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「ああ……」
彼女は目を見開き、感嘆の声をあげた。
「ようやく、追いついてきてくれたのね」
皺に覆われたその頬が、笑みの形に歪む。
「ええ。ずっと、ここで待っていましたよ」
かつては街一番の美女と言われたその瞳が、若い頃と同じように、キラキラとサファイアの様に輝いた。
「……うん。いいの。最後にもう一度、こうして会えたんだから」
老女はゆっくりと、その目を閉じる。
「ええ。……勿論。しあわせでしたとも」
まなじりから涙が溢れ、彼女の頬を伝う。
「行きましょう……あなた」
そう言ったきり。
孤独な彼女の心の臓は、もう二度と脈打つことはなかった。
白い影がさっと駆け、いななく。
無数の花弁が舞い散り、老女の身体をゆっくりと埋め尽くした。