ。
ただ流石に扉ごと魔道具で吹き飛ばされたのは想定外だったそうだ。
「――この後の処罰はどうなるのか知らないけど、君たちはギルドに引き渡させてもらうよ。嵌めた相手が悪かったね」
ポータルから受付まで戻り、妨害してきたパーティの所業をギルドに報告し身柄を引き渡したところ、受付の女性職員を凄く驚かせてしまった。
どうも彼らには余罪がある可能性が高いため、後で詳しく取り調べが行われるとのことだった。
取り調べの中で彼らの余罪が明らかになるようであれば、彼らの処刑は確実となり、僕達には凶悪犯の捕縛に協力したということで報酬が出るらしい。これは思わぬ臨時収入になりそうだ。
まったく、それにしても天獄塔の異界入り初日からとんでもない洗礼を受けてしまった。
今回はたまたま被害が無かったから良いが、一歩間違えば全滅していてもおかしくは無い状況だったはずだ。
今後はもっと気をつけて挑まなければならないだろう。
風邪が辛い……。




