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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市炎上編

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天獄塔・第十九層へ

 皆が静かな怒りを胸に秘めている事が十分に伝わったのだろう。ジークは弱ったヤギのごとく足を震わせながら立ち尽くしている。


 ジークは自分の目の前に三人の女性が寄ってきたことで観念をしたのか、流れるような動作で正座をし始めると深々と頭を下げて額を地面につけた。お馴染みになりつつある、ザ・土下座である。


 その所作は流れるように行われていて、非常に洗練されていた。

 一体誰がジークに指導したのかは皆目検討がつかないが、きっとその指導者が素晴らしいのだろう。ごめん嘘、教えたのはもちろん僕だ。


 ジークが諦めて素直に受け入れる体勢を作ったので、そのままほぼ全会一致状態で、ジークに対する説教大会が開かれると思われた。


 ――のだが、直後に起こった変化に皆が目を奪われた為、説教大会は延期することとなった。


 突如、上層に向かうポータルが設置されているであろう小型の建造物が地面からせり出してきたのだ。……土下座状態のジークの下から。


 少しの間、呆気に取られてしまった女性陣は、我に返ると顔を合わせて堪えきれなくなり笑い出してしまう。

 それによって場の空気が変わってしまったことで、本来やらなければいけないことを思い出した女性陣はガーディアンからの素材の回収を始めることとなった。


 僕も素材の回収を行おうと思って近づいたところアリスにやんわりと断られてしまったため、手持ち無沙汰な状態で仕方なく目の前の建造物を眺めながら思案にふけることにした




 ……先ほどのガーディアン戦でジークが見せた気の操作は、実に見事なものだったと思う。あれで狂える血鬼の面が無くても使えていれば完璧だったと言っても良いだろう。


 なぜジークは気の操作に狂える血鬼の面を必要としたのか?

 それは素材回収中にマリナさんがジークに聞いたことで、実際にジークの口から語られることとなった。


「訓練中ずっとあの仮面を被ってたんだよ。まさか発動のキーアイテムになっちまうとは思ってもいなかったぜ。早く仮面無しで使えるようにならねえとな」


「まあ、でもあれも有りじゃないかな。目が光って格好良かったよ。周りが暗かったら光の残像が更に映えそうだよね」


「え、マジか!? 自分じゃ全然気が付かなかったぜ。見てみてえな……ってどうやりゃ見れるんだ?」


 ジークの口ぶりからすると目が光っていることは仮面の装着者側からは見ることが出来ないということか?

 少しの間ジークは首を傾げて唸っていたが、結局良い案が思い浮かばなかったようで、考えることを諦めてしまった。


「見るだけなら僕が仮面つければ良いんじゃないかな」


「それだ!」


 出来ることならば、それくらいはジーク自身に思いついて欲しかったわけなんだが、……まあそれほど重要なことでもないし問題はない。


 喜びの表情を浮かべるジークから狂える血鬼の面を受け取り、そのまま仮面を装着し気の操作を始める。


「おおぉ! おぉ? ああ、……うん」


 ……あれ?


