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多少の大怪我なら問題ない

 小さな意外性はあったものの、滞りなく一通りの自己紹介が終わったので、本格的に訓練に入ることにする。五人には横一列に並んでもらい、その前に向き合い立つ。


 すると、ランディスが何やら期待を宿した瞳でこちらを見ながら手を上げた。


「ランディス、どうしたの?」


「バーナード兄、訓練ってどんなことをするんだ?」


「んー、そうだね、やはり異界探索において最も重要視されるのは生き残る為の力だね。本来であれば色々な座学を詰め込みたいところだけど、短気訓練としては向いていない。だからせめて皆にはとにかく戦って戦って戦いまくってもらおうと思ってるよ」


「戦うって何と? げっ!? まさかバーナード兄か?」


 げっ、てなんだ。ランディスは僕との訓練を思い出しているのか、顔色が少々悪くなっているようにも見える。でもランディス相手にそこまでひどい訓練を行った記憶はないんだけどなあ。


「まさか、さすがにイネスが混ざっていると僕一人では皆を倒すのに時間がかかりすぎてしまうよ。それに皆を見れない。それではさすがに効率の良い訓練とは――」


「バーナードさん、御言葉ですが私は魔術師です。いくら貴方でも侮り過ぎでは無いでしょうか?」


 ランディスに返す言葉の途中でパリスが納得できないと言った様子で言葉を挟んできた。


 僕としてはイネスと真面目に相対するのは大変なので、できれば御免こうむりたい。それに今言いかけたように、戦いながらでは客観的な視点では見づらい為、全員を見る場合は効率的とはいえない。


 イネスはイネスで、とある問題を抱えてはいるので、一人だけ別訓練というのも考えたが、今後の連携を考えれば一緒に行動をしてもらうべきだろうと思っている。


 パリスは僕が推測した実力を加味した判断に異論を持っているようだ。確かにランディスとイネス以外の実力の程は全くと言っていいほどわからない。


 魔術師は強い。その力に自信を持つのもわからなくはないが、さすがにまだパリスは若すぎると僕はそう思っている。僕自身幾度となく魔術師と相対している経験があるからそれなりに判断は付くつもりだ。


 それに若いということは今後の伸びしろに期待できるということだ。決して侮っているわけではないのだが、なかなか伝わるものでもない、か。それも含んで若さなのだろう。


「私よりもそこのイネスさんの方が強い、そう言いたいということですか?」


「それは少し違うかな。少なくとも現状ではランディスとパリスを合わせてもイネスを倒すことは出来ないと思っているよ。いや残りの二人を合わせても厳しいんじゃないかな」


「……バーナードさんの言いたいことはわかりました。でも申し訳ありませんが、やはり私は納得しきれません。ご迷惑でなければ一度イネスさんと手合わせさせてもらっても良いでしょうか?」


 まあ迷惑っちゃあ迷惑だが、それが一番わかり易いのも事実だ。そう思いイネスへと視線を向ける。僕が見ることを予想していたのか、既にこちらを見つめていたイネスと目が合う。その表情は既に答えが決まっているように見えた。


「……イネスがそれで良ければ」


「はい、私は構いません」


 今はイネスの言葉に甘えてしまおうか。イネスがその気になっているのであれば何の問題もない。


 アイテムポーチから時間計測用の魔道具を取り出して地面に置く。そして魔道具を起動すると上面から薄っすらと光を放ち、中空に砂時計のようなものが浮かび上がる。


「それじゃあ、勝負は相手に降参させれた方の勝ち。時間制限はこれが落ちきるまで。多少の大怪我なら問題ないけど、もちろん命のやり取りは行わないようにね。危なそうなら止めるから」


「もちろんです」


「……多少の大怪我ってなんだよ」


「はい、そこ黙ってようねー」


 パリスが冷静に返事をする中、ランディスがちゃちゃを入れてくる。さすがに死なれてはどうにもならないが、腕の一本や二本程度であれば十分に回復が可能なのでどうしてもこういう言い方になってしまう。


「開始時の間合いは、……パリスが決めていいよ。あ、でも最大でもこの広場は越えないでね」


「そんな卑怯な真似はしません。ただ私は魔術師なのでそれなりに距離はいただきたいです。……そうですね、魔術師同士の決闘と同じ距離でお願いします」


 決闘って言うとフィリップ副司祭と戦ったときの距離かな。まあこの広場なら十分だろう。




 互いの了承を受けたので、暫定的ではあるが広場の各所に結界用の魔道具を配置して、あまり周りに危害が及ばないように対処を行う。その様子を見て他のスタッフたちも気になったようで、少人数ながらも野次馬のようになっていた。


 間合いを置いて向き合う二人。双方自然体で余計な力は入っていないようなので、十分に実力を発揮できるだろうと思われる。


 そして、最初に動いたのはパリスだった。


「まずは小手調べです!」


 そう言ってパリスが右手を前に出すと手のひらから赤い火が発生し、そのまま規則正しく流れを作る。そしてあっという間に一つの火球が生まれた。


 発生した火球は射出されるなり、ものすごい勢いでイネスの元へと軌跡を描く。対するイネスは左手を前に出しながら引くように半身をずらす。そして着弾間際、イネスが火球に手を添えて――


 爆発するかと思われた火球はイネスの体の周りを一周した後、その勢いを数割増してパリスに向かって射出された。


「へ!?」


 パリスが目を大きく見開き妙な声を上げる。想定外の自体に慌てるも咄嗟に目の前へ障壁を張り、火球の直撃を防いだ。


「い、一体何が起きたの!?」


「……言いましたよ。武術を嗜んでいる、と」


「いやいやいや、それって武術って言うのかなー!?」


 パリスだけではなく、他の者達も目の前で起きた不可解な事象に首を傾げている。特にヴォルフガングの反応は口調が崩れていた。


 遠い過去セオドールから聞いた合気道もしくは合気柔術のコンセプト。その詳細は知らないが基本は相手の力を利用して相手を制する事、それを元に再構成した新たな武術、ミヤハラ流合気術。


 セオドールがでっち上げたツカモト流合気術に対抗する形で生まれたソレは、実を言えば純粋な武術ではない。ディアナの忍術に近い性質を持っている。


 あの時点では実現が困難であると判断をしたが、今はそうではない。共同研究で作り上げたセントラル、そしてセオドールがその生涯において最後に確立した実用レベルのホムンクルス錬成。あの時に足りなかったピースはついに揃ったのだ。


 相手の攻撃によるエネルギーをセントラルにより分析し歪曲、その演算結果をダイレクトにトレースすることが可能なホムンクルスだからこそ実現できたものだ。


 あの時セオドールは相手の力を利用すると言っていた。つまり相手が行使する魔術も例外ではないということだ。少々苦労したが今のイネスの動きを見て想定通りの結果が出たことに満足を覚える。


 僕とは反対に想定外の出来事に慌てたであろうパリスは、その場にとどまることを止めイネスを撹乱するために動き始めた。


 移動しながらの魔術は正確にイネスの元へと到達する。その練度は十分に高い。……しかし、それでは足りない。


 受けに徹するイネスが身に降りかかる魔術の数々に手を添えると、初弾のやり取りと既視感のある光景が繰り広げられる。


 次第に焦れてきたのか、パリスは足を止めて一度全ての魔術を消し去った。


「それならこれはどう!?」


 両手を使い自身の胸の前辺りに魔力の流れを作り出す。次第にその魔力は収束していき、ついには水の球が生まれる。そして次の瞬間、高圧縮された水流が光のごとく一筋の軌跡を描いた。


セオドールの斜め上を行くバーナード

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