「たかが」のリレー
1人の青年が、パソコンの画面を見つめていました。
そこには、ネットで連載されていた小説が盗作か否かで大揉めになっているコミュニティの様子が映し出されていました。
それを見て、彼は呟きました。
「たかが小説で何をやってるんだか、この連中は……」
そして、彼は画面をサッカーの試合チケットの購入ページへと移しました。
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1人の女性が、テレビ画面を見つめていました。
そこには、サッカーの試合でサポーターたちが喧嘩になり、若者たちが警告を受けたというニュースが映し出されていました。
それを見て、彼女は呆れながら言いました。
「たかがサッカーで何をやってるのかしらねぇ……」
そして、彼女はテレビの画面を消し、夫を迎えるために料理を作る事にしました。
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1人の男性が、新聞を見つめていました。
そこには、料理の具を巡って口論になり、大喧嘩になってしまった夫婦の話が書かれていました。
それを見て、彼は情けなく思いました。
「たかが料理だろ?何をやってんだよ……」
そして、彼はその事を忘れるかのように仕事に精を出し始めました。
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1人の会社の社長が、届いたメールを見つめていました。
そこには、とある会社の社員たちが賃上げに関して幹部と激突した結果、ストライキに突入してしまったとの旨が書いてありました。
それを見て、社長は誰にも気づかれないよう心の中で呟きました。
(全く、たかが安い給料を巡って何をやっているのだか……)
そして、社長は改めて、会社の新規プロジェクトをどう進めていくか、考え始めました。
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1人の偉い議員が、昨日届いた書籍を見つめていました。
そこには、とある社長が社運をかけたプロジェクトに失敗した挙句、弟と大揉めになったと言うエピソードが書かれていました。
それを見て、議員は言いました。
「たかがプロジェクトで喧嘩するとは、何をやっているんだこの兄弟は……」
そして、議員はこんな阿呆な連中のようにはならない、と心に誓い、議会へと向かいました。
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1人の大企業の会長が、先程届いた速報を見つめていました。
そこには、とある偉い議員が裏金を使っていたことがばれて逮捕されたという内容が書かれていました。
それを見て、会長は言いました。
「たかが自分の権力誇示で、何をやっているんですかねぇ~、この方は」
そして、情けない連中には付き合っていられないとばかりに、会長は席を離れました。
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1人の大きな国の大統領が、秘書から貰った書類を見つめていました。
そこには、とある大企業が倒産し、大量の社員が路頭に暮れる事態になっている、と書かれていました。
それを見て、大統領は言いました。
「ふん、たかが1つの企業の倒産で、何を騒いでいるのやら……」
そして、彼はそのままもっと国の経済力を増す政策を行うよう、部下に命令するための書類作りにかかり始めました。
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1人の青年がパソコンの画面を、1人の女性がテレビ画面を、1人の男性が新聞を、1人の会社の社長が大画面のテレビを、1人の元・偉い議員が牢屋の中で新聞を、1人の元・大企業の会長がゴミ箱の中から見つけた雑誌を見つめていました。
それら全てに、とある大きな国が領土を巡る対立の末、戦争を始めてしまった、と言う内容が書かれていました。
それを見て、全員とも同じ感想を抱きました。
「「「「「「たかがちっぽけな土地のために、何をやっているんだか……」」」」」」」
ですが、その内容には続きがありました。
この戦争によって、世界中が深刻な経済危機に陥り始めた、と言う……。