「あれ、光ってなかった?」


「いや、ちゃんと光ってたぜ。でも、まあうん」


 別に光っていなかったわけでは内容だが、僕がジークに期待していた反応とは異なっていた。格好良いと思うんだけどなぁ。まあ、それに関しては良いか。


 話を元に戻すと、ジークは訓練中に仮面を被っていた。そのせいで仮面有りきの感覚を身につけてしまったというわけだ。

 本人は仮面なしで気の操作ができるように練習を続けるつもりのようだ。




 それから少し経って、ガーディアンからの素材回収が終わり上層へのポータルへ入るため、各自荷物の点検を始めている。

 とは言っても休憩時に出した小物の整理くらいなので、皆滞り無く準備が終わり小型の建造物の前に集合した。


「それじゃあ、扉をあけるよ」


 皆が頷くのを確認して、扉に向き直り手を添える。少しだけ力を入れると扉は手前に動き、両開きに開いていく。


 扉が開ききった先は下り階段になっていた。

 建造物を外側から見た通り、やはり中も狭いようで階段を下りるのに無用な緊張を強いられてしまった。

 階段は一直線に長く続いている上に、手すりもなければ途中の踊り場もない。これで緊張をするなという方が無理な相談である。


 こういう小さな嫌がらせの積み重ねはブレること無く続けられている印象が強い。……いつか絶対にぶん殴ってやるからな。


 無駄に長い階段を降りきった先は、これまた小さな空間になっており、その中央には上層につながっているであろうポータルがぽつんと一つだけ設置されていた。


「また随分と殺風景ですね」


 アリスのつぶやきに皆つられるように同意をしながら何の気なしに部屋の中を見ている。


「まあ、この移動するためだけの部屋が豪華だったほうがイラつくと思うから、これくらいの方が精神衛生上は良いのかもしれないね」


「あー、それは確かにそうね。まあ、どっちにしても趣味が悪いのは間違いないけど」


 僕の意見にマリナさんも少々呆れ気味な態度を保ったまま同意してくれた。……でも、クローツ教の信者としては感心しておいたほうが良いと思いますよ。




 ポータルを抜けると、いつもと同じ様に塔のワンフロアに移動していた。


 部屋を見渡した後、近くの壁によりかかり思い思いに休憩を始める。


 普段であればここで探索を終了し外に出て仕切りなおすところだ。しかし今回はもう一つ上の階層も踏破する予定なので、ここで気を抜いてしまわないように外には出ないよう予め皆で決めていたというわけだ。


 少しの間天井を眺めてぼうっとしていると、清涼感のある良い香りが鼻をくすぐる。


 ふと視線を戻すとアリスが皆の分の飲み物を準備しているところだった。


「いい香りだね。これは新しい茶葉?」


「はい、先日シェリルさんにおすそ分けしてもらいました」


 さすがはシェリルさんだな。相変わらず高そうだが良い趣味をしていると思う。

 実際にこのような場所で飲むことは、まったく想定はしていなかったと思う。しかしながらこの場でアリスがこれを選択したのもさすがだと言っていいだろう。


 周りに目をやると、皆の視線が香りに惹かれるようにアリスの手元に向かっていた。


「バーナード様、お飲み物の準備ができました。皆さんも一緒にどうぞ」


 そう言ってアリスは慣れた所作でティーカップを皆に配っていく。


 床に座ってティーカップを持つ光景は、傍目に相当な違和感を与える事は想像に難くないが、この場を誰かが見ているわけでもないので気にはしないようにしよう。




 一服し終えたので、休憩を終えて第十九層の探索を始めるため上層へのポータルをくぐる。


 ポータルを抜けた先は先程まで探索をしていた第十八層と似て岩石地帯となっていた。先程までと決定的に違う部分といえば、あちこちに水辺が存在するところだろうか。


 新しい階層の探索なので、まず最初にすることはお決まりのあれである。


 アイテムポーチから未踏地形探索魔道具を取り出して起動させる。マリナさんも前回のように大きく驚くようなことはなく平静を装っている。……でも起動の瞬間ビクッとなったのは見逃さなかったからね。


 未踏地形探索魔道具を起動したので、地形情報がある程度集まるまで、ひとまずポータル近辺の探索を行うことにした。


 この階層にはどのような魔物が存在するのか、少々気になっていたが、概ね予想していた通りの組み合わせだった。


《レアアース・エレメンタル》

《カーボネーテッドウォーター・エレメンタル》


 ……炭酸水?


 レアアース・エレメンタルは下層にも出現したので目新しさは無いが、もう一方のカーボネーテッドウォーター・エレメンタルは中々特徴的な見た目をしている。


 通常のウォーター・エレメンタルであれば透き通るような水で構成されているのだが、カーボネーテッドウォーター・エレメンタルはその名の通り、身体を構成している液体からは気体がシュワシュワと噴き出している。


 こいつの素材を上手く加工すれば昔セオドールに作ってもらったものよりも美味しい炭酸ジュースを作れるかもしれないな。


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