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あなたと生きたい

作者: 鷹公
掲載日:2013/12/16

仕事を通じて感じたことを、そのまま文章にしました。いろいろな観点から、ひとつずつの大切な単語を拾っていただけたらと思います。

悔いの無い死に方だったと、私は胸を張って言える。


死因は、癌だった。

気が付いた時には、すでに末期状態だった。

もう、どうすることも出来なかった。


しばらくは病院で治療を受けていたが、

どうせ治るものではない。

わずかな生きる可能性に賭けるよりも、

私は家族と過ごす時間を大事にしたいと思った。


しかし家族にかかる負担は大きなものだ。

とても言い出せなかった。

そんな私を見た妻が言った。

「私もあなたと最期まで生きていたい」

私は迷惑をかけることを覚悟で、家に帰った。


一人息子の大樹は、私の病気の事を理解していた。

ベッドから動けない私を、しっかり支えてくれた。

妻にも負担をかけないよう、学校から帰ったら家事を手伝った。


妻は仕事を辞めた。

私の看護をするために、24時間私につきっきりになった。

わずかな貯金を崩しながら、治療と生活にお金をかけた。

足りなくなれば借金をした。

「あなたの生命保険で返せるから」

笑って言ったことが、妻の覚悟を物語っていた。


余命1ヶ月。もうすぐクリスマスがやってくる。

私は温かな布団の中から、綺麗な星空を見上げていた。

妻の顔は疲労を隠せないものの、それでもなお笑顔は絶やさなかった。

私には家族に残してやれるものがない。

手が震えて、手紙を書くことすら出来ない。

掠れる声で、毎日妻と大樹に「ありがとう」を伝えた。


自分の死期が近付いていることがわかる。

もう目を開けることすら、力を振り絞らなくてはいけない。

食事も喉を通らず、ほとんど水分だけで過ごす日々。

それでも妻は私に笑顔を向けた。

「あなたはいつでも素敵だわ」

やせこけた私の頬に触れながら、涙をこらえる妻を愛おしく思った。


今日の空は曇っている。

自分の心を見ているようで、少し辛かった。

妻にカーテンを閉めてもらうよう頼むと、妻は笑顔で言った。

「大樹ったら変なのよ?年越し蕎麦は自分で作りたいんですって」

修学旅行で行った蕎麦屋さんで体験したらしい。

空気のような声で、私も返事をした。

「蕎麦湯も残しておいてくれよ」

妻は満面の笑みで頷いた。


今夜は妻に傍にいて欲しい。

私はもう気付いていた。

麻痺しているはずの全身が痛い。

遠のく意識。

聞こえなくなる音。

呼吸をしているのかすらわからない。


「あなた、外を見て」

ふいに妻がやってきて、カーテンを開けた。

「今年最初の雪が降ったわ」

私は目だけ動かして外を見た。

外はとてもまぶしく見えた。ぼんやりとした私の目に、光がうつる。

去年の雪が降った日は、大樹と雪だるまを作った。

ベタベタの雪だったから、丸く作ることは出来なかった。

でも福笑いのようだと言いながら、私たちははしゃいでいた。

とても楽しかった。

今年もまた大樹と一緒に作れるだろうか。

そんな私たちを見ながら、妻は温かいシチューを作ってくれるだろうか。


「あなた、見える?」

妻が笑顔で私を見た。

「あなた…?」


「お父さん?」

「大樹…」

洗濯物を干し終えた大樹が、動かない二人の姿を見つけて近寄ってくる。

「お母さん…」

この数ヶ月で随分小さくなった肩を、大樹は後ろから抱きしめる。

「お母さん…」

「大樹、見て…お父さん、綺麗な顔してるでしょう」

「うん…笑ってるね」

「そうね…」

そう言って妻は、夫の顔を両手で包んだ。

「最期までお父さんは素敵な人だったわ」

わずかに残る夫の体温を逃さないように、体全体で夫を抱きしめ、妻は息を漏らす。

窓から差し込む雪の光が、まるで行き先を示しているようで。


「ありがとう…あなた」


妻は私に、最後のキスをした。

10年前に亡くなった祖母を振り返り、母と私で看護した時のことを思い出しながら、指の進むままに書き連ねているので、感情が優先するあまり文章が歪んでいるところがあるかもしれません。でも書いた時の気持ちをそのまま残したいので、本文は弄るつもりはありません。

